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Toshiko's Essay ⑧ Liking it "Gravitation beyond the reason"

敏子のエッセイ⑧虫が好く「理屈を越えた引力」

理事長-多磨霊園

虫が好くというのは面白い。
これという理由もないのに、
何となく親しみを感じて、何でも許してしまいたくなる。
その人を見ると、にこっと笑いたくなる。

価値判断ではないのだ。
きれいな人、才能のある人、何をやらせてもきちんとこなしてくれる人、
世の中にはいくらでも認めるべき人はいるのに、
そういうのではなくて、ただ何となく心のひだになじむ、親しい感じがする。

この反対に何となく嫌な顔というのがある。
俗に虫が好かないというやつ。
こっちの方が普通の言い方だ。
醜いというのではない。
それなりに造作は整っているし、いわゆるいい男、美女の部類に入ると思うのだ。

が、何かこちら側に拒否するものがある。
勿論、人さまの容貂について、そんなことを言うのは不遜だと分かっているし、
抑えようとはしている。
だが、思うようにならないのがこの直観的な判別なのだ。

恐らくコンピユータにはこういう好悪の情はないのだろう。
画像判断はするし、数値にもとづいて価値の評価はしてくれるかもしれない。
だが、そんなもの、人間の生きた情動とは何の関係もない、と私は思う。
現代人はコンピューターのような、いわゆる客観的な数値にあまりに重きを置きすぎ、
気にしすぎるために、自分を見失っているのではないか。

“恋は盲目”と言う。
“あばたも笑くぼ”それは正しいのだ。
そこに、生きものとしての、ちゃんとした理由があるはずなのである。

新規ドキュメント 3_7
一目で恋におちて、死に至るまで引き裂かれることのないリスタンとイゾルデ。
その一目惚れの恋の激しさを、俗人は納得しかねたのか、
媚薬というような下賤な条件でもっともらしく説明しようとした。
これはいただけないが、それほど理屈を超えているということなのだろう。

恋は“思案の外”なのである。

大人ぶった人はよく
「なんであんな男に」
「なんで、あんな女に。いくらでもいい女はいるのに」といぶかるが、
虫が好いたら仕様がない。

単細胞が分裂して増殖していた時代は別として、
雌雄にわかれ、それが合体して生殖を営むようになってからは、
生物はこの不思議な、理屈を超えた惹きあう力に動かされて来たのではないだろうか。

エロティシズムについてはいろいろ難しい説を繰りひろげる人がいるが、
私はこういうところに根を張っているものと思っている。

近頃、 フェロモンの働きが解明されてきて、
人間の好悪の感情も秘かにそれに支配されているなどと聞くが、
そんな化学実験のような単純なものではないだろう。
鳥だって虫だって発情期にはフェロモンを発し、
数多の雄がそれに惹き寄せられてアタックしている。

だけど断固として拒否する相手もあるし、
受け入れるのは、やはり“虫が好いた”一個体に限られる。
どういう選択の基準があるのだろう。面白い。

生命の誕生の、そのはじめの瞬間は、ほんとうにささやかな極微の世界だけれど、
荘厳な神秘のドラマだ。

そうやって自分も生まれてきたのだと思うと、何ともしれず、いとしい。

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