フィギュア業界の風雲児として世界に名を轟かす、株式会社海洋堂の社長でありながら「センム」の愛称で親しまれる宮脇修一社長との対談です。
〈前回までは〉
宮脇修一①「日本には立体物を楽しむ文化って、ないですからね。」
宮脇修一②海洋堂って「人格」として認知されているような気がする。
宮脇修一③暮らしのなかでフィギュアを愛でる文化を育てたいんです。
今回は宮脇センムの“誰からも頼まれていないミッション”について。
ボクが大切にしているのは、フィギュアがいかにダメかを自覚する自覚力。
平野:宮脇さんは、日本にフィギュアを愛でる文化を根づかせたいと考えている。それが、いわば海洋堂のミッションにもなっている。
宮脇:はい。
平野:でも、そんなことを背負わねばならない義理なんてないでしょ?
宮脇:まあ、そうですけど(笑)。
平野:太郎もおなじなんですよ。パリから戻って以来、ずっと日本にとどまって、20世紀の新しい芸術理念を日本社会に根づかせようとした。大衆を啓蒙するために、作品をつくるだけじゃなく、本も書いたし講演もしました。
宮脇:そうですね。
平野:それがオレの使命だ、って考えたんじゃないかと思うんですよ。ガラパゴス的に閉塞している日本の美術界に新しい20世紀の息吹を吹き込まねばならない。それができるのはオレしかいないじゃないか、って。
宮脇:ああ、なるほど。
平野:そんなこと、誰からも頼まれていないのに。
宮脇:(笑)
平野:ジャンルは違うけど、宮脇さんにもおなじにおいがするんですよ。宮脇さんも自分の使命だと信じてやり続けている。そこにぼくはシビれてるんです。
宮脇:いやいや、とんでもない。そんな大それたもんじゃないです(笑)。ただ自分の好きなことをやっているだけで。それをやらないことには自分たちの居場所がないっていうか…。
平野:うん。
宮脇:太郎さんの使命感みたいな大げさな感じではないんです。ただ、15年くらい前にお菓子のオマケがはじまったときに、「あっ、これで広げられるかもしれない」って思った。そのときからフィギュアの価値をより強く考えるようになったんです。
平野:なるほど。
宮脇:ボクが大切にしているのは、フィギュアがいかにダメかを自覚する自覚力。さいわい周りに優れているけどちょっと狂った造形師たちがいてくれるので(笑)。
平野:みなさんちょっと変わってますもんね。
宮脇:ものをつくる連中は、ボク以上に社会性がないですからね(笑)。そういう猛獣たちはボクにしか使えないところがあるので。そういう猛獣使いの部分ですか。そこは大切だなと思っています。太郎さんの何がすごいってやはり強烈な表現者ってところ。ボクはプロデュース側ですから。
平野:もうひとつ似ていると思うのは、なにか決断をするとき、自分以外に頼らないこと。宮脇さん、自分の外部にベンチマークをもたないですよね。たとえば、人の評価とか、データとか、ファンの声とか…。
宮脇:そういうもので判断することはないですね。
平野:自分の中にある価値基準だけを信頼して判断するって、なかなかできることじゃない。でもそれこそが創造する者にとっていちばん大切なことだと思う。
宮脇:ボクらは、お客さんの希望どおりのものを差し出すのではなくて、彼らがまだ見たことがないもの、見たら欲しくなるものを生み出したいと思ってます。なので、人に聞いてもしょうがないんですよ。
平野:太郎もマーケティングとは無縁の男でした。なにしろ絵を描いても売らないんだから(笑)。どういう絵を描けばウケるか、認めてもらえるかなんて微塵も考えていない。
宮脇:そうでしょうな。
平野:普通は世間の反応や評価をもとに針路を決めていくものだけど、宮脇さんも太郎とおなじで、そのあたりの〝社会常識〟が欠落してますよね(笑)。
宮脇:はい(笑)。どれだけワクワクするものを生み出せるかっていうのが、いまのボクの楽しみなんですよ。欲しいものはまだまだたくさんあります。原点は自分の部屋に誰よりも先に自分が欲しいものを並べることができるかっていうことですから。
平野:宮脇さん、真性オタクですもんね(笑)。
宮脇:この取材の前の打ち合わせでいろんなアイデアが出ましたけど、そうやって平野さんとお話をして、かつてないようなフィギュアのアイデアが生まれることが楽しくてしかたがない。ボクは平野さんにお会いするときは常に対決モードですからね。平野さんを驚かせ、喜んでもらえるか、っていうことだけを考えてますから。
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次回は〝フィギュアづくりの秘密〟についてお聞きします。
お楽しみに!
宮脇修一⑤
宮脇修一
1957年、大阪府生まれ。
ガレージキット黎明期から独自のフィギュア造形・製造技術を培い、
1999年に発売されたフルタ製菓「チョコエッグ」のおまけフィギュアが大ヒット。
同社に所属する高い造形力を持つ集団を率い、
様々なフィギュアをリリースし、世界的な評価を受けている。
Shuichi Miyawaki talk ④ “The produce is way of life, way of sing”
宮脇修一対談④「プロデュースは生きざま、唄いざま」
:: May 20, 2016
