Digs

Toshiko's Essay⑬The drawer "Mysterious palpitation"

敏子のエッセイ⑬引き出し「不思議なときめき」

1

今回は生活に欠かせない引き出しについて。
あなたの引き出しには何がしまってありますか?



「引き出し展」という面白い展覧会が西新宿でひらかれている。
引き出しなんて、およそ芸術とか美とは関わりない、
面白味もないただの道具だと、誰もが思っているだろう。
ところがこれが、なかなか多種多彩、えーっ、こんなの?
という驚きや趣向があって、楽しませてくれる。

正倉院に秘蔵されている聖武天皇御愛用の碁盤。
螺鈿(らでん)を施した優雅なものだが、
盤面の下に引き出しが付いている。
対局者はそこから自然に碁石を取り出せる心づかい。
それがカラクリ仕掛けになっていて、
一人が引き出しをあけると、相手の方もあいてしまう。
面白い装置だが、さすがにこれは借り出せなくて写真展示。
その代わりに、ペーパークラフトでそれを模して、
レントゲン写真でカラクリの仕掛けも見せてくれる。

狭い町屋の階段下の隙間を使って、横から引き出しをつけて、
利用しているのは今でもよく見る懐かしい工夫だが、
江戸時代の車箪笥(たんす)や、
寄せ木細工の凝った旅箪笥は珍しい。

旅行といえば、ルイ・ヴィトンの旅行鞄(かばん)。
引き出しつきの頑丈な鞄も出ている。
昔の王侯貴族や社交界の美しい御婦人方は
こんなのを山のように運ばせて船旅を楽しんだのだろう。

これはちょっと色っぽい想像ができるが、
色っぽくないのでは百年前のレジスターなどいう
骨董的なビジネス用品もある。
また向田邦子さんの「うまいもの引出し」というのは、
何ということもないただの事務用品のような引き出しだが、
中をあけると、彼女がおいしいと思った店のカードや箸袋、
メニューなどが細々ぎっしりつまっていて楽しい。

新規ドキュメント 15_1
岡本太郎の引き出しも乞われて出品した。
これは作りつけのクロゼットの扉だ。
二枚の扉が観音びらきになる。
見たところ、何の変哲もない。
ところがあけると、裏には、びっしりと引き出し。
その把手(とって)がユニークだ。

赤・青・黒・黄・緑・金・銀と色とりどりのアルマイト。
彼自身が手ずから石膏で原型を作り、
色を指定して焼きつけさせた、
シャープで、かわいらしい原色の把手がずらりと並んでいるのだ。
表が桜の白木で、ごく普通に見えるだけに、
開いたときの驚き、彩りが嬉しい。
岡本太郎はこういういたずらが好きだった。

引き出しというものには、何か不思議なときめきがある。
ひとの引き出しをあけるというのは親子でも、夫婦でも、
やはりちょっとためらわれる。
秘密というほどではなくても、
その人の閉ざされた内部に踏み込む、冒す行為だから。
まして男女に何かわだかまりがあって、もやもやしているとき、
思いきって、よし、あけてみようと引き出しに手をかけるのは、
一種の決断、踏み越えてはならない一つの線を越える、
危険な行為なのだ。

一緒に暮らしていても、別の人間。
心には闇がある。
引き出しは、そのしまい所かもしれない。



次回は、芸術ゴミ箱「リサイクルも楽しく」をお届けします!

Articles

Special Feature

Channel Taro TV

Read More
:: March 21, 2017

《門扉》制作風景

Read More
:: November 30, 2016

《樹人》制作風景!

Read More
:: August 3, 2016

《五大陸》制作