数多くの賞を受賞し世界的にも注目されている建築家 藤本壮介さんとの対談です。
第八回目は藤本流クライアント対応法!
〈前回までは〉
藤本壮介①「ローコストなのに、けっこうアクロバティックなこともやってるし。」
藤本壮介②「内側から湧き出してくるようなイメージにできないか、とも考えました。」
藤本壮介③「森と一緒に打つくらいじゃないとほんとうの意味で響かないんじゃないかって思ったんです。」
藤本壮介④「ぼくは感性だけではつくりたくないと考えていますが、だからといってロジックだけでつくりたいとも思わない。」
藤本壮介⑤「大学に入ったら、物理がめちゃくちゃむずかしいってことがわかったんです。」
藤本壮介⑥「もしかしたら流されて、自分を見失っちゃうんじゃないか、みたいなことを考えたりして。」
藤本壮介⑦「欲しくないって言い切れるほど、まだそこまで開き直ってないです(笑)。」
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「敷地の状況などを含めて〝空間に聞く〟みたいな感じです。」
平野:自邸でない限り、建築にはかならずクライアントがいるわけじゃないですか。
藤本:はい。
平野:でも、「お客様、どのようにいたしましょう? ご希望のものをおつくりいたします」っていうアプローチで創造的なものができるわけがない。
藤本:そうですね。
平野:〝御用聞き〟でクリエイティブな作品はつくれないけれど、だからといって、とうぜんながらクライアントの意向を無視するわけにもいかない。
藤本:そのとおりです。
平野:もちろんクライアントの話の中にヒントや可能性が隠れているかもしれないけど、でもやっぱりクライアントは素人だし、わがままだし、いろいろ言いたがるし…(笑)。クライアントとのつきあいはむずかしいでしょう?
藤本:むずかしいですね。昔はどうしたらいいんだろうと悩んでいました。でもある段階から、とにかく話を聞くしかないと。
平野:はい。
藤本:話を聞くっていうのは、もちろん直接話をするってこともあるけれど、それだけじゃなくて、たとえばその人の醸し出す雰囲気とか、あるいは病院だったらその病院の雰囲気とか…、敷地の状況などを含めて〝空間に聞く〟みたいな感じです。
平野:なるほど。
藤本:とにかくいろいろと丁寧に聞くっていうのが大事だと思うんです。もちろん聞いたことにそのまま答えるだけではおもしろくないので、そこは拡大解釈したりして。
平野:よくわかります。
藤本:おもしろいものになるように膨らませて、もう1回ぶつける、といったような作業をしていますね。
武蔵野美術大学 美術館・図書館所蔵
平野:でも藤本さんがおもしろいと思うことって、理解されないこともあるでしょう?
藤本:昔はそれでけっこう断られました(笑)。
平野:あ、やっぱり(笑)。
藤本:この感じはおもしろそうだってもって行くんですけど、「すみません、これには住めません」って言われて。…まぁ、しょうがないなと。
平野:いっぽうでそうじゃない人もいる。
藤本:こちらが拡大解釈してつくったアイデアをもっていったときに、「それはおもしろいですね」と喜んでくれるクライアントもいます。これまで実現したのはそういう建物です。
平野:クライアント自身に、おもしろいアイデアをもっている人もいるんですか?
藤本:いま東京に建っている住宅で、床がいっぱいあって段々になってるものがあるんですけど、それなんかはクライアントと最初に雑談しているときに、「いまどんなところにお住まいなんですか」って聞いたら、普通のマンションだけど、なにもかも部屋の角でやっている、とおっしゃるんですよ。「部屋の形と関係なく暮らしている」と。
平野:へえ。
藤本:「あ、これだ!」と思って。普通に部屋を並べるんじゃなくて、この角、この角、この角をみんな別々にして、ぜんぶ積みあげたらいいんじゃないか、というアイデアが出てきたんです。敷地も狭かったし。
平野:おもしろいなあ。
藤本:さっそく事務所に戻ってやってみたらおもしろくなりそうだったんで、「これはもしかしたら!」と。
平野:そうはいっても、じっさいにプランを見せたらときはクライアントもびっくりしたでしょう?
藤本:それだけもっていって「ごめんなさい」って言われるのも困るから、ぼくらも警戒して、普通っぽいヤツも抱き合わせにして…
平野:(笑)
藤本:ところが、プレゼンが終わると彼らは「これがいちばんしっくり来ました」って言ってくれたんです。
平野:ああ、それはよかったですね。まさにWin-Winの関係だ。
藤本:とても気に入ってくださったので、嬉しかったですね。どうしても予算があわないという話になったときも、ぼくが「ここを削ればあうかもしれません」って言っても、「ダメです! この全体が気に入っているんですから!」って。
平野:へえ。
藤本:住宅はとくに具体的な要望とセットになっているので、ほんとうにうまく合ったときには「これは」っていうのができるんですよね。
平野:反対に図書館みたいな大きいものだとどうですか?
武蔵野美術大学 美術館・図書館所蔵
藤本:規模が大きくなってくると、大きなコンセプトみたいなものをおもしろがってもらえれば、あとは任せてもらえることが多いですね。
平野:あ、そうか。
藤本:集合住宅や1万㎡規模になってくると、「この考え方はおもしろい。あとの細かいところは、建築家としていいと思うものをきちんとやってくださいね」みたいな感じが多いです。最近はだんだんそうなってきましたね。
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次回は藤本さんのリスペクトする建築家とは?

藤本壮介
1971年 北海道生まれ。
東京大学工学部建築学科卒業後、2000年 藤本壮介建築設計事務所を設立。
2014年 フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞、2015年 パリ・サクレー・エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター国際設計競技最優秀賞につぎ、2016年Réinventer Paris 国際設計競技ポルトマイヨ・パーシング地区最優秀賞を受賞。
主な作品に、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013 (2013年)、House NA (2011年)、武蔵野美術大学 美術館・図書館 (2010年)、House N (2008年) 等