ヒップホップ界をリードするラッパー ダースレイダーさんの対談、
最終回は「岡本太郎とラップ」についてお聞きします。
〈前回までは〉
①「シェイクスピアが元祖ラッパーだ」なんていう人もいるくらいで。
②ある意味「ぶっ壊しちまえ!」みたいなね(笑)。
③留守電に自分のラップを吹き込んで、練習したりね。
④向こうのヤツらが納得するような表現をどうやってつくるのか?
⑤アメリカ意識は相当薄まっていますけどね。
⑥いまは休み時間に廊下でみんな一緒にやってますからね。
「芸術は爆発だ!」っていうのも、パンチラインですよ。
-あの、ちょっとは太郎の話題も(笑)
平野:あ、そうね。
でも、きょうは太郎の話なんてしなくていいやって思えるくらい、
ラップの話がおもしろいからね。
-でもダースさんはラップに太郎さんのことを言及されているんですよね?
平野:そうなの?
ダース:ぼくは、どちらかといえば、
画家っていうより著作を先にイメージする世代なんですね。
平野:ああ、そうでしょうね。
ダース:太郎さんって、言葉使いとか、
しゃべりのリズム、グルーヴが、ラップ的なダイナミズムがあるなと。
平野:(爆笑)
ダース:言い切り方とかもそうですけど、
ラップではパンチの効いた決め台詞というか、そういう表現が大切なんです。
〝パンチライン〟って言うんですけどね。
岡本太郎さんの本を読むと、それが頻出するっていうか。
平野:パンチライン?
ぜんぜんイメージがわかないんですけど、たとえばどんな?
ダース:有名な「芸術は爆発だ!」っていうのも、
パンチラインですよ。ラッパーで言うところの。
ラップの場合では韻を踏んでいって、
落としどころで、それをポンと言うと決まる。
平野:ああ、なるほど。
決めどころでバシッと決めるっていうイメージですね。
ダース:(リズムに乗せて)
「誰かが描いた策略か? 誰かがどこで活躍だ?
関係ねぇ、芸術は爆発だ!」みたいな。
平野:おお、なるほど!
ダース:もちろん太郎さんは
ラップって意識でやってるわけではないと思うけど(笑)、
言葉の強さとか言葉にパワーを込めるっていう
ラッパーがやるべき作業をきっちりやってます。
平野:そうなんだ!
ダース:普通にみんなが使っている言葉に、もう一個、意味を重ねたり、
イマジネーションを広げるような仕掛けを入れたりっていうのが、
すごく参考になるっていうか、読んでいてハッとすることが多いですね。
平野:たとえばどんなのですか?
ダース:ぼくが好きなエピソードで、
太郎さんが宴会かなんかで女性の方と並んで座ってらしたときに、
その女性がトイレに行こうと太郎さんの後を通ろうとして
「ちょっと後ろ、失礼します」って言ったら、
「岡本太郎を乗り越えて行け!」って。
平野:(爆笑)
ダース:これ、すごく好きなんですよ(笑)。
ふつうの単語ひとつ一つが、そういう使い方をすると、
こういう意味になるんだな、みたいな。
平野:太郎の著作を読んで、
岡本ワールドに踏み込んでいこうとする若い人たちがたくさんいるけど、
彼らがどこに惹かれてるかって言うと、語っている内容だけじゃなくて、
その言い方、言い切り方だとぼくは思ってるんです。
太郎のように、自分の言葉にいっさい保険を掛けず、
ズバッと言い切る人って、いまいないでしょ?
ダース:そうですね。
平野:なにしろ太郎って、
「法隆寺は焼けてけっこう」って言っちゃいますからね。
そういう大人が周りにいない。
みんな保身しか考えてないじゃないかって、
いまの若者たちは思っているんじゃないかな。
でも太郎には、先ほどのダースさんの言葉を借りれば、「覚悟」があった。
ダース:ええ。
平野:きっとラッパーも同じなんだろうと思うんです。
言葉に保険かけるようなヤツは、
力もないだろうし、リスペクトもされないでしょう。
決意して、覚悟して、すべてオレが引き受ける!と宣言する。
きっとそれがラッパーの価値なんじゃないかな。
ダース:吐いた唾を飲むんじゃないぞっていう考え方は、
ラッパーの美学にはなっていますよね。
平野:ああ、やっぱり。
ダース:それも極端な例でいうと、
ぼくがいまやってる「鎖グループ」っていう会社は、もう一人の社長が
〝漢〟ってラッパーなんですけど。不良っていうかハードコアなヤツで。
平野:(笑)
ダース:ヤツらには「リアルルール」っていうのがあって、
ラップで言ったことは現実でなければならないっていうルールなんです。
平野:へえ、すごいな。
ダース:ただし一週間の猶予があって、
ラップで言ったことは全部ちゃんと自分でやれ!と。
平野:一週間以内に(笑)。
ダース:いままでやったことを言うのが基本だけど、
もしやってないことを言っちゃった場合は、一週間以内にきっちりそれをやる。
平野:カッコイイね。
ダース:ただそんなルールの中で、仲間の一人がラップバトルで相手に
「オマエを刺してやるよ!」って言っちゃったんです。
そしたら、試合が終わった後に漢が、
「オマエ言っちゃったな~、刺すって言ったけどどうするの?
一週間しかないよ?」って。
平野:笑いごとじゃないね(笑)
ダース:それで「じゃあやってやるよ!」って
相手のところに乗り込んで行って、
「ラップで言ったからオマエのこと刺すから」って言って。
相手も出てきて。
平野:すごい! で、どうなったの?
ダース:けっきょく、またそこでラップバトルになって
ことなきを得たんですけど。
平野:よかった。
ダース:でもそのくらいの覚悟なんですよ。
平野:(笑)
ダース:言っちゃった以上はやらなくちゃいけない。
それってやっぱりなかなか大変なんですよ(笑)。
言葉だから、言おうと思えば何でも言えちゃうし。
平野:うん。
ダース:でもぼくは、
言葉のパワーを得るために言ってるっていうのがわかれば
ストーリーテラーという側面もあるんで、
そこから広がるイマジネーションを自分の物として言ってるなら
嘘もいいかなと。
平野:SFだったらいいっていうか。
ダース:そうですね。
平野:太郎の文章で、みんながグッとくるもうひとつの理由はね、
太郎って人の話もしなければ、人から聞いた話もしないんですよ。
すべて自分の見たもの、考えたこと、自分の中にあるものだけ。
言ってることって、けっきょく、すべて
「オレはこう思う。オレはこうする」なんですね。
それって、いってみればラップの美学でしょう?
ダース:自分の中で、自分の物にしているかどうかですよね。
嘘だろうが、本当だろうが、あくまでこれはオレの言葉だ、
借りた物じゃないっていう。
それが覚悟なのかなって思いますね。
平野:そうですね。
ダース:自分の話をしているかどうか。
そこから表現の強さを獲得しているっていうのはありますね。
平野:なるほど。
ダース:こういう意味でオレは言うんだ!
っていうのがあれば、逆に文法が間違っていてもいいし
単語の綴りが間違っていてもいいと思うんです。
平野:わかる。
ダース:アメリカのラッパーでも、
そんなに単語をちゃんと書けないヤツとかもいるし。
けっこう自分で勝手に。
平野:つくっちゃう?(笑)
ダース:発音をそのまま言葉にしちゃうんです。
THEって綴りを向こうでは「ダ」って発音するから「DA」って書いちゃう。
自分の中で正解だからいいんです。
平野:太郎にも自分だけの言葉ってありますよ。
「ぶつかる」を「ぶっつかる」って言うんです。
日本語としては間違っているけど、太郎は好んで使ってましたね。
ダース:(笑) あと太郎さんの言葉でぼくが好きなのは「いやったらしい」。
これってオリジナルですよね。印象に残ってます。
平野:そうか。じゃあ太郎って、じつはラッパーだったわけだ(笑)。
ダース:そう思いますね。
おそらく岡本太郎は目的至上主義で
その思いが伝わることを選んでいたんだと思うんです。
平野:まさしくそうですね。
ダース:小手先の手段よりも、目的を大切にする。
良い悪いを論じることはなかったんでしょうね。
平野:なかったですね。
その手段が正しいとか正しくないとかを自分の武器にしてるのが
権威主義者だから、
こういう言い方とか正しいとか間違っているとかって言うことで、
そういう存在は否定するんですよね。
ダース:そうですね。
言うだけは楽って言うけど、言うことも行動も全部同じですもんね。
そういった意味ではすごくピュアだったと思います。
平野:ほんとにそうですよ。
太郎は「純度100%の有言実行男」ですからね。
言ったことはそのまま自分でやってるし、やれないことは言わない。
ダース:リアルルールだ!
平野:あ、そうだね! やっぱり太郎はラッパーだったんだ(笑)
ダース:ラッパーとしてはかなり優秀だと思います(笑)
平野:(笑)
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ダースレイダー
日本人のヒップホップ・ミュージシャン/トラックメイカー。
1977年フランス、パリ生れ。
少年期はロンドンで過ごす。東京大学文学部中退。
音楽に傾倒しつつも何も出来ずにいたところをラップと出会い、
独自のFUNK/SOULミュージックとしての、
HIPHOPを追求することになる。
Da.Me.Records主催。
“ファンク入道”や“RAYMOND GREEN”名義でも活動。
98年、MICADELICのメンバーとして活動開始。
2004年の『THE GARAGEFUNK THEORY』を皮切りに、
コンスタントに作品を発表。
『月刊ラップ』編集長を務め、著書も発刊。
音楽愛にあふれたMCにも定評があり、
TV番組ほかさまざまなメディアでマルチに活躍。
2014年に漢a.k.a.GAMIが率いる鎖GROUPに加入、
レーベルBLACKSWANの代表に就任した。
ダースレイダー対談⑦「日本語ラップの過去・現在・未来」
:: October 15, 2015
