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Taku Satoh talk ⑥ " Design and Ego "

佐藤卓対談⑥「デザインと自我」

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「ロッテ キシリトールガム」や「明治おいしい牛乳」などの商品デザインでも知られている日本を代表するグラフィックデザイナー 佐藤卓さんとの対談、最終回です。

〈前回までは〉
佐藤卓①「デザインとは、なにかとなにかを“つなぐもの」
佐藤卓②「ぼくは主義・スタイルのようなものはいっさい決めていないんです」
佐藤卓③「自分の力でやっているっていう認識すらないです」
佐藤卓④「『デザインする』っていうのは、じつはすごく危険な言葉なんです」
佐藤卓⑤「そこにかならず個性があるだろうって信じているんです」


最終回は「仕事に向きあうときの姿勢」についてお聞きします。

まぎれもなく本音なんですけど…ものすごく自信ないし、不安です

平野:『クジラは潮を吹いていた。』の中に、「昔は肩書きなんてどうでもいいと思っていた」って書かれてますよね。「いまはそう思わない。何でも屋というと自分に甘くなる。だから仕事も甘くなる」と。

佐藤:はい。

平野:そして「やっと最近、迷わずグラフィックデザイナーと言えるようになった」とも。あらゆるジャンルのデザインを手掛け、テレビ番組までつくっている人の言葉とは思えないんですけど…(笑)。

佐藤:(笑)

平野:だって普通は逆でしょ? 「さまざまな分野でご活躍の…」とか「マルチクリエイター」なんて言われて喜ぶ人が多いんだから。

佐藤:自分のスキルはグラフィックデザインだっていうことです。本籍はあくまで「グラフィックデザイン」。でも、そこで学んで身につけたスキルはあらゆる分野で生かせるし、生かしていい。

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平野:ぼくは博覧会で育ち、イベントの世界で生きてきました。そこがホーム。でも、気がついたら葬式や壁画の修復をやっていたし、いまは映画を手掛けています。

佐藤:はい。

平野:イベントのプロデュースで身につけたスキルと、そこで培った判断力しかぼくにはない。だから、どんなジャンルの仕事であれ、それを使うしかないんだけど、驚くべきことに、たいていそれでイケるんですよ。ほとんど困らない。みんなおなじ。

佐藤:わかります。ひとつの分野でスキルを身につければ、他でもそれが使えるし、その分野に縛られる必要はまったくない。ぼくもそう思います。

平野:逆に、もしそうじゃなかったら、アウェーで戦うことはできないという話になってしまう。アウェーをホームにしている人とおなじスキルをもっているわけではないし、最初から常識も経験もちがうわけですから。

佐藤:そのとおりだと思いますね。しかも日本はそのあたりがけっこう自由ですよ。海外の状況を聞くと、ジャンルごとの垣根がとても高いみたいで、フランスなんかではグラフィックデザイナーが広告に手を出すと、まるで金で身を売ったかのように見られるらしい。

平野:へえ(笑)。

佐藤:日本のいいところは、そのへんの垣根が比較的低く、自由であること。なにをやってもダメとは言われない。そこが日本の良さなんじゃないかな。

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平野:幅広い世界で新しいものを生み出しているにもかかわらず、卓さんが「グラフィックデザイナー」を名乗っているところにすごく共感するし、創造者のありようとしてとても大切なことだと思います。

佐藤:若い人たちに「日本は恵まれているんだよ」「あとは自分の意識の問題だけだからね」って言いたい。

平野:そうですね。

佐藤:自分で自分を狭めてしまわないように。「もっと自由に考えていいんじゃない?」と、仕事を通して若い人たちに伝えたいっていう気持ちがあるんです。

平野:正直に言いますけどね、じつはぼく、ちょっと前まで、若い人にいっさい興味がなかったんですよ。

佐藤:…(笑)

平野:だけど最近になって、自分がいままで経験してきたことを次の世代に伝えたいっていうパッションが急激に大きくなっているんです。ほんと、自分でも信じられないんだけど…。

佐藤:歳とったってことです(笑)。

平野:それにしても不思議なんですよね。なんでそんな気分になったのかなあ。

佐藤:そういう意識は自然と芽生えるものなんじゃないですか。ぼくだって、若い人たちに無理矢理、押しつけるつもりは毛頭ないけれど、「もしよかったら、こういう考え方も見てみてよ」ってくらいの気分はありますよ。

平野:考えてみれば、世の中にはいろんな手本がいっぱいあるんですよねえ。

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佐藤:ぼくも反省するところはあって。若い頃、先輩の言ってることをあまり聞いていなかったし。

平野:ぼくも(笑)。

佐藤:若いときは自我が強いから、「オレはなにができるのか?」みたいなことばかり考えているでしょ?

平野:先輩たちがいたからいまの自分があるのに、それを真っ向から否定していたような…。

佐藤:どの世界でも、若いときってそうなんでしょうね。

平野:今日の対談では、「どうすれば佐藤卓になれるか」を訊き出して、若い人たちに教えてあげようと思ってたんだけど…。

佐藤:なる必要ないですよ。みんなちがうんだから。

平野:そう。お話をうかがっていてわかったのは、佐藤卓をトレースするようなことをしても意味がないということ。そんなことより、仕事に向きあうときの姿勢こそが大事なんだっていうことがよくわかりました。

佐藤:はたしてぼくが手本になるかどうか…。

平野:最高の教材じゃないですか。

佐藤:自信ないです(笑)。

平野:えっ、ほんとに?(笑)

佐藤:あの、これ、まぎれもなく本音なんですけど…。ものすごく自信ないし、不安です。

平野:わかる。

佐藤:でもね、あるときにそれがいい状態なんだってことに気がついたんですよ。そもそもデザインに安心ってあり得ないんですよね。人とのかかわりの中で「ほんとうに大丈夫か」ってつねに心配していなければならない仕事ですから。

平野:売れるかどうかだって、やってみなければわからないわけですしね。

佐藤:さらに、次にはどうしたらいいんだろう? っていつも気をつけていなければならないし。

平野:「これで万全!」っていうことはなにひとつない。

佐藤:そういうことがわかってくると、不安であったり、自信がなかったりっていう状態をキープしていることがいい状態なんだって思うようになって。

平野:なるほど。

佐藤:いま、自信がないけど、元気なんです(笑)。

平野:自信がないってことは、選択肢や可能性がたくさんあるっていうことですもんね。

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佐藤:これを読んで若い人たちがすこしでも元気になってくれたらと思いますけど、こんなに混沌している時代はないですよ。環境問題だったり、国と国の問題だったり、資源やエネルギーの問題だったり。そんな中で「これでもう大丈夫だ」なんて答えはどこにもないですよね。すべてが問題なわけです。こんな難しい時代に悩んでない人っていちばん危ないと思うわけ。

平野:考えてないってことですもんね。考えれば考えるほど難しい時代だからこそ、悩んでいいんだと。

佐藤:だからぼくはぜんぜん自信ないわけです(笑)。

平野:これから佐藤卓を目指す若い人たちに…

佐藤:目指さなくていいって(笑)。

平野:あ、そうか(笑)。そういう若い人たちに一言なにか言うとしたら?

佐藤:やっぱり「気を遣う」ことかな。

平野:気を遣う?

佐藤:すべての仕事は、〝これから〟を扱うわけですよね。とすれば、なにをすれば人のためになるのか、もしくはならないのかってことを、先々まで想像して、予測して、いまやるべきことをきちんとやる。それが仕事でありデザインであると思うんです。

平野:はい。

佐藤:それを意味するいちばん簡単な言葉が「気を遣う」。

平野:なるほど。

佐藤:「いまこうしておいてあげれば、これからの人たちのためになるな」ってことをやるわけだから、「気が利かない」のは問題だっていうね。

平野:言い換えれば、デザインは社会のためのものであって、あなたのためではないっていうことですよね?

佐藤:いや、結果として「あなたのため」にもなるんです。社会の一部だから。


平野:そうか、なるほど。よく「創造者たる者、爪痕をのこせ!」みたいなことを言うでしょう? でもデザインは爪痕をのこすためにやるものじゃない。だけど、社会のためにキチッとした仕事をすれば、結果として爪痕はのこるんだってことですよね。

佐藤:そうです。まあ、それを爪痕って言っていいのかどうかわからないけど、結果としてのこっていくものがあるかもしれない。でも、はっきりしているのは、のこすことが目的ではないっていうこと。

平野:きっと美術系の学校の先生の多くは逆のことを言ってるんじゃないかな。「自分の個性をつくり上げろ」って。

佐藤:それで若い人が悩んじゃうんですよね。「デザイナーになりたければ、〝気を遣う〟ことをつねに心がけよ」。それでいいんだと思います。

平野:いやー、おもしろかった。今日はたくさんの貴重なお話をありがとうございました!

佐藤:ありがとうございました!

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佐藤 卓

グラフィックデザイナー

1955年生まれ。
1979年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了。
株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所設立。
「ロッテ キシリトールガム」や「明治おいしい牛乳」などの商品デザイン、
「金沢21世紀美術館」、「国立科学博物館」、「全国高校野球選手権大会」等のシンボルマークを手掛ける。
また、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」アートディレクター、「デザインあ」の総合指導、21_21 DESIGN SIGHTディレクターを務めるなど多岐にわたって活動。

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