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敏子のエッセイ⑥アイゴー「激情表現にも文化」

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今回の「満月日記」は、
感極まった時にあなたなら堪える?
それとも泣き叫ぶ?
そんな「感情表現」について。

南北朝鮮の離散家族が半世紀ぶりで相逢う、
その様子をテレビも新聞も大々的に伝えた。

男も女も抱きあって「アイゴー」「アイゴー」と、
ここを先途、大声をあげて号泣する。

私は1964年、まだ戒厳令下の韓国に旅行したことがある。
冷え冷えとけわしい、冷戦下の最前線の緊張があった。

まだ風土は荒れ、
同胞が殺しあった酷(むご)い内戦の傷は、
人々の表情に重い仮面となって貼りついていた。

それから長い年月。
38度線で引き裂かれたまま、
いつ逢えるという望みもなく、
消息を伝えるすべもなく、
ひらすらお互いの身を案じていた親子、夫婦、兄弟姉妹。

国際政治の変化、思いがけぬ成り行きから、
こうして再会できるとは。

……お互いに、年をとったろう。
抱きあって泣く、その姿に戦火と、経てきた50年の人生が重なる。

胸の痛みをおさえて見つづけながら、
ふと、パリで会ったある韓国人の芸術家の言葉がよみがえってきた。

秀麗な、いい仕事をしている人だったが、
「われわれの同胞が、何かというと人前で、
まるで見せびらかすように、大声で泣きわめく。
あれを見ると恥ずかしくて、実をしぼられるような思いがする」

その人の何とも言えぬ苦い表情が身に迫ってきた。
彼はこうも言った。

「ベトナム人は、どんな苦痛の中で死ぬときでも、
黙って死ぬじゃありませんか」

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その頃はベトナム戦争たけなわの時で、
敵と疑われた民衆が後ろ手に縛られ、
引き据えられて蹴飛ばされたり撲(なぐ)られたり、
ひどい目にあわされている写真や映像をよく目にした。

ガソリンをかぶって焼身自殺する僧の衝撃的な映像もあった。

いままさに死に直面している、苦痛も極限だろう、
そういう時でもベトナム人の人たちは黙って、
静かな表情を変えない。

みんなやせて、細っこい身体つきで、
強そうに見えないのだが、
じっと拷問者をみつめている。

離散家族の再会の感動のシーンに水をさすつもりはないのだが、
たぎる思い、激情の表現にも、文化・伝統が反映する。

無邪気に、ストレートにそれに乗れる人と、
抵抗を覚える人がいる。
どちらがいい、悪いの問題ではない。

伝統や習慣に対しての複雑な思い、
それに挑み、改革しようとする立場、あるいは美意識から。

日本でも昔の武士は死に臨んで泣き声をあげるなんて、
とんでもない恥だと思ったろうし、
男は3日に1度、唇の端をふっとゆがめる程度に笑えば、
それで十分だともいう。

女でも、自害する時は膝を縛って裾が乱れないようにして、
「ムッ」と一突き、声も立てずに死ぬのが美しいとされた。

そのくせ、光源氏なんて美丈夫の大臣(おとど)のくせに
しょちゅう泣いているし、文化というものは複雑多様。
だからすばらしい。



いかがでしたか?
感情表現」については勿論のこと、
いま読むと、いかに戦争が無意味なものか、
考えさせるエッセイでもありますね。
皆さんはどのように読まれたでしょうか。

次回は閉館してしまった「こどもの城」の、
《こどもの樹》についてのエッセイです。
お楽しみに。

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