作家、クリエーターとして、 あらゆるジャンルに渡る幅広い表現活動を行っている いとうせいこうさんとの対談です。
いとうせいこう②「ぼくは仮面が大好きで、民博に見に行きましたよ。」
いとうせいこう③「いちばん最初にやったのは・・・たぶんぼくでしょう。」
いとうせいこう④「大衆はそういう太郎さんを『おもしろい!』って思ったわけです。」
いとうせいこう⑤「絵を描く人でコピーがうまい人ってなかなかいないですよ。」
いとうせいこう⑥「文学で言うと、ウィリアム・バロウズっておじいさんがニューヨークにいて、」
いとうせいこう⑦「ぼくの知り合いにもせっかちな人がいて、「ほないこか」っていうのが口癖なんですよ。」
いとうせいこう⑧「これ以上やるとつまらないことになるっていうことがもうわかってるんですよね。」
いとうせいこう⑨「そういった岡本太郎の『聞く能力』ってあんまり強調されてないですよね。」
いとうせいこう⑩「愛されて育ったこどもが愛することを知っているみたいな、ね。」
いとうせいこう⑪「自分が驚くっていうことがいちばん好きなんですよ。」
いとうせいこう⑫「これからは穴の向こう側に入ってこちら側を見るってことも考えてみないと。」
まずは岡本太郎のアトリエ兼住居だった記念館を平野館長に案内していただきました。
「まだここに太郎さんがいるんじゃないかって思っちゃいますね。」
平野:きょうは作家・クリエイターとして、活字・映像・音楽・舞台など多方面で活躍されている、いとうせいこうさんにお越しいただいています。ようこそいらっしゃいました。かねてお目にかかりたいと思っていたんです。楽しみにしていました。どうぞよろしくお願いします!
いとう:こちらこそ!
平野:では、記念館をご案内させていただきますね。まずここが絵画のアトリエです。
いとう:わあ、嬉しいな。
平野:この建物は、ル・コルビュジエの弟子だった坂倉準三が設計したもので・・・
いとう:当時のままなんですか?
平野:はい。当時、太郎はお金がなかったので、「なにも要求しないけど、ひとつだけ、アトリエには北側からの光を採り入れる大きな窓をつくって欲しい」と言ったそうです。
平野:それ以外はいっさい注文をつけなかった。予算がなかったので、構造はブロックを積んだだけ。屋根もベニヤで出来ています。まさにローコスト建築の極みで、これ以上安く作る工法はないでしょう。
いとう:可能な限り簡素につくられたわけですね。でも、いやそれだからこそカッコイイですよね。
平野:壁際の棚に作品がたくさん並んでいますが、つくりもののディスプレイではなく、ぜんぶ本物です。すべて描きかけですけど。
いとう:あ、そうなんですか。
平野:太郎は生前、持っていたほとんどすべての作品を川崎市に寄贈しちゃったので、描きかけしか残っていないんです。2千数百点くらいあったんだけど、全部あげちゃった。
いとう:うん、なるほど。
平野:結果として、晩年の荒っぽい感じのものだけがここに残ったわけですね。太郎って、若い頃はキリッとした絵を描いていたのに、歳を取るほどに荒っぽくなっていくんですよ。とても同一人物が描いたとは思えないくらいのもので、最後のほうなんかはもうほんとに眼玉しかないし…。
いとう:(笑)いいですねー。
平野:でもこういうほうが好きだっていう人も結構いるらしいんです。ぼくなんか、正直「どうなの、これ?」って思いますけど(笑)。
いとう:(笑)
平野:ここがサロン、いわゆる応接間です。ここにあるのはすべて太郎がデザインしたものなんですが、唯一あの奥のピンクの樹だけがメキシコから持って帰ってきたもの。ずいぶん気に入ってたみたいで。
いとう:この太郎さんは等身大ですよね?
平野:そうです。じっさいシリコンの中にズボズボ埋まってつくりましたから、きわめて正確です。
いとう:(笑) 埋まるの、大変だっただろうなぁ。
平野:これは《駄々っ子》って言うんですが、敏子が大好きだったイスです。「ここに座ったふたりは仲良くなるのよ」って言ってね。ちょっとだけお互いが近づくから。
いとう:ああ、少し傾斜してるんですね。
いとう:なるほど。このティーセットは?
平野:これは1977年に1000セット限定発売された《夢の鳥》というティーセットです。ただこれ、形が形なので、割れちゃう比率が極端に高かったらしくて、メチャクチャ歩留まりが悪かった。大赤字だったみたいです。
いとう:すごいよこれ。縄文だなあ。
平野:復刻して欲しいっていう声もずいぶんあるんですけど、やってくれる工場がないんですよ(笑)。
いとう:この形とか穴とか、難しそうですもんね。でもおもしろいな。よくあるティーセットとは全然ちがう。
平野:次は庭に出ましょうか。
いとう:ぜひ!
平野:太郎は万博当時、あのあたりで太陽の塔の原型をつくっていたんです。
いとう:あ、これ、いいですね。
平野:いま開催している企画展にあわせて、太陽の塔の制作シーンを再現したんです。フィギュア界のカリスマの海洋堂にお願いしました。
平野:これもリアルサイズです。つくりはじめた頃、このように《黄金の顔》は鍋のフタでした。さすがにあの金属的で薄い造形は石膏ではつくれないので、台所にあった鍋ブタで代用したんでしょう。
いとう:そうか、鍋の蓋でね・・・
平野:当時のモノクロ写真から抜け出てきたような感じにしたかったので、あえてモノトーンにしてあります。
いとう:ああ、なるほど。この目玉のガラス、いいですね。すごくきれいで、キラキラしてる。
平野:ご覧いただけるように、ここにあるのは雑草、シダ類、バナナの親戚だけです。チューリップとかバラとかきれいなものはまったくありません
いとう:それはやっぱり・・・?
平野:お察しのとおり、太郎が嫌いだったから。
いとう:ああ、やっぱり(笑)。ご自身が熱帯みたいな人ですもんね。
平野:「どう? わたし、きれいでしょ? わたしを見て!」って言っているようなきれいな花は卑しい、って。
いとう:まさしく太郎節ですね(笑)。
平野:植物も放ったらかしです。これなんて、作品のなかから生えちゃってる。
いとう:いいじゃないですか。
平野:でもときどきお客さんに叱られるんですよ。「ちゃんと管理しなさい」ってね(笑)。
いとう:いやいや。これこそが命ですよね。
平野:どうやら若い人たちはこの庭をパワースポットだと思ってくれているらしいんですよ。まあたしかに、青山のド真ん中にこんな古代遺跡みたいな場所は他にないですからね。
いとう:まだここに太郎さんがいるんじゃないかって思っちゃいますね。
平野:記念館は写真撮り放題、彫刻も触り放題なんです。演出一切なし。
いとう:それがすごい。つくりものかなと思いましたからね。このバナナっぽいのだって生きてるんでしょ? 冬なのに。
平野:やっぱり放ったらかしだからいいのかな?
いとう:そう、そう。だからカッコイイんです。
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次回は記念館の展示棟をご案内いたします。

いとうせいこう
作家・クリエイター
1961年、東京都生まれ。編集者を経て、作家、クリエイターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。
著書に『ノーライフキング』『見仏記』(みうらじゅんと共著)『ボタニカル・ライフ』(第15回講談社エッセイ賞受賞)など。
『想像ラジオ』『鼻に挟み撃ち』で芥川賞候補に(前者は第35回野間文芸新人賞受賞)。テレビでは「白昼夢」(フジテレビ)「オトナに!」(TOKYO MX)などにレギュラー出演中。
浅草、上野を拠点に「したまちコメディ映画祭in台東」では総合プロデューサーを務めている。