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Kaichiro Morikawa talk ④ "OTAKU culture lecture"

森川嘉一郎対談④「オタク文化講座」

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明治大学において「東京国際マンガミュージアム」(仮称)の開設準備、および米沢嘉博記念図書館の運営に関わる森川嘉一郎さんとの対談です!

今回はさらに深く“万博の意味の喪失とオタクの誕生”についてお聞きします。

〈前回までは〉
森川嘉一郎①「『おたく:人格=空間=都市』という画期的なもの。」
森川嘉一郎②「黒幕の意図が介在しているのかいないのかを確認したわけです。」
森川嘉一郎③「科学技術信仰は、大阪万博を象徴的なピークにしてガラガラと崩れていった。」

おたく文化の基盤の一つとなっている概念が、学校の中で培われているわけです。

平野:万博って、誕生したときから「産業技術の進歩が社会を豊かにし、人を幸せにする」っていう価値観を大衆に啓蒙する装置だったわけじゃないですか。

森川:国際的には宇宙開発競争、国内的には高度経済成長がともにピークを迎えていて、そのような価値観を駆動していたんですね。それが両方とも、万博以降に勢いを失っていくわけですが。

平野:万博の意味の喪失とオタクの誕生は裏表の関係にある、っていう話はじつにエキサイティングですね。

森川:おたくのようなタイプの人は昔からいましたが、その関心の矛先が急速にフィクショナルなものへ向かったことが、「おたく」という枠組みの成立と、「おたく文化」の発展につながった、という筋書きですね。

平野:そう考えると、日本だけの事象ではないはずですよね? オタク文化の出現は、先進国に共通する現象なのかな?

森川:おたくのような人物像は世界各国に見受けられますが、そうしたイメージの人たちが、アニメや漫画などの特定のサブカルチャーと強く結びついて、「おたく文化」を発達させたことは、日本特有なところがあります。そこには色んな理由や背景があるんですが、わかりやすいものとしては、日本の中学、高校におけるクラブ活動があります。文化部ってあるでしょう?

平野:歴史部とか手芸部みたいなやつね。

森川:そもそも生徒の多くが放課後に何らかの部活に参加していて、クラブが学級とは別立てで学校社会における強力な組織構造になっている、ということ自体が日本特有なんです。海外の学校でも、たとえばフットボールのチームとかチアリーディング部のようなものはありますが、そうした運動部や体育会系の部活動と対になるような一翼を成す形で、さまざまな文化部があって、それぞれ部室という溜まり場が与えられている、というところが、さらに大きな特徴になっています。

平野:あっ、そうなの。

森川:そうすると、運動部に入らない生徒は、何らかの文化、あるいは表現活動に「所属」することをうながされるわけです。文化部はだから、傾向として運動が苦手な子が多くはいるわけですが、とりわけ文芸部や美術部などは、オタクの巣窟になりやすい。漫画研究部やコンピューター部であれば、なおさらです。

平野:うん。

森川:文芸部や漫画研究部であれば、部員たちで原稿を持ち寄って、部誌を出しますよね。同好の仲間が集まって同人誌を作り、コミックマーケットなどの即売会に出展するという、おたく文化の基盤の一つとなっている概念が、学校の中で培われているわけです。そしておたく趣味の先輩がいれば、部活の中で後輩に伝播する。

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平野:文化部という空間が、オタク的性格の子をオタク系のサブカルチャーと結びつけるっていうこと?

森川:そうです。その「カルチャー」の部分が、日本特有なんですね。英語圏だと「おたく」に相当する単語は「ナード」とか「ギーク」ということになります。とりわけギークは、理系でパソコンに熱中してそうなニュアンスが強いです。

平野:オタクっていうとパソコンに張りついている人っていうイメージなんだ。

森川:外見に無頓着で、テクノロジーに関するものを好んでいるイメージ、というのは世界共通ですね。パソコンとかハイテク機器とか。有名人でいえば、ビル・ゲイツがギークの人物像そのものですね。

平野:最近ならマーク・ザッカーバーグとか?

森川:そうですね。両者とも大変な社会的成功を収めて大金持ちになったわけですが、そのようなロールモデルとなる有名人がいる、というところが、日本におけるおたくと違うところです。まだ「ハカセ」くんと呼ばれていた頃のように、学校では変わり者扱いでも、社会に出てから活躍するかもしれないというイメージが生きている。

平野:夢をもてるわけだ。

森川:日本では「おたく」と呼ばれる、そのような人物像それ自体は、インターナショナルなものです。いっぽう、そのような人物像と、漫画やアニメなどの特定のサブカルチャーとの強い結びつきが発生し、「おたく文化」が発達したことは、ドメスティックな現象です。

平野:日本ではアニメや漫画がポピュラーな存在だったから?

森川:大きな前提としては、もちろんそうなのですが、たとえばアメリカでもディズニー映画やアメコミなどのアニメや漫画が、一般に浸透していたわけです。他の国にあまり見受けられないのは、先ほど挙げた学校における部活動の文化、それからコミックマーケットのように、趣味的な表現活動をうながす非常に敷居が低くて間口の広い場ですね。

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平野:部活やコミックマーケットがあることで、漫画を描くといったような「表現」のハードルが比較的低かった、という状況が、日本のオタク文化を支えていると?

森川:加えていうなら、部誌や同人誌の印刷製本をサポートする印刷所がたくさん現れたことも、そうした基盤の一角を構成していますね。

平野:インフラですね。

森川:同じ漫画やアニメの作品が好きな人同士で集まって、見よう見まねでそのキャラクターのイラストやパロディマンガを描く。それを印刷製本してコミケのような巨大な場で頒布するわけですが、そうした活動は、出版社が潰そうと思えば、著作権違反だといって訴えることもできてしまう。でも日本では、それを黙認するという慣習が形成されてきたんですね。そして即売会には、同じ作品のファンがいっぱいくる。たとえ絵がヘタでも、作品やキャラクターへの愛好に対する共感から、手にとってくれたりする。

平野:その人たちが買ってくれるかもしれないわけだ。

森川:自分の描いたものが目の前で手に取られ、さらにお金を出して買ってもらえたりしたら、大変な喜びですよね。

平野:そりゃ、そうでしょう。一度でもそんな経験をしたら、漫画を描くのが楽しくてやめられないはず。

森川:重要なのは、そこにいたる敷居の低さなんですよ。友達に誘われて、あくまで遊びやファン活動の一環として、好きなキャラクターのイラストを同人誌に寄せるところから、「作る側」に入っていけるわけですね。

平野:「プロの漫画家になる!」という決死の覚悟が要らないっていうのは、たしかに大きいですね。

森川:そうして気軽に参加してみたら、意外に売れたり反応をもらったりして、もっと描いてみようという動機づけになったりするわけですね。

平野:それでプロになることも?

森川:そうですね。コミケなどで売れるようになれば、漫画雑誌の編集者などからスカウトされます。

平野:へえ。

森川:それに、既存の作品のキャラクターを借りて二次創作の同人誌を作る、というのは、創作や表現であると同時に、その作品やキャラクターを、受け身に読んだり観たりするのとは別の方法で、より能動的に鑑賞して味わう手段にもなっているんです。

平野:それが、結果としてプロになるためのトレーニングになっていた、っていうことも起こり得るわけですね。

森川:そのとおりです。より能動的な読み方、つまり二次創作を促すような作品やキャラクターの作り方が、経験的に身につくわけです。

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平野:同人誌って、素人が俳句を詠むようなものかな?

森川:趣味として気軽に表現活動に参加できること、それからいろんな方向性や水準の句会や会誌があるところは、似ているかもしれませんね。

平野:特別な才能がない人は、自分のレベルにあった句会に参加して楽しめばいいと。

森川:裾野が広がっていくと、そんな句会からも突出した才能が出てくる可能性があるかもしれませんね。

平野:そういう人は次のステージに上がっていく。

森川:より高い水準を知ってしまったら、それまでの場では物足りなく感じられてくるということも、あるかもしれませんね。

平野:そういえば、いま思い出したけど、前にブリスベン万博日本館に普通の日本人が俳句を詠むシーンを出したとき、オーストラリア人がびっくりしたんですよ。「一般大衆がポエムをつくっているなんて!」って。彼らの文化観でいうと、「詩を詠む」っていうのは、選ばれた人にだけ許されるスペシャルな〝創造〟だから。

森川:日本では普通のおばさんやおじさんが詠んでますからね。

平野:「世の中にそんな民族がいるのか!」って驚いているわけ。そういう風に考えると、コミックマーケット的な文化も、もしかしたら日本独特のものであって、外国にはないものなのかもしれませんね。



次回は意外にも多い「オタクの人たちの岡本太郎好き」ついて森川さんに分析していただきます。

森川嘉一郎⑤

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森川嘉一郎 (もりかわ かいちろう)
明治大学国際日本学部准教授
1971年生まれ。早稲田大学大学院修了(建築学)。
2004年ベネチア・ビエンナーレ第9回国際建築展日本館コミッショナーとして「おたく:人格=空間=都市」展を製作(日本SF大会星雲賞受賞)。
桑沢デザイン研究所特別任用教授などを経て、2008年より現職。
明治大学において「東京国際マンガミュージアム」(仮称)の開設準備、および米沢嘉博記念図書館の運営に関わる。
著書に『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』(幻冬舎、2003年)など。

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