ドキュメンタリー映画『太陽の塔』の監督であり日本が世界に誇る若手広告映像ディレクター関根光才さんとの対談です。
第八回目は「感覚と刺激」。

〈前回までは〉
関根光才①「太陽の塔に対して、『アレはヤバイな』とは思っていたんです。」
関根光才②「『どうやって太陽の塔を超えるか』みたいな話をしなきゃいけないだろうと思ったんです。」
関根光才③「自分たちの存在って何なんだろうとか、なんでこんなことをして生きているんだろうとか。」
関根光才④「勉強に一年くださいって平野さんにお願いしたけど、「ムリ!」と一蹴されて(笑)。」
関根光才⑤「最初のトリートメントからそんなに遠くなかったね」って言ったのを覚えています。
関根光才⑥「外の世界が平和じゃなくても、自分たちは平和に暮らしたい。」
関根光才⑦「それでいて壊しながら串刺しにするようなものが欲しいと思って。」

「呪術的、原始的、本質的」であること。

平野:太陽の塔内部の再生工事が無事に終わり、3月から一般公開がはじまりました。目玉のひとつが、塔の手前に増設された展示室に設置されている〈地底の太陽〉です。大阪万博テーマ館のために太郎がつくった巨大な仮面で、直径3m*長さ13m。いわば「地下展示」の〝主〟だったんだけど、万博閉幕後のドサクサで行方不明になり、いまも見つかっていません。今回、太陽の塔の再生の機に、この幻の作品を復元することにしたんだけど、たんに美術品として鑑賞するだけでなく、映像・照明を駆使した空間演出をしようと考えた。映像の監督は関根さん以外には考えられなかったから、無理をいって引き受けていただきました。

関根:とてもエキサイティングな経験でした。おもしろかったです。

平野:読者のために少し事情を説明しておくと、「地下展示」とは大阪万博テーマ館の一部で、文字どおり地下部分に設けられた展示空間のこと。3つのゾーン〈いのち〉〈ひと〉〈いのり〉で構成されていて、〈地底の太陽〉は最後の〈いのり〉に置かれていました。〈いのり〉は、世界から集めた仮面や神像が中空に浮かぶ、という神秘的な空間で、〝神々の森〟〝神々のまつり〟を想起させる呪術的な気配に満ちていた。〈地底の太陽〉はその中心に鎮座していました。原始のまつりの〝司祭〟みたいな風情で。

関根:「地下展示:根源の世界」と名づけられていたように、3つのゾーンは切り口は違えども、いずれも人間の生命の根源に迫るもの。いま見ても強烈で、エキサイティングです。万博でこういう展示って、かなり珍しいですよね。

平野:太陽の塔、テーマ展示ともに、大阪万博で太郎がつくった施設は、万博史に残るたったひとつの〝異物〟です。万博には167年の歴史があるけれど、万博の価値観に弓を引いたのは、後にも先にもこれしかない。

関根:万博の価値観…

平野:万博はもともと工業国家、近代国家の建設レースを競っていた列強が重用した産業政策です。ミッションのひとつは進歩思想を大衆に打ち込むこと。「進歩は善であり正義である」という思想を啓蒙して、産業発展へのモチベーションをかきたてる。大衆に「進歩がつくる輝かしい未来」を実感させるために、近未来を疑似体験させるわけです。

関根:平野さん、映画のインタビューのなかでもおっしゃってましたよね。

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平野:ところが、太郎は「進歩がひとを幸せにする」なんて、露ほども信じていない。なにせ「人類は進歩なんかしていない」って言っていたくらいだから。

関根:(笑)

平野:〝土偶怪獣〟のような太陽の塔も、「根源に立ち戻れ」とメッセージする地下展示も、言ってみれば万博の近代思想(モダニズム)への反逆です。

関根:「人間生命の根源」を訴える地下展示と今回再生された太陽の塔の塔内空間は、当時、一体のものとしてつながっていた…。

平野:テーマ展示は一筆書きになっていたので、来館者はひとりの例外もなく、まず地下展示を観て、それから塔内に入ったんです。

関根:塔内空間の前には地下展示があった。それを伝えるために〈地底の太陽〉を復元したんですね?

平野:そうです。ただし〈地底の太陽〉という〝モノ〟がひとつあるだけでは、あの世界観は伝わらない。そこで映像と照明の力を借りて、当時の展示空間がもっていた独特の空気感や気配をわずかでも追体験できるようにしたいと思ったんです。

関根:平野さんから、〈地底の太陽〉の背後の壁面とともに、作品そのものに映像を投射したい、と聞いてびっくりしました。

平野:映像・照明と〈地底の太陽〉を融合させるにはそれしかないと思ったんですよ。「作品というアンタッチャブルな存在と、補助解説手段としての映像」という構図では、〝空間体験〟にならないから。

関根:なるほど。

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平野:なんといってもビジュアルがほとんど残っていないから、じっさいに映像をつくるのは大変だったでしょ?

関根:現存する資料はわずかな写真だけでした。その写真を使って、かつて芸術的で神秘的な展示空間が存在していたという〝証〟をきちんと見せることはもちろんするけれど、それらを紙芝居のようにめくっていくだけでは平野さんの期待には応えられない。

平野:うん。

関根:そこで、地下展示が体現していた太古からの呼びかけ、根源的な世界観みたいなことをテーマにしながら、その感覚と刺激を再現しようと考えました。

平野:Very Good!(笑)

関根:もちろん、それがどんなものであったのか、ぼく自身は体験していません。そこで、ぼくなりにイメージを膨らませながら、あえて現代の表現、解釈を投入することにしました。

平野:ちょうど映画の制作と重なっていて、関根さんのなかに太郎、太陽の塔、大阪万博の情報が大量に注入されていた。絶好のタイミングでした。

関根:ほんとうにそう思います。アニメーションディレクターに牧野惇さん、その制作にROBOTのチームをお願いし、映画でも音楽を担当しているJEMAPURにサウンドトラックを制作してもらいました。



Jemapur “Maledict Car” from Kosai Sekine on Vimeo.

平野:笑えるところもあるけど、不気味なシーンが多いよね。こどもが泣くらしい(笑)。もともと地下展示がそういうテイストだから、とうぜんなんだけど。

関根:「呪術的、原始的、本質的」であること。それを全体をつらぬくテーマにしようと考えました。ともすれば「怖い」と感じるほどの表現をためらわない。

平野:なるほど。

関根:「生命の根源に迫るとき、生命がぶつかり合い、躍動するとき、恐怖は歓喜と、死は生と等しくなる――」。人間がもともと持っていたであろうそんな感覚を、太郎さんは文明にまみれた人間たちにぶつけ、そこから何かを掴み取って欲しかったのではないかと信じているので。

平野:ぼくもそう思う。

関根:この展示と、ワクワクするぐらいの質量で迫る〈生命の樹〉を通り抜けたとき、1970年に稀代の表現者たちが集結して伝えようとしたことのかけらでも、みなさんに持ち帰っていただけたらと願っているんです。



次回は「こだわり」。

関根光才⑨「どうやったらみんなが乗れるステージをつくれるか。」

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関根光才

1976年生まれ。東京都出身。2005年に短編映画『RIGHT PLACE』を初監督し、翌年カンヌ国際広告祭のヤング・ディレクターズ・アワードにてグランプリを受賞。以降、数多くのCM、ミュージックビデオ等を演出し、2012年短編オムニバス映画『BUNGO~ささやかな欲望~』では岡本かの子原作『鮨』を監督。

2014年の広告作品SOUND OF HONDA『Ayrton Senna 1989』ではカンヌ国際広告祭で日本人初となるチタニウム部門グランプリ等、多数の賞を受賞。国際的にも認知される日本人監督となる。

2018年9月に初の長編ドキュメンタリー映画『太陽の塔』が公開になり、11月には長編劇場映画初監督作品『生きてるだけで、愛。』の公開も控えている。