今回は生活に欠かせない引き出しについて。
あなたの引き出しには何がしまってありますか?



「引き出し展」という面白い展覧会が西新宿でひらかれている。
引き出しなんて、およそ芸術とか美とは関わりない、
面白味もないただの道具だと、誰もが思っているだろう。
ところがこれが、なかなか多種多彩、えーっ、こんなの?
という驚きや趣向があって、楽しませてくれる。

正倉院に秘蔵されている聖武天皇御愛用の碁盤。
螺鈿(らでん)を施した優雅なものだが、
盤面の下に引き出しが付いている。
対局者はそこから自然に碁石を取り出せる心づかい。
それがカラクリ仕掛けになっていて、
一人が引き出しをあけると、相手の方もあいてしまう。
面白い装置だが、さすがにこれは借り出せなくて写真展示。
その代わりに、ペーパークラフトでそれを模して、
レントゲン写真でカラクリの仕掛けも見せてくれる。

狭い町屋の階段下の隙間を使って、横から引き出しをつけて、
利用しているのは今でもよく見る懐かしい工夫だが、
江戸時代の車箪笥(たんす)や、
寄せ木細工の凝った旅箪笥は珍しい。

旅行といえば、ルイ・ヴィトンの旅行鞄(かばん)。
引き出しつきの頑丈な鞄も出ている。
昔の王侯貴族や社交界の美しい御婦人方は
こんなのを山のように運ばせて船旅を楽しんだのだろう。

これはちょっと色っぽい想像ができるが、
色っぽくないのでは百年前のレジスターなどいう
骨董的なビジネス用品もある。
また向田邦子さんの「うまいもの引出し」というのは、
何ということもないただの事務用品のような引き出しだが、
中をあけると、彼女がおいしいと思った店のカードや箸袋、
メニューなどが細々ぎっしりつまっていて楽しい。

新規ドキュメント 15_1
岡本太郎の引き出しも乞われて出品した。
これは作りつけのクロゼットの扉だ。
二枚の扉が観音びらきになる。
見たところ、何の変哲もない。
ところがあけると、裏には、びっしりと引き出し。
その把手(とって)がユニークだ。

赤・青・黒・黄・緑・金・銀と色とりどりのアルマイト。
彼自身が手ずから石膏で原型を作り、
色を指定して焼きつけさせた、
シャープで、かわいらしい原色の把手がずらりと並んでいるのだ。
表が桜の白木で、ごく普通に見えるだけに、
開いたときの驚き、彩りが嬉しい。
岡本太郎はこういういたずらが好きだった。

引き出しというものには、何か不思議なときめきがある。
ひとの引き出しをあけるというのは親子でも、夫婦でも、
やはりちょっとためらわれる。
秘密というほどではなくても、
その人の閉ざされた内部に踏み込む、冒す行為だから。
まして男女に何かわだかまりがあって、もやもやしているとき、
思いきって、よし、あけてみようと引き出しに手をかけるのは、
一種の決断、踏み越えてはならない一つの線を越える、
危険な行為なのだ。

一緒に暮らしていても、別の人間。
心には闇がある。
引き出しは、そのしまい所かもしれない。



次回は、芸術ゴミ箱「リサイクルも楽しく」をお届けします!