数多くの賞を受賞し世界的にも注目されている建築家 藤本壮介さんとの対談です。
第三回目も《太陽の鐘》についてお伺いします。
「たった一本の棒」で新しい物語が生まれる?

〈前回までは〉
藤本壮介①「ローコストなのに、けっこうアクロバティックなこともやってるし。」
藤本壮介②「内側から湧き出してくるようなイメージにできないか、とも考えました。」



「森と一緒に打つくらいじゃないとほんとうの意味で響かないんじゃないかって思ったんです。」

平野: 《太陽の鐘》には地面から植物が這いあがっています。今後上へ上へと伸びていく。いずれ作品すべてが植物に覆われて、最後にはほんとうに見えなくなってしまうかもしれません。曖昧な気配だけを残して、作品は姿を消す…。

藤本:もともとこの作品もそこに生えていた。一体になっていたんだっていうイメージです。

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Bell of the Sun – (c) Sou Fujimoto Architects


平野:ぼくはこのアイデアにも痺れたんですよ。

藤本:昔からあるものって、だんだんとコケなどが入り混じって、自然のなかに溶け込んでいきますよね。そんなふうに地球の一部になればいいなと。ただ、そんなことをしていいのかって、さすがに心配になって、そこは平野さんに確認せねばと(笑)。

平野:作品がコケや草に包まれていく、っていうアイデアを聞いて、ぼくはすごく嬉しかった。なぜなら、それがある種の「決意表明」になると思ったからです。

藤本:というと?

平野:一般の彫刻は美術館を巡回するわけだけど、どこに行こうが行儀よくきちんと収まる。その意味でとても抽象的な存在です。でも、地域のモニュメントはそれでは意味がない。〝引っ越すことなんかあり得ない〟という姿をしていないとね。植物と一体化する《太陽の鐘》は、身をもって〝ここに骨を埋めます〟と宣言している。なにしろ地面から〝生えている〟わけだから。

藤本:そう言っていただけて嬉しいです。

平野:鐘を撞き方も最高です。

藤本:ありがとうございます。

平野:なにがいいって、バカげてるじゃない、アレ(笑)。無駄に長いでしょ?

藤本:はい(笑)。

Bell of the Sun - (c) Sou Fujimoto Architects
Bell of the Sun – (c) Sou Fujimoto Architects


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Bell of the Sun – (c) Sou Fujimoto Architects


平野:でもそれってすごいことだし、いちばん大事なことだと思います。太陽の塔があれほどの強度をもっているのも、けっきょくはバカげいているからですよ。意味がないし、無駄にデカイから。

藤本:なるほど。

平野:でもバカげたものをつくるのって、とてもむずかしいし、エネルギーの要ることですからね。合理的なものをつくるほうがよほど楽です。

藤本:そうかもしれませんね。

平野:いくら「思い切って自由に」と言われても、さすがに彫刻そのものを加工するわけにはいかない。たしかにむずかしいオーダーだったと思います。でも藤本さんは、敷地が極端に細長いという不利な条件を逆手にとって、バカげた長さの撞木をつくることで乗り切った。伊豆から引っ越してきた《太陽の鐘》が、これで名実ともに〝前橋の作品〟になった。

藤本:ありがとうございます。

平野:たった一本の棒で新しい物語をセットしたわけだから、すごいことです。

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藤本:でもじつは、どうやって鳴らすかって、けっこうたいへんだったんですよ。

平野:ああ、そうでしょうね(笑)。

藤本:最初から、鳴らし方が独特だといいな、とは思っていたんです。設置場所が川に面していたので、当初、川の反対側から撞くのはどうだろう? みたいなことを考えていて……長い撞木のアイデアはそのときに一度出てきていたんです。

平野:川の反対側から撞くって、いいなあ、ナンセンスで。なんの意味もないもんね(笑)。

藤本:その後プランが森に変わったときに、森の奥に太郎さんの作品があるんだけど、森のせいでよく見えない。見えないところから音がやってくるってのおもしろいなって思って。

平野:森の向こうから音だけが来る。

藤本:しかも鐘を近くに行って撞くよりは、見えないなにかに向かって撞くほうがおもしろいんじゃないかと。それで長い撞木のアイデアが復活したんです。

平野:向こうにある森そのものを打つっていう感じですね。

藤本::そうです。

平野:鐘と森が一体になっているから、森を打つという行為が、なにか精神的な働きかけをするアクションみたいな風にも思えてきますよね。

藤本:太郎さんの鐘を撞くんだったら、そのくらいの距離から撞かないと響かないんじゃないか。森と一緒に打つくらいじゃないとほんとうの意味で響かないんじゃないかって思ったんです。

平野:逆に鐘の前にいる人からすると、だれが撞いているの? っていう話になる。だれが撞いているのか、よく見えないですもんね。

藤本:それも楽しいかなと思って。

平野:そんな撞木でちゃんと音が出るのか、といういちばん肝心なポイントについては…?

藤本:まったくわからなかったです(笑)。

平野:(爆笑)

藤本:だからドキドキでした。

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平野:それって《歓喜》とおなじじゃないですか。

藤本:名古屋の梵鐘ですね?

平野:原型を見た鋳造職人に、この形だと鳴らないかもしれないって言われたんだけど、太郎は即座に「鳴らなくたっていいんだ」と言い切ったらしい。

藤本:太郎さんらしいですね(笑)。

平野:「鳴らなかったら、テープレコーダーでも置いとけばいいんだ」「だいたい、荘厳な鐘の音が山々に響きわたり、清らかな気持になる、みたいなのが不潔なんだ」って言って。

藤本:(笑)

平野:でも、じっさいに出来あがって鳴らしてみたら、めちゃくちゃいい音がしたんです。しかも楽器のように叩く場所で音が変わる…世界にひとつの鐘になった。

藤本:素晴らしいですね。

平野:おなじですよ。鳴るかどうかわからないくらい尖ったアイデアを出して、しかもそれをやり切ったんだから。

藤本:ありがとうございます。

平野:じっさいとてもいい音がするし。

藤本:最初はうまく鳴らなかったらしいんです。スタッフからそういう連絡が来ました。

平野:どうやって鳴るように?

藤本:どうも軽くコーンって当てるのがいいらしいんですね。それで先端の仕組みを施工する人と一緒に考えて……けっこう試行錯誤しました。撞くときも1回目は揺らすだけとか、2回目がジャストで3回目だと力が入りすぎてしまうとか。

平野:マナーがあるんですね(笑)。

藤本:そういうのがわかってきて。それでようやく鳴るようになったんです。



次回は予測不能な藤本さんの魅力について。

藤本壮介④「ぼくは感性だけではつくりたくないと考えていますが、だからといってロジックだけでつくりたいとも思わない。」

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藤本壮介

1971年 北海道生まれ。
東京大学工学部建築学科卒業後、2000年 藤本壮介建築設計事務所を設立。
2014年 フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞、2015年 パリ・サクレー・エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター国際設計競技最優秀賞につぎ、2016年Réinventer Paris 国際設計競技ポルトマイヨ・パーシング地区最優秀賞を受賞。
主な作品に、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013 (2013年)、House NA (2011年)、武蔵野美術大学 美術館・図書館 (2010年)、House N (2008年) 等がある。