数多くの賞を受賞し世界的にも注目されている建築家 藤本壮介さんとの対談です。
第六回目は藤本さんのレールに乗らなかったそのキャリア形成について。

〈前回までは〉
藤本壮介①「ローコストなのに、けっこうアクロバティックなこともやってるし。」
藤本壮介②「内側から湧き出してくるようなイメージにできないか、とも考えました。」
藤本壮介③「森と一緒に打つくらいじゃないとほんとうの意味で響かないんじゃないかって思ったんです。」
藤本壮介④「ぼくは感性だけではつくりたくないと考えていますが、だからといってロジックだけでつくりたいとも思わない。」
藤本壮介⑤「大学に入ったら、物理がめちゃくちゃむずかしいってことがわかったんです。」



「もしかしたら流されて、自分を見失っちゃうんじゃないか、みたいなことを考えたりして。」

平野:建築の世界で本場といえばヨーロッパ。さっきも少し話が出たけど、向こうに行ってはじめて本場の建築を体験して、いちばん感激したのはどういうところでした?

藤本:ぼくは感激しやすいんで…(笑)。やっぱりローマに行かなきゃと思って、ローマに行ったんですけど・・・コロッセオが・・・いまだに大好きなんです。

平野:コロッセオか。

藤本:いまでは考えられないスケールと空間で・・・これか!って思いました。

平野:感激した要素を一言で説明してくださいって言ったら、なんて答えます? 「美しさ」? あるいは「端正さ」?

藤本:いや、むしろいい感じの「荒々しさ」かな。

平野:ああ、なるほど。

藤本:プランは楕円形で非常にきれいだけど、遺跡だからそこらじゅうガビガビになっていて、美しい感じと荒々しい感じの両方あるでしょう?

平野:たんなる汚い廃墟じゃない。

藤本:そうです。それだとおもしろくない。きちんと秩序がありながらも、それにおさまらない感じがすごく美しいなと。

平野:いかにも藤本さんらしい見方だ。

藤本:反対にパンテオンはきれいすぎるかなって。

平野:うん。

House NA - (c) IWAN BAAN
House NA – (c) IWAN BAAN


藤本:その辺も含めて、コロッセオの方が好きですね。「やっぱりコロッセオっていちばんだよなぁ」みたいな感じで見てました。

平野:そうしているうちに学生生活が終わるわけですね。建築学科の学生は、ゼネコンに入るか、役人になるか、建築家を目指すか、みたいな感じで就職先を決めるわけだけど、藤本さんのように建築家を目指す学生は、アトリエ派の建築家のもとで修行するのがふつうです。でも藤本さんはそうしなかった。キャリア形成の点でも例外的ですよね。

藤本:もちろん「これからどうしよう?」とは思っていたんです。みんな大学3年の半ばくらいから就職活動をはじめるんですけど、ぼくからすれば、3年の中頃ってまだ建築を学びはじめて1年くらいしか経っていない。

平野:そうですね。

藤本:建築の世界でやっていくにしても、まだなんにもないな、どうしよう? と。このままレールに乗ってステップアップしていくのが建築家への道とはわかっていても、そのレールに乗れるのかなぁって。

平野:まだ勉強不足じゃないかと?

藤本:なにも知らないしなって。それに、日本を代表する建築家の方ってやっぱり強烈なスタイルや個性があるから、そこに入ったら自分は弱いかなとか。もしかしたら流されて、自分を見失っちゃうんじゃないか、みたいなことを考えたりして。

House NA - (c) IWAN BAAN
House NA – (c) IWAN BAAN


平野:エリートなのに、めちゃくちゃ悲観的じゃないですか(笑)

藤本:単純に不安だったんですよね、いろいろなことが。でも、だからといって、ひとりでやるっていうのもなぁと。

平野:そりゃそうでしょう。いきなりひとりではじめる方がよっぽどハードル高いです。

藤本:どうしようどうしよう、と思っているうちにどんどん時間が過ぎていって…。で、しょうがないから、ちょっとひとりにさせてもらいましょうと。一大決心みたいなこととはまったくちがうんです(笑)。

平野:考える時間をくださいと。

藤本:1年なのか2年なのか5年なのかわからないけれど、とにかく一生やっていく建築というものを自分なりに落ち着いて考える時間が欲しいと思って。

平野:偉い建築家の先生のところに行って自分を見失うよりは、そういうところからはじめた方がいいと思ったんですね。

藤本:意外と流されやすい性格でもあるんで、組織に属したら、そこにうまくなじんで終わってしまうかも、っていうのもありました。

平野:要するに、「浪人します」みたいな感じだったわけですね。

藤本:そうです。オレはだれにも邪魔されずにやっていくぞ!っていう感じじゃなくて、いまオレ、自分がわかってないから…、みたいな。

平野:完全なるモラトリアム人間じゃないですか(笑)。

藤本:そうです(笑)。最初はそんな感じでした。ただ、性格的にも、もともとひとりで考えるのが好きだったんですよ。

平野:自分のペースで考える、という環境やスタイルが藤本さんに合っていた、ってことですね。

藤本:やりはじめてみたら、もしかしたら自分に向いてるのかもしれないって思いはじめて。やっぱり建築が好きだったので、スケッチを描いて、コンペに出して…っていうのをひとりでやってました。

平野:どのくらいひとりで?

藤本:7、8年です。



次回は藤本さんの個性、スタイルついて。

藤本壮介⑦「欲しくないって言い切れるほど、まだそこまで開き直ってないです(笑)。」

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藤本壮介

1971年 北海道生まれ。
東京大学工学部建築学科卒業後、2000年 藤本壮介建築設計事務所を設立。
2014年 フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞、2015年 パリ・サクレー・エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター国際設計競技最優秀賞につぎ、2016年Réinventer Paris 国際設計競技ポルトマイヨ・パーシング地区最優秀賞を受賞。
主な作品に、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013 (2013年)、House NA (2011年)、武蔵野美術大学 美術館・図書館 (2010年)、House N (2008年) 等