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5th Ishii Takumi ⑤

第5回 石井匠⑤

Photo by 小沢吉一

岡本太郎をリスペクトする著名人の方々に、太郎への思いを思う存分語っていただきます。

第五回目は國學院大學博物館学芸員、岡本太郎記念館客員研究員で、2016年岡本太郎記念館企画展「生きる尊厳-岡本太郎の縄文-」をキュレーションをされた石井匠さんです。

今回は敏子さんとの別れ・・・そして石井さんの魂に火が灯ります。《明日の神話》修復に石井さんが欠かせなかったその理由とは。



第2回岡本太郎現代芸術賞の《超・縄文》が、ぼくにとっての作家としてのデビュー作になったんですが、当時の会場だった国立代々木オリンピックセンターの壁にかけた瞬間、「なんだこの色は?」って落胆したのを覚えています。

部屋にこもってつくっているときは「なかなかイケてる」と思っていたのが、広い空間に展示して、他の作品と比べると・・・恥ずかしい思いしかわき起こらなかったように記憶しています。

第2回の太郎賞は、大賞は出なかったんですが、準大賞を獲ったのは小沢剛さんでした。小沢さんはその頃すでに、いろいろと活動されていましたけど、受賞後、さらに活躍されるようになりました。

その前の第1回は、中山ダイスケさんと金沢健一さんが共に準大賞。その後の受賞作家を見れば一目瞭然ですが、いまや太郎賞は入選するだけでも、国内外で活躍する作家を多く輩出している現代芸術の登竜門です。

いま、岡本太郎記念館では「TARO賞20年 20人の鬼子たち」(会期:2017年3月12日(日)〜6月18日(日))を開催していますが、ぼくはとうぜん出品していませんが、TARO賞の古参です(笑)
http://www.taro-okamoto.or.jp/exhibition/index.html

たぶん唯一、ぼくだけ売れていないんじゃないかな(笑)。芸術活動より、研究にシフトしたからということにしておきましょう・・・。

ぼくは、いまは作品を作っていないのですが、長弟(石井亨 http://www.toruishii.com/ )がアーティストとして世界を股にかけて活躍しているので、とりあえず、あとは彼に任せます(笑)。

ただ、今の職場で、なぜかデビュー会場だったオリンピックセンターの方々とコラボして、渋谷の岡本太郎ツアーをやることになったのは、いろいろと感慨深かったです。

そこで岡本太郎好きの小学生の女の子にも出会えて、人生、なにがどう転ぶかわかりません(笑)

話がそれましたが、とにかく学生時代は、ほぼ毎日、記念館に遊びにいっていました。

さっきも言いましたが、ついつい話し込んでしまって、「敏子さん・・・大学の授業、終わっちゃった・・・」みたいなことも何度もありました。じゃぁ、呑みに行こうという時もあったかな・・・(笑)。

Photo by 小沢吉一
Photo by 小沢吉一


だから考古学の勉強はあんまりしていなかったかもしれないですね(笑)。

ほぼ毎日、太郎さんの話にはじまり、学問の話から芸術の話、政治や宗教、恋愛相談から人生相談まで、なんでも話していました。親兄弟や数少ない友達より多く話していたはずです。

だから、ぼくにとって敏子さんは、もうひとりの母親のような存在でした。

Photo by 小沢吉一
Photo by 小沢吉一


それで2003年だったかな。敏子さんに会いにいつものように、ここ(取材場所)にきたら、書斎のドアを開けるなり、敏子さんが叫ぶんです。

「あなた!すごいの!すごいものが見つかったの!」って騒いでいるわけです。

「《明日の神話》がね!メキシコで見つかったの!先生が描いた、巨大な壁画なの!あなた知ってる???」

ぼくはよくわからなくて、ふうん、そうなんだ、くらいの反応(笑)。

敏子さんは、なんとかしてメキシコから日本に持ってきたい!それもみんなの力で!と興奮していました。

「でもそれを日本に持ってくるって、大変なんじゃないですか?」って聞いたら、「これからいろんな人に声をかけてやっていこうと思ってるのよ」と言うんで、「じゃあ、ぼくもなにか手伝えることがあったら言ってください。なんでもしますよ~」なんて話を気楽にしていたんです。

なんだかよくわからないけれど、歴史的大作だという話だから、まぁぼくが手伝えることなんてないだろうなと思いつつ、軽い感じで「手伝いま~す」という感じだったんです(笑)。

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そんなある日、川崎の岡本太郎美術館のレセプションに行ったときのことです。

周囲の人たちと談笑していると、赤ワインが入ったグラスを片手に、上機嫌の敏子さんが近寄ってきて、バシバシぼくの背中を叩きながら、こう言うわけです。

「あなた!メキシコに行きなさい。」
「へ?……は?」

きょとんとしていると、
「《明日の神話》を日本に持ってくるの。いいからあなたも行きなさい。もう、暁臣には言っといたから。」

そのときは、敏子さんも酔っぱらって冗談で言ってるだけなんだろうな、と思っていました。

ところが数日後、いまの館長の平野暁臣さんから携帯に電話がかかってきて、「あのさ、敏子が石井君をつれていけって言ってるんだけど」って言うんです。

「え?どこにですか?」って聞くと、
「メキシコだよ」

「え?マジっすか? ていうか、メキシコに行って、オレはいったい何をすればいいんですか?」
「う~ん。俺もよくわかんないんだけどさ、とにかく敏子が石井君をつれていけっていうからさ……まぁとりあえず、現場で動き回る人足だな」と。

手伝うとは言いましたけど、まさか本当にメキシコに行くことになるとは思っていなかったので、とても驚きました。

とにかく敏子さんが行け!というなら、行くしかない。まぁ学生だし、パシリでもいいので、とりあえず「行きます」と暁臣さんに返答し、海外に行ったことがなかったので、慌ててパスパートを用意しました(笑)。

メキシコへ壁画を回収しに行くにあたって、たしか竹中工務店だったかな、最初の会議があって、そこで初めて修復家の𠮷村絵美留さんたちとお会いしました。

会議の話を聞いていると、事前調査の結果、壁画はすでにボロボロの状態で割れているから、裏の鉄骨フレームを外してコンテナに詰めて、船で日本に送るということでした。

その話を聞いて疑問が浮かんだので、聞いてみたんです。

「分解するのはいいんですけど、表面の絵の具の破片って、いっぱい落ちますよね?それはどうするんですか?」と。

そうしたら「それはすべて一括で回収して後で戻します」という回答。

でも、壁画は30×5.5メートルですから、破片がどの部分から落ちたかわからなくなってしまうと、あとが大変です。

「破片が落ちた位置のチェックはどうするんですか?」って聞くと、「限られた作業時間なので、チェックをするような時間はありません」との回答。

ですが、破片を戻す時に、戻す場所が分からなければ、巨大なジグソーパズルになるわけです。

考古学では、発掘調査で土器や石器などの遺物が出てきたら、ざっくりいうと、アナログの方法では、水糸を張って碁盤の目状のメッシュをつくり、北から何センチ、東から何センチと計測して、日本列島のどこから何が出土したかをミリ単位でわかるように記録するんです。測量用のデジタル機材があれば、さらに精密になります。

その考古学的な常識からすると、一括で回収するというのは、う~ん…どうなんだろう??と思ったわけです。

そこで遺跡の発掘の説明をして、「絵の具の破片も発掘調査みたいに最初から場所を記録しておけば、戻すとき楽なんじゃないですか?」っていうことを発言したら、

「なるほど。」「じゃあ石井さんやってください」と言われて・・・。その会議でぼくのメキシコでの役割が決まったんです(笑)。

となれば、メキシコに行って破片を回収するときに壁画の全体像がかわる図面が必要になるので、30メートルぶんの縮尺図面を用意してもらいました。

それを頼りに、ぼくが一個一個の破片がどこから落ちたのか、機材もないので、巻き尺二本をつかってアナログで記録していったんです。

じっさいに現場では、数ミリ~数センチの破片も回収しましたが、当初は計画になかった飛び入りの作業です。だから、ぼくの作業が遅れると、次の作業もどんどん遅れてしまう。

滞在期間も限られているので、のんびり作業なんてできないわけです。「石井!まだか!」と急かされ、「ちょっとまって~!」と叫びながら、ひたすら破片を拾って記録していました。

一点一点、ナンバリングして、落ちた場所を計測して図面に記録し、破片と破片が落ちた場所を写真でも記録、ナンバリングした袋に一個一個詰めて分類して・・・まぁ、とほうもない地道な作業です(笑)。

ぜんぶで数千点だったかな・・・。

あとから思えば、よくもまぁ、あれだけの作業をひとりでやったなと・・・(笑)。

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次回は敏子さんとの別れ・・・そして石井さんの魂に火が灯ります。

石井匠⑥

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石井 匠

1978年生まれ。國學院大學大学院文学研究科博士課程後期修了。博士(歴史学)。
現在、國學院大學博物館学芸員、岡本太郎記念館客員研究員。
第2回岡本太郎記念現代芸術大賞、入選。
岡本太郎の巨大壁画《明日の神話》再生プロジェクトスタッフとして、メキシコでの壁画回収・修復・設置作業に従事。
2016年岡本太郎記念館企画展「生きる尊厳-岡本太郎の縄文-」をキュレーション。
著書に『縄文土器の文様構造』、『謎解き太陽の塔』、共著に『縄文土器を読む』他多数。

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