Talks

Matsuo Yudo talk ④ "Jazz popularization committee"

松尾由堂対談④「ジャズ普及委員会」

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味のあるいぶし銀ジャズギターで知られる日本精鋭のジャズアーティスト松尾由堂さんとの対談です。

〈前回までは〉
松尾由堂①「太郎さんの画集を一枚ずつめくっていったんです。」
松尾由堂②「中学2年のときに『これって、もしかして、ものすごくカッコイイんじゃないか?』と思った。
松尾由堂③「味な真似をするヤツ」っていう感じですかね。


第四回はジャズのルーツと音楽の氾濫について松尾由堂さんお伺いします。

ヘッドホンで爆音で『My favorite things』なんか聴いて「いやー、参りました!」ってなりましたし。

平野:ジャズのルーツって、アメリカに連れてこられた黒人たちのワークソングだって言われてますよね。

松尾:はい。

平野:そこからゴスペルが生まれ、20年代にデキシーランド、30年代にスイング、40年代にビバップ、50年代にハードバップ、60年代にモード、70年代に電化サウンドといったように、10年単位で次々に新しいスタイルを生み出してきた。

松尾:そうですね。

平野:たえず様式を否定し、新しいスタイルの創造に向かう。その駆動力、回転エネルギーは、数ある音楽ジャンルの中でも屈指だと思います。まあ、もっとも、その半分くらいはマイルス・デイビスがひとりでやったことだけど。

松尾:たしかにジャズとは呼ばれていても、まるで異なるジャンルのごとき展開をしてきてますもんね。

平野:ジャズは、いわば「垂直展開」なんですよ。従来の様式の上に、新しいスタイルが接ぎ木されていく。

松尾:はい。

平野:ロックは違います。チャック・ベリーからビートルズまでは直線的だけど、そのあと、一気にバリエーション展開がはじまる。ハードロック、プレグレッシブロック、グラムロック、ブラスロック、サザンロック…っていうようにね。「水平展開」なんですよ。

松尾:なるほど。

平野:ロックミュージシャンは、どのスタイルで勝負するかを決めなきゃならなかった。でもジャズの場合は、いくつものスタイルがアーカイブされていて、いずれにも同時アクセスが可能。松尾さんがジャズをはじめたときだって、少なくとも10くらいのスタイルがアーカイブされていたと思う。

松尾:そうですね

平野:ビバップも、モードも、フュージョンも、すべて参照可能で、等価。逆にいえば、その中で自分の演奏スタイルを確立するのはたいへんなことだけど。

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松尾:ぼくは器用な方じゃないんで、自分に即したものしかやってこなかったっていうのが正直なところです。「このスタイルはこう演奏する」みたいなことを掘り下げる時間もなかったし。

平野:そういう意味での模索は、あまりしなかったと。

松尾:気に入った1つか2つの音源をずっと聞いていた、みたいなやり方で、ゆっくり覚えていって、それすら消化するのにすごく時間かかったので。

平野:なるほど。

松尾:それにアーカイブということでいえば、YouTubeがあるので、いまの方がもっとすごいですね。

平野:氾濫していますよね。

松尾:若い世代は、アメリカに限らず世界中の、しかもジャズに限らないすべての音楽が参照可能です。

平野:そういう状況の中で、いかにして自分のポジションを定めるか。おそらくそれは、すべてのクリエイティブワークに共通する問題だろうと思う。音楽に限らず、美術でも、ファッションでも、映画でもね。

松尾:そこに関していえば、ぼくは悩みようがない(笑)。

平野:そうなの?

松尾:そんなに器用なことはできないから。けっきょく中学で聞いたボブ・ディランのスピリットがいまも基本になっていて、そこにレコードに合わせて適当に弾いていた高校時代の感覚が刷り込まれている。そのあと大学以降に覚えたことって、ぜんぶその上に乗っているものだっていう気がするんですよ。それこそ『Painted Warrior』をつくったときも、そういう感じだった。

平野:もしかして松尾さんが演っている音楽って、ジャズというより〝松尾由堂版ボブ・ディラン〟?

松尾:(笑)わからないですね。そうなのかな?

平野:ボブ・ディランを中学のときに聞いて、「かっこいいな!」と思った感覚がいまも核にあるっていることですもんね。

松尾:そうです。

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平野:コルトレーンになりたいとか、そういう感じじゃないんですよね、きっと。

松尾:ないですね…。もちろんすごいとは思いますよ。20代のとき、ヘッドホンで爆音で『My favorite things』なんか聴いて「いやー、参りました!」ってなりましたし。そういう意味では影響を受けた人はたくさんいますけど。

平野:松尾さんの表現したいサウンド、もっと言うと世界観って、どこから来ているんだろう?

松尾:小学校時代に佐賀の田舎で過ごしたんですけど、そのときの風景みたいなものが根本にあるような気はします。

平野:風景?

松尾:そう。風景とか季節感とか、そういったことに着想を得ている曲が多いんです。なにかしら自然の風景とか自然の音とか変化の感じとか、そういうものがあるような気がしますね。

平野:からだの中にある自然観とか自然に触れたときの感覚みたいな、内面にあるものを音に翻訳しているっていうイメージですか?

松尾:翻訳というより、出てきたものが景色とつながっていると思うときがあるっていう感じかな。

平野:ああ、なるほど。

松尾:海や山を見て「すごい!」って思うこと、ありますよね。「ここで絵を描きたい!」みたいな。そういう感覚が大きなモチベーションになっているんだと思います。

平野:さっきの『Painted Warrior』の話とつながっていくのかな? つまり、その景色のバックに流れていてほしい音、みたいな感じに近い?

松尾:そうですね。そうなれば、自分の書いた曲が背景にいろんなものを含んでいって楽しいし。もちろん、それが相手にどう届くかっていうのは別の話ですけれど。

平野:音では景色そのものは伝わらないかもしれないけど、そのときの情感というか、伝えたいと思った感情は届けたいっていうことですよね。

松尾:そうです。とても難しいことですけれど。



次回はジャズミュージシャンのアドリブ。音によるコミュニケーションについて。

松尾由堂⑤「音楽の素養がまったくない人たちだったのに、非常にピースフルな演奏になったから。」

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松尾由堂

1977年福岡生まれ、佐賀、熊本と移り住む。
中学時代にBob Dylanに傾倒、15歳でギターを始める。
東京大学入学と同時に上京、森田修史(ts)の演奏に衝撃を受け、ジャズを聴き始める。
2003年頃よりプロとして活動を開始。
2010年自家版CDR「BONANZA」を発売。
2012年公式アルバムとしては初となるCDを同タイトル「BONANZA」として発売。
現在は大口純一郎(pf)氏を迎えた自己のカルテットのほか、ジャズ系のセッションワークを中心に活動中。

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