数多くの賞を受賞し世界的にも注目されている建築家 藤本壮介さんとの対談です。
第九回目は藤本さんのリスペクトする建築家とは?

〈前回までは〉
藤本壮介①「ローコストなのに、けっこうアクロバティックなこともやってるし。」
藤本壮介②「内側から湧き出してくるようなイメージにできないか、とも考えました。」
藤本壮介③「森と一緒に打つくらいじゃないとほんとうの意味で響かないんじゃないかって思ったんです。」
藤本壮介④「ぼくは感性だけではつくりたくないと考えていますが、だからといってロジックだけでつくりたいとも思わない。」
藤本壮介⑤「大学に入ったら、物理がめちゃくちゃむずかしいってことがわかったんです。」
藤本壮介⑥「もしかしたら流されて、自分を見失っちゃうんじゃないか、みたいなことを考えたりして。」
藤本壮介⑦「欲しくないって言い切れるほど、まだそこまで開き直ってないです(笑)。」
藤本壮介⑧「敷地の状況などを含めて〝空間に聞く〟みたいな感じです。」



「いい建築にはそれぞれにおもしろさがあって、節操ないけど、いろいろ好きなんです。」

平野:藤本さんにとって、リスペクトする建築家、あるいは目指す建築家像って、どんな感じなんだろう?

藤本:若い建築家をプッシュして次世代を育てている伊東(豊雄)さんみたいになりたいなぁっていうのはありますね。妹島(和世)さんもそうですけど。

平野:ああ、なるほど。

藤本:一方で、一度しかお会いしたことがないのですが、フランク・ゲーリーはカッコいいと思います。あの歳になっても過激にやりつづけるっていうのに憧れますね。

平野:藤本さんの建築ってだれにも似ていないから、「みんな好きです!」って言うか「どれも興味ないです」って言うかのどちらかだと想像してました。

House NA - (c) IWAN BAAN
House NA – (c) IWAN BAAN


藤本:ぼくの作品ではガラス張りの家がけっこう有名だから、「安藤さんの《住吉の長屋》みたいな建築は好きじゃないんでしょう?」みたいなことをよく言われるんですけど、ぜんぜんそんなことはなくて、むしろ安藤さんの建築はすごく好きなんですよ。空間性、外部との関係、タイムレスなところ。「好みのスタイル」みたいなものはないけど、いい建築にはそれぞれにおもしろさがあって、節操ないけど、いろいろ好きなんです。

House NA - (c) IWAN BAAN
House NA – (c) IWAN BAAN


平野:藤本さんの建築って、コンセプトも形もぜんぶちがうけど、いろいろと見ていくうちに、なんとなくひとつのイメージが立ちのぼってきたんですよ。

藤本:え、なんですか?

平野:未開部族の集落です。たとえばアフリカのヌバ族みたいな…。

藤本:ヌバ族ですか、、、?

平野:なぜだろう? なんでオレは未開部族の集落をイメージしたんだろうって考えたんだけど、たぶんリズム感なんですよね。藤本さんの作品には強烈な〝グルーヴ〟があるんですよ。

藤本:グルーヴ!?

平野:そう、グルーヴ感。ジャズにはジャズの、ソウルにはソウルの、雅楽には雅楽のグルーヴがあるように、藤本さんの建築もグルーヴしている。これは他の建築には感じたことのない感覚です。

藤本:なにをおっしゃっているのか、ぜんぜんわからないです(笑)。

Mille Arbres - (c) SFA+OXO+MORPH
Mille Arbres – (c) SFA+OXO+MORPH


平野:つまり藤本さんの建築は、ポリリズムで出来ているんですよ。とても音楽的なんです。グルーヴって、波形のちがうリズムが折り重なって生まれるものでしょう? 単一リズムを正確に刻むメトロノームはけっしてグルーヴしない。

藤本:はい。

平野:藤本さんの建築って、構成原理がものすごくポリリズム的っていうか、波形がちがう複数の原理が複雑に交わりながらひとつのリズムを織りなしているように見えるんです。

藤本:ああ、なるほど。

平野:やっていることは複雑だけど、一見シンプルに見える。でも、未開部族の祭りだって、ポリリズムだからグルーヴするんだし、集落だって、適当に配置しているように見えて、じつは背後に多様な原理が働いている。藤本さんの建築にある種のプリミティブな気配を感じるのも、そう考えれば腑に落ちる。

藤本:いやあ、おもしろいです。建築の世界にグルーヴなんて概念はないですからね。ぼくの建築はグルーヴしている……なんか、嬉しいなあ(笑)。

平野:してますよ(笑)。すくなくとも静止してないじゃないですか、藤本さんの建築って。リズムを刻んで動いているでしょう? さっきの例でいえばコロッセオに近い。パンテオンは止まっている。休止符です。

Mille Arbres - (c) SFA+OXO+MORPH
Mille Arbres – (c) SFA+OXO+MORPH


藤本:ぼく自身はそういうことを意識的に考えたことはないけれど…、そういえば「複雑系」の話に近いかもしれませんね。自然の波のゆらぎとか、森のざわざわした感じとか、そういうものに物理や数学のロジックを当てはめるっていうのが90年代ぐらいにアメリカから輸入されたことがあって、日本でもブームになったでしょう?

平野:はい。

藤本:ぼくは物理が好きだったから、これはおもしろいと思って、それをなんとか建築に応用できないかと試したことがあるんです。だけどそれがさらに複層化してっていうのは意識としてはなかった。だけど建築って複雑な事象を取り扱うので、潜在的なレイヤリング=重ねあわせみたいなことをやってきたのかもしれないですね。

平野:藤本さんは、ものすごく複雑なことをやっているのに、最後にはシンプルなところまでもっていく。一見プリミティブに見えるけど、じつはその中に多層的な原理が、CTスキャンの写真のように何層にも入っている。

藤本:それができたらいいですね。もしその兆しがあるなら嬉しいけど、まだまだ道半ばです。

Mille Arbres - (c) SFA+OXO+MORPH
Mille Arbres – (c) SFA+OXO+MORPH


平野:状況がややこしくなればなるほど力を発揮するタイプの建築家だと思います。《太陽の鐘》にしても、いろいろな事情があったけど、なにも捨てずにぜんぶバインドしてみせたじゃないですか。「オレはこれをやりたいから、悪いけど平野さん、これは諦めてよ」なんて話は一切なかった。むしろ対談の冒頭で話したように、新しい意味や価値、そして新しい物語を与えてくれた。

藤本:ありがとうございます。

平野:スター建築家、マッチョな建築家の中には、状況が複雑なときに、力でなんとかしようとする人が少なくないと思うんです。自分の手法や自分のデザイン原理で。
でも藤本さんはそうじゃない。力でねじ伏せるんじゃなくて、すべて受け入れたうえで、それぞれのレイヤーで検証し、ぜんぶバインドする道を探す。

藤本:そうありたいとは思いますね。そもそも建築家ってそういう存在ですから。じつは依頼を受けて海外に行くと、「藤本のシグネチャーが欲しい」って言われることがよくあるんです。

平野:その建築家の〝署名〟、つまりその建築家がデザインしたことが一目でわかる目印をデザインに織り込んでくれ、ということですね。

藤本:そうです。受け入れてバインドするのと対極の、力を表現することを求められる。先方はたまたま目にしたぼくの仕事からぼくをイメージしているわけですが、それをそのまま新しいプロジェクトにもっていってもおかしなことになるだけでしょう? そういう期待は、ありがたいことでもあるのですが、僕本来の方法とは対極で、そのまま調子に乗ってやってはいけないな、と自戒しています。

平野:せっかく著名な建築家に依頼したんだから〝署名〟が欲しい、っていう気持ちもわからないではないけど、本質とは少しちがう話ですからね。

藤本:そういう場合でも、丁寧に状況を聞いていくうちに面白いバインドができてきて、それが結果的に鮮やかなシンプルさに至るように持っていきます。そうするとクライアントには喜んでもらえることが多いですね。



次回は最終回。
日本と世界の関係。そしてこれからの建築。

藤本壮介⑩「ベタな意味じゃなくて、しっかり深いところで理解したいという思いは強くもっています。」

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藤本壮介

1971年 北海道生まれ。
東京大学工学部建築学科卒業後、2000年 藤本壮介建築設計事務所を設立。
2014年 フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞、2015年 パリ・サクレー・エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター国際設計競技最優秀賞につぎ、2016年Réinventer Paris 国際設計競技ポルトマイヨ・パーシング地区最優秀賞を受賞。
主な作品に、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013 (2013年)、House NA (2011年)、武蔵野美術大学 美術館・図書館 (2010年)、House N (2008年) 等