数多くの賞を受賞し世界的にも注目されている建築家 藤本壮介さんとの対談です。
第四回目は予測不能な藤本さんの魅力について。

〈前回までは〉
藤本壮介①「ローコストなのに、けっこうアクロバティックなこともやってるし。」
藤本壮介②「内側から湧き出してくるようなイメージにできないか、とも考えました。」
藤本壮介③「森と一緒に打つくらいじゃないとほんとうの意味で響かないんじゃないかって思ったんです。」



「ぼくは感性だけではつくりたくないと考えていますが、だからといってロジックだけでつくりたいとも思わない。」

平野:ぼくが藤本さんに感じる最大の魅力は、なにが出てくるのか読めないところ。著名な建築家はたいてい、その人ならではの様式・マナーみたいなものがあって、それがアイデンティティになっています。たとえば安藤(忠雄)さんなら端正でマッシヴなコンクリート、みたいに。でも藤本さんの場合は予測不能なんですよね。

藤本:(笑)

Forest of Music - (c) Sou Fujimoto Architects
Forest of Music – (c) Sou Fujimoto Architects


Forest of Music - (c) Sou Fujimoto Architects
Forest of Music – (c) Sou Fujimoto Architects


平野:藤本さんの原体験はどういうものだったんですか?

藤本:これだっていうものは思い浮かばないんですけど、いま振り返ってみると、いくつかあるような気もします。ぼくが育ったのは北海道の田舎で、家の裏山で遊んでいたんです。

平野:はい。

藤本:それほど広大な森じゃないけど、いわゆる雑木林があって、木をかきわけて中に入っていくんです。樹々の中にいると不思議と守られているような気持ちになるんだけど、でもたんに安心できる場所というのとは少しちがっていて、行くたびにちがう体験が待っている、というか、いつ行ってもなにかがちがっている、というか…。そういう感覚はどこかに残っていますね。

平野:陽の動きで光の入り方が刻々と変わる感じとか……、すごく狭いところを歩いていると、とつぜん視界が開けたりする感じとか…

藤本:かと思うと急に穴があったり、木が邪魔したり、それを乗り越えないといけなかったり……

平野:藤本さんの建築にはその感じがありますよね。藤本さんの建築って、もちろん多くの部分はロジカルに詰められているんだろうけど、いちばん深いところで支えているのは〝理屈抜きの身体感覚〟みたいな感じがどこかにありますもんね。

藤本:そうかもしれないですね。

平野:その後、藤本青年は建築を志すわけだけど、その時分に感動した空間とか、憧れの建築家っていうと…

藤本:たしかに建築はたくさん見たし、いっぱい感動しましたけど、でもそれが自分の原点なのかっていうと、ちょっとわからないですね。

平野:ぼくは「藤本壮介はなにに感動したのか」ってすごく興味があるんですよ。たとえばコルビュジエだとどれが好きですか?

藤本:最初にコルビュジエを見て感動したのは、「ユニテ・ダビタシオン」というマルセイユの集合住宅です。いわば高層マンションの原型みたいなものですね。本で見ているときは普通のマンションだと思っていたんですけど、じっさいに行ってみたらぜんぜんちがっていて、とても感動しました。

平野:ぼくは見てないんですよ、それ。

藤本:不思議な建物です。足元にはなんていうか、原始的な脚が立っていて、それで建物を浮かせているんです。でもその上は幾何学的に美しく分割されている。

平野:へえ。

藤本:それを見たときに、重くて荒々しいけど、同時にすごく数学的と言うか…概念的な考えがあるなって。

平野:見た目の重さ、一方に透明感、みたいな?

藤本:そうです。軽やかさと重さ、概念と実物、ぜんぶが合わさっているように感じて、深く感動しました。そこからどんどんコルビュジエにのめり込んでいったんです。

平野:なるほど。

藤本:それが最初に見たコルビュジエで、そのあとにロンシャンの教会などにも行きました。でも当時はまだちょっとついて行けないなっていう感じで。

平野:それは学生のとき?

藤本:大学4年生のときです。もっとも、学部の4年生って、ほとんどなにもわかってないですからね。

平野:まあ、それでも、直感的にいいと感じたわけですよね、コルビュジエの集合住宅を。そのときの感動って、やっぱりその後の藤本さんをなんらかの形で規定しているんじゃないかなあ。

藤本:そうかもしれないですね。ぼくは感性だけではつくりたくないと考えていますが、だからといってロジックだけでつくりたいとも思わない。その行ったり来たりが
あるんです。

平野:わかります。

藤本:ロジックで考えたことを感性側に振ってみるとか、そういうやり取りを繰り返しながら前に進んでいくんです。

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平野:藤本さんの建築って、見た目が普通じゃないというか…(笑)、とても斬新だから、もしかしたら誤解されることが多いかもしれませんね。粘土をペチャペチャこねて、「これおもしろいじゃん!」っていうふうにやっているんだろうって。

藤本:そうかもしれませんね。

平野:でもじっさいは逆ですよね。背後にはプロジェクトを支える〝原理〟がきちんと構築されている。けっして思いつきじゃないし、ウケ狙いの飛び道具でもない。

藤本:そうありたいと思っています。

平野:たぶん藤本さんは、右脳と左脳が同時に動いているんじゃないかな。それってなかなかできることじゃないらしいですよ。

藤本:そうなんですか。

平野:以前、NHK のプロデューサーに聞いたんですけどね。将棋って何百手も先を読むロジカルなゲームだと思われているし、じっさいそうなんだけど、羽生さんくらいになると少しちがうらしいんですよ

藤本:羽生善治永世七冠ですね。

平野:番組でヘッドギアみたいな装置をつけて、将棋を指しているときの脳の動きを映像化したところ、そのプロデューサーは左脳がちょっと赤くなっただけだったのに、羽生さんは右脳も左脳も真っ赤だったらしいんです。

藤本:へえ!

平野:どうやら羽生さんは、まず直感で「ここかな?」って差し手をイメージするらしいんです。で、そのあと、それがほんとうに正しい選択かどうかをロジカルに検証していく。一手ずつ読んでいって、最後に「ああ、やっぱりこの手でいいんだ」となる。

藤本:すごいですね。

平野:右脳と左脳が同時に動いているんですよ。そのプロデューサーは、「平野さん、普通の人はそんなことできないから!」って言ってましたけど、たぶん藤本さんは羽生さんに近いんじゃないかな。

藤本:そんな、畏れ多い・・・(笑)

平野:ぼくはそれが藤本さんの強みの源泉だと思う。

藤本:感覚だけだとやっぱり不安になって…。ぼくはわりと根が真面目なんですよね(笑)。



次回は藤本さんが建築を志した理由とは。

藤本壮介⑤「大学に入ったら、物理がめちゃくちゃむずかしいってことがわかったんです。」

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藤本壮介

1971年 北海道生まれ。
東京大学工学部建築学科卒業後、2000年 藤本壮介建築設計事務所を設立。
2014年 フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞、2015年 パリ・サクレー・エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター国際設計競技最優秀賞につぎ、2016年Réinventer Paris 国際設計競技ポルトマイヨ・パーシング地区最優秀賞を受賞。
主な作品に、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013 (2013年)、House NA (2011年)、武蔵野美術大学 美術館・図書館 (2010年)、House N (2008年) 等