歌手の一青窈さんとの対談第2回目です。
〈前回までは〉
①これでいいんだって、自信をもつことができたっていうか…。
今回はニューアルバム「ヒトトウタ」について。
なぜカバー集を作られたのかお聞きしました。
基本は愛することなんじゃないかと思います。
平野:それにしても、あの紅白のドレス、ブッ飛んでたなあ。
一青:後にも先にもあんなに芸術的な衣裳、着たことないです。
平野:あれじゃ、着る方にも覚悟が必要ですもんね。そこがカッコよかった。
一青:ありがとうございます。
あのときは、なにか力をいただいているような気がしました。
太郎さんいるから大丈夫、みたいな。はじめての紅白でしたから。
平野:ああ。
一青:もう一度、自分の魂を震わせてくれるアーティストの衣裳を着て歌ってみたいな。
平野:あのとき歌ったのはデビュー曲の「もらい泣き」でしたよね?
一青:そうです。
平野:はじめて「もらい泣き」を聴いたときは衝撃だった。
ガツンと食らったっていうか…。
一青:ガツンと?(笑)
平野:そう。それまで聴いたことのないサウンドだったからです。
まだ若いのに、この人はだれにも似ていない、
自分だけの表現世界をもっているって、とても驚いた。
まだ20代半ばだったんでしょう?
一青:26歳です。
平野:これほどまでのオリジナリティ、アイデンティティを、
この人はどうやって獲得したんだろう?
ってすごく思いましたね。その後に知り合いになって。
一青:はい。
平野:出会ってからもずっと
「この人の中にはなにがあるんだろう?」って思ってました。
一青:(笑)
平野:新譜『ヒトトウタ』を聴かせていただいてまず考えたのは、
なぜ窈さんはオリジナルではなく
あえて他者の歌をカバーしようと思ったんだろうっていうことでした。
一青:ハナミズキがアメリカから送られてきて100年という記念周年なので、
(※1915年にアメリカから日米親善としてハナミズキが日本に届けられて2015年で100年になる)
セルフカバーをやろうという話をいただいたのがきっかけでした。
以前、歌謡曲のカバーはやったことがあるので、今回はポップなことをやりたいと思って。
一巡りしてたどり着いたっていう感じです。
平野:ポップ?
一青:はい。マニアックなことを書いたり、難しい言葉で歌詞を並べたりするのって
高尚に見えるけれど、じつはたくさん人には届かない。
ポップ性って、「なぜかわからないけど面白い」とか
「人を感動させる力」に宿っているような気がして。
平野:うん。
一青:歌詞を書くときに日本語にこだわるとか、英語をなるべく使わないとか、
台湾人とのハーフなので中国語にこだわるとか。
私はそういうこだわりをもって10年以上ずっとやってきたので、
ここでいわゆる名曲と言われているポップスのスタンダードナンバーっていうものに
挑戦してみようと思ったんです。
平野:なるほど。
一青:ありがたいことに「一青窈が歌うと〝一青節〟になるよね」
って言われるんですけど、今回はそれもあえて封じ込めて。
元々のシンガーの方が歌っている歌い方を
忠実に再現するっていうコンセプトでやりました。
平野:それはなぜ?
一青:創作って模倣からはじまるわけでしょう?
その原点に立ち返ってみようと思ったんです。
平野:普通に考えれば、窈さんがもっている世界観を強く打ち出そうとするなら、
カバーよりもオリジナルの方が適しているわけじゃないですか。
合理的だし、効果的でしょ?
一青:そうですね。
平野:なのにあえてカバーにした。
さらに「一青節」まで封印しようと。そこがすごく面白い。
やってることが、誰もが考えることと逆ですからね。
一青:とくに意識したのは大滝詠一さんの『幸せな結末』です。
私は洋楽よりは歌謡とか中国のC-POPSに傾倒していたので、
わりと後の方でこぶしを回すんですね。
演歌もそうですけど、音を伸ばした後で回すんです。
平野:はい。
一青:でも大滝さんの〝ナイアガラサウンド〟のような洋楽的なサウンドは、
前の方でこぶしを回してリズムを出していくんですよね。
歌ってみたら「なるほど! ここで大滝さんみたいに歌うと、
こんなに洋楽サウンドになるんだ!」って、いろんな発見がありました。
平野:自分の表現世界を広げるために新しい課題に挑戦したわけですね?
一青:うーん…、というより、単純に
「この歌はなんでこんなに人に愛されているんだろう?」っていうことを、
自分の肉体を通して知りたかったという方が近いかな。
平野:ああ、なるほど。
一青:このアルバムの中には、
もちろん自分がすごく好きで選んだ歌もあるけれど、
「これをぜひ一青窈に歌ってほしい」とスタッフに薦められた歌もあるんです。
曲は知っていたけど、「ほんとうに私が歌うことに意味があるんだろうか?」
みたいなところを考えさせられました。
平野:いまね、〝一青節〟を封印したって話があったけど…、残念ながら…
一青:出ちゃってます?(笑)
平野:うん、しっかり出ちゃってる。完全なる「一青窈ワールド」です。
一青:(笑)
平野:このアルバムを聴いて、ぼくはカルロス・サンタナを思い出した。
※「カルロス・サンタナ」
ラテン・ロックというジャンルを確立させるなど、
世界の音楽シーンに偉大な業績を残した生きる伝説。
一青:サンタナ? どういうこと?
平野:カルロス・サンタナの音って、5秒聞けば、
「あ、サンタナだ!」ってわかるでしょ?
あの音をほかのギタリストと間違うことはまずありません。
一青:そうですね。
平野:あのサウンドは彼だけのもので、だれも真似できないからです。
いわば独占企業で、ライバルもいなければ競合もない。
一青:はい。
平野:では、同じことを繰り返しているだけなのか、
といえば、けっしてそうじゃありません。
出身はラテン・ロックだけど、ジャズ、フュージョン、ブルース、フォーク…
さまざまなジャンルと共演しています。
それこそマイルス・デイビスからボブ・ディランまでね。
一青:ええ。
平野:でもね、なにをやっても、ぜんぶサンタナなんです。
けっしてひとりだけ浮いてるわけじゃありません。
相手のフィールドできちんと闘っている。
アウェーの音楽に溶け込んでいるんだけど、
それでもやっぱりサンタナなんですよ。
ギリギリのところで個性をキープしているところがすごい。
窈さんにも同じにおいがするんです。
一青:そうですか(笑)。
平野:うん。それってどこから来るんだろう?
一青:やっぱり基本は愛することなんじゃないかと思います。
じつはこのアルバムの制作をはじめる前によく聴いていたのが、
トニーニョ・オルタっていうギタリストで歌手の方なんです。
※「トニーニョ・オルタ」
ブラジリアン・コンテンポラリー・ギタリスト/シンガー・ソングライターで
そのギター奏法には多くのミュージシャンが影響を受けている。
平野:はい。
一青:アントニオ・カルロス・ジョビンをカバーしているアルバムがあるんですけど、
それを聴いたときに、ここまで曲を愛せて消化できて
自分のものとして出せたらカバーアルバムって成功だなって思って。
そこに1ミリでも近づけたらいいなと思いながら、歌いました。
—
次回はさらに一青窈さんの世界観について踏み込みます。
お楽しみに。
一青窈対談③
一青窈
東京都出身。
台湾人の父と日本人の母の間に生まれ、
幼少期を台北で過ごす。
2002年、シングル「もらい泣き」でデビュー。
5枚目のシングル「ハナミズキ」、
そして初のベストアルバム「BESTYO」が大ヒットを記録。
ガイド本や詩集などの書籍の執筆や、
音楽劇や映画で主演をつとめるなど、
歌手の枠にとらわれず活動の幅を広げている。
2015年末公開予定の映画「はなちゃんのみそ汁」への出演、
主題歌担当も決定している。
オフィシャルHP http://www.hitotoyo.jp/
○新譜情報
カバーアルバム
「ヒトトウタ」
2015年7月29日発売
<通常盤>
CD 11曲入
¥3,000(税抜)
UPCH-20398
<初回限定盤>
CD 11曲入+DVD
¥4,200(税抜)
UPCH-29192
(DVDには 「一青窈 TOUR 2014-2015 ~私重奏~」
2015.2.28 TOUR FINAL @ EX THEATER ROPPONGI ライブ映像 10曲収録)
<CD収録曲>
1.ハナミズキ (一青窈 初のセルフカバー)
2.幸せな結末 (大滝詠一)
3.たしかなこと (小田和正)
4.Everything (MISIA)
5.アイ (秦 基博)
6.ジュリアン (PRINCESS PRINCESS)
7.瑠璃色の地球(松田聖子)
8.糸 (中島みゆき)
9.ロマン (玉置浩二)
10.青春の影 (チューリップ)
Bonus Track 四照花(ハナミズキ Chinese Ver.)
<配信>
iTunes Music Store: http://po.st/ithitotouta
レコチョク: http://po.st/recohitotouta
一青窈対談➁ “一青節”の作り方
:: August 10, 2015
