トイデザイナーの野中剛さんと平野暁臣の第2回です。
野中さんの《太陽の塔のロボ》に対する思いと、
その発想の秘密についてお聞きしました!
ビジネスマン必読ですよ!
〈前回までは〉
①「ギエー!」って鳴く声とか、聞こえてきたんです。
太郎さんは超古代文明人の生き残りで、
1911年までは冷凍カプセルに・・・
平野: 《太陽の塔のロボ》はこどもでも変形させられるところがいいですよね。
野中: 世間にある変形ロボット玩具って、大きく2つの方向性があるんです。
ひとつは変形後にも元が何であったかわかるもの、
もうひとつは元が何だったのかわからなくなっちゃうまで変形するもの。
平野: ああ、なるほど。
野中:最近は後者のほうがトレンドとして強いような気がします。
平野: そうなんですね。
野中:すごく複雑に変形することによって、
元が車だったかどうかすらわからないようなね。
それでかつ、関節が動いてポーズが取れる変形ロボが、
良しとされている風潮があるんですよ。
平野: でもそれじゃ、こどもは遊べないんじゃないかなぁ。
野中:そう。だから大人が遊ぶための玩具なんですよね。
一方、前者の元ネタがわかる変形ロボっていうのは、
最近は“照れ”があるのか、
「こんなんで変形したと言えるのか?」みたいな感じがあって。
でもぼくはそれで育った世代。
AがBに変形するってことは、
そこを繋ぐ記号がデザインとして残っていた方がいいんじゃないか?
と思うんです。
平野: うん。
野中:だからこの《太陽の塔のロボ》も、
「太陽の塔だ!手足がはえた!」
ってすぐわかるようにつくりたかったっていうのはありますね。
平野: ああ、なるほど。
野中:なので、胴体の筒の奥に完全に隠れていた足が出てくる、
っていう方法もあったかもしれないけれど、
ちょっと裾の部分をカットして、
あえてその部分を靴にすることによって、
裾がそのまま伸びたんだねっていうことがわかる。
ってことは、逆にこの足はここに入ってたんだ!
ってことも想像できるじゃないですか。
そういうつくりにしているつもりなんです。
平野: その話、よくわかる。
野中:そういうデザインの方が楽しくないですか?
さらに言うと《太陽の塔のロボ》は、
ロボっていうより怪獣的っていうか、
イメージ的には、大魔神とかね。
ああいうロボでも怪獣でもないんです。
そういう感じが太陽の塔にはあって。
万博でつくられたものではあるけど、
じつは12000年前からあったんじゃないか?
っていうのがぼくにはあって(笑)。
平野: わかる。
野中:なんて言うんでしょうね、
岡本太郎さんは、超古代文明人の生き残りで・・・
平野: (笑)
野中:1911年までは冷凍カプセルに・・・
平野: (爆笑)
野中:眠ってたんじゃないかって。
古代人の技術やセンスを持ってる人が、
あの人の時代に信仰されていた魔人様をつくったんじゃないのかという、
勝手な脳内ストーリーがあって。
イメージ的にはそんな感じ。
怪獣というより、魔人的なんだと思います。
平野: 太陽の塔でいえば、
メキシコ古代遺跡から発掘された遺物とか、縄文の土偶とかね。
野中:ああ、近いですよね。
平野: 近いでしょ? そういう感じあるんだと思うんですよね。
野中:僕ももともとそういうのが大好きで。
だから太郎さんのつくるものにはものすごくシンパシーを感じる。
ぼくのなかですべて繋がる感じなんですよ。
平野: 野中さんの創造力のルーツなんでしょうね。
野中:そうかもしれないですね。
だってあの時代の造形物って圧倒的にすごいじゃないですか。
なんで弥生時代にあんなにつまんなくなっちゃうの?っていう。
平野: 野中さん、太郎と同じこと言ってる。
同じ成分でできてるんじゃないですか?(笑)
野中:いやいや、おこがましいです。
でもほんとうに、心の底からそう思うんですよ。
ああいうものをつくれる人間になりたい。
自分の中にあるそんな日本人の血がそうさせているのかもしれませんね。
強いて言えばですけどね、ほとんど本能でやってますから。
平野: トイデザイナーとしての野中さんのキャリアって、
超合金からはじまるんですか?
野中:トイデザイナーになるって決意したのは超合金ですね。
ただトイデザイナーって〝夢いっぱい〟な感じがするかもしれませんけど、
実際に僕が長年手がけてきた「キャラクタートイ」と言われるカテゴリーは、
ドス黒いエンターテインメントビジネスと密接に寄り添った世界でもあるわけで(笑)
純粋に〝オモチャ〟って感じでもないです。
たとえば、テレビキャラクターに熱中したこどもたちが
「わー! テレビと同じもの売ってる。これ欲しい!」
「うわ、すごい! テレビと同じように動く!」
って言ってるのを見て、
「そりゃそうだよ。最初からテレビ番組と結託してやってるんだもん」
って言う側面は間違いなくあるわけです。
平野: まさに〝ドス黒いエンターテインメントビジネス〟だね(笑)。
野中:でも、それを知ったときからやりたくなったんです。
平野: え? それを知ってやりたくなった?(笑)
野中:オモチャも好きだし、そういう番組も好きで、
同時にできるのはおもしろいと思って、それをやりたくて。
平野: 《太陽の塔のロボ》にしてもそうだけど、
何か新しいものを提案しようとするとき、
野中さんは発想のきっかけをどこで見つけるんですか?
野中:そうですね。
悲しいかな仕事のときは、
いわゆる世間で流行ってるものを、
「これ、流行ってますよね」ってプレゼンして・・・
平野: ああ、やっぱりそうなんだ。
野中:ただそのときに、
別のおもちゃ会社さんがつくって売れてるものがあってとしても、
それをそのまま真似るわけじゃなくて、
オモチャとは関係ないところで売れてるものを、
たとえば仮面ライダーって素材で料理すると面白くないですか?
とか、そういう考え方ですね。
平野: え? というと?
野中:昔、変身ヒーローは、
ブレスレットで変身していた時代が長いんですよ。
戦隊ヒーローとかは、こう、腕をかざして。
平野: 光ったりとか?
野中:ええ。それって、ベースにあるのは「腕時計」で、
大人への憧れなんですよ。
こどもは基本的に大人が持ってるものに憧れる。
でも当時、腕時計は中学生にならないと買ってもらえないものだった。
お父さんが会社に行くときに腕につけていく機械に憧れてた。
だから、ずっと変身はブレスレットだったんです。
平野: なるほど。
野中:ところが、腕時計が100均でも買える時代になって、
憧れではなくなった。
で、次のアイテムは何かっていうと、携帯電話だったんですよ。
平野: うん。
野中:そうなると当然、
ヒーローが変身する小道具も携帯電話になるんです。
平野: えっ、ケータイで?
野中:仮面ライダーも、
携帯電話に暗証コードを入れてベルトに差すっていう、
そういう時代に突入していくんです。
平野: へえ。知らなかった。
野中:ぼく、最初にヒーローを携帯電話で変身させましたね。
メガレンジャーっていうんですけど。
そのアイテム名が「ケイタイザー」(笑)。
そうやって落とし込んでいくっていうのはありますね。
—
〝ドス黒いエンターテインメントビジネス〟だからこそ、
あえてその身を投じた野中さん!
次回はデザイナーを超越した商品への関わり方についてお聞きします!
野中剛対談③
野中剛(のなかつよし)
日本の玩具デザイナー兼、イラストレーター兼、プランナー。
東京デザイナー学院在学中に、
『テレビマガジン』誌上で『トランスフォーマー』などのイラストを手がけ、
学院卒業後1987年バンダイに入社。男児向け玩具を多く担当する。
2011年から2014年の夏にかけて、
バンダイアメリカにおいてデザイン部門を担当する「PLEX」のヘッドデザイナーとして、
『パワーレンジャーSAMURAI』などの北米向け男児玩具を中心にデザインを担当。
2014年7月末、バンダイを退社後独立。
9月に活動拠点を日本に戻し、
トイデザインのみならずあらゆるコンテンツ制作、デザインワークなどを展開。
Facebookページ https://www.facebook.com/TsuyoshiNonakaZ/
平野暁臣(ひらのあきおみ)
1959年生まれ。岡本太郎が創設した現代芸術研究所を主宰し、
イベントやディスプレイなど“空間メディア”の領域で
多彩なプロデュース活動を行う。
2005年から岡本太郎記念館館長を兼務。
最近では、『「明日の神話」再生プロジェクト』に続いて、
岡本太郎生誕百年事業「TARO100祭」を率いた。
当サイトのエグゼクティブプロデューサーでもある。
野中剛対談② 《太陽の塔のロボ》プロデュース論
:: June 2, 2015
