電子音楽家で関根光才監督による初の長編ドキュメンタリー映画「太陽の塔」の音楽を全編にわたり手掛けられたJEMAPUR(ジェマパー)さんとの対談です。

JEMAPUR②「既存の生命体とは異なる別種の生命を創造しているっていう感じです。」
JEMAPUR③「初期のテープレコーダーリールに、クラシックの音楽などを切り貼りして・・・」
JEMAPUR④「弦楽四重奏のようなものを書いて・・・」
JEMAPUR⑤「音楽というよりも、音そのもの、波の機能にあるんです。」

第1回はJEMAPURさんの考える「サンプリング」とは。

「もはや「複製」というより「破壊」に近いと思います。」

平野:今日はドキュメンタリー映画『太陽の塔』で音楽を担当されている電子音楽家のJEMAPUR(ジェマパー)さんにお越しいただきました。じつは映画の打ち上げの席ではじめてゆっくり話をする機会があったんだけど、メチャクチャおもしろかったんですよ。そのときから関根監督の次は彼って決めてたんです。

Jemapur:よろしくお願いします!

平野:こちらこそ。ところで、まず最初に聞いておきたいんだけど、ぼくはきみのことを何て呼べばいいの?(笑)

Jemapur:ジェマって呼んでください。

平野:OK! ジェマくんね!

Jemapur:はい!

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平野:今日はジェマくんのクリエイティブの方法や、その底流にある哲学などについて、いろいろ聞きたいと思っています。きっとおもしろい。なにしろ、音楽をつくるために、まず竹を切りにいくことからはじめるような人ですからね(笑)。

Jemapur:(笑)

平野:そもそもジェマくんは何者なのか、っていう基本的な話からはじめましょう。ぼくはおもにロックやジャズを聴いてきたので、電子音楽にはまったく縁がなかった。ネット情報なんかを見ると「トラックメーカー」「ビートメーカー」って書いてあるんだけど、ぼくにはぜんぜんピンと来ない。これってどういう意味? なにをする人なんですか?

Jemapur:じつはぼく自身は「トラックメーカー」「ビートメーカー」って言われるのは、正直あまりピンとこなくて。

平野:あ、そうなんだ。

Jemapur:「トラックメーカー」や「ビートメーカー」っていう呼称はヒップホップカルチャーとの親和性が高い言葉で….

平野:なるほど。

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Jemapur:既存の古い音源ソースから一部のフレーズなどを抽出して、それを種として変化させていく〝サンプリング〟っていう方法があるんですけど…

平野:あ、それは知ってる。以前、このPLAYTAROにラッパーのダースレイダーさんに出ていただいたんだけど、そのときにいろいろ教えてもらったんです。ファンクやソウルなどのブラックミュージックのカルチャーから要素を抜いてくるんですよね。

Jemapur:そうですね。

平野:ジェームス・ブラウンとか、スライ&ザ・ファミリー・ストーンとか。

Jemapur:ジェームス・ブラウンは世界で最もサンプリングされているミュージシャンの一人ですよね。ただ、サンプリングは、場合によっては訴訟問題に発展したり、あまりに〝そのまま〟だとクリエイティビティを疑われたり…、といろいろ問題はあるんです。

平野:そうでしょうね。

Jemapur:ぼくが興味があるのは、とにかく抽象化すること。サンプリングの一種ではあるけれど、もはや「複製」というより「破壊」に近いと思います。

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平野:サンプリングしたフレーズ=素材をバラバラに刻む?

Jemapur:そうです。秒を超えたミリ秒単位まで。「グラニュラーシンセシス」って言うんですけど。

平野:「グラニュラーシンセシス」? どういう意味?

Jemapur:細胞一つの単位まで分解するっていうか・・・イメージとしては、グラニュー糖を思い出してもらうとわかりやすいかな?

平野:グラニュー糖?

Jemapur:とにかく細かくしていって、粒子状にして、それを引き伸ばして並べ替えることによって、1秒の音を20年に伸ばすこともできる。

平野:複製し、極限まで分解した単位音をコピペしてつなげていくイメージ?

Jemapur:そうです。そこまでいくと、もはや元々の音がなんであったのか認識できなくなる。

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平野:きわめて初歩的な質問なんですけど、1秒をさらに細かく刻んでいくとなると、もはやジェームス・ブラウンかどうかさえわからなくなりますよね、きっと。

Jemapur:そうですね。

平野:てことは、サンプリングするのはかならずしもジェームス・ブラウンじゃなくてもいいってことになりませんか? マイルス・デイビスでも北島三郎でも、結果は変わらないでしょう?

Jemapur:極論すればそのとおりです。いわゆるヒップホップ的なサンプリングが一種の〝複製〟であるのに対して、ぼくがやっているのは〝精製〟に近い。それが「グラニュラーシンセシス」です。この手法を用いると、元のサンプルがなんであったかがほとんど意味をなさなくなる。いわば〝新たな生命体〟のようになってくるんです。

平野:“グラニュー糖がつくる新たな生命体”? おもしろいなあ。

Jemapur:(笑)

平野:そういえば、ダースレイダーが「サンプリングのエンジンはその楽曲に対するリスペクトである」って言ってたけど、〝そのまま使う〟ラップとちがって、そこまで跡形もなく切り刻むってことは、ジェマくんのモチベーションはその種のリスペクトとは別のところにあるってことですよね? 「その曲をカッコイイと思ったから」みたいなことではない、別の原理が働いているんでしょう?

Jemapur:・・・と思いきや(笑)。

平野:(爆笑)

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Jemapur:どんなに切り刻まれ、たとえ0.1秒になったとしても、音にはその演奏者の魂が入っている。ぼくはそう考えています。

平野:ああ、なるほど。

Jemapur:もちろん切り刻むほどに抽象度が高くなっていくわけですが、演奏者がそこに刻んだ痕跡や響きは生きたまま・・・

平野:遺伝子みたいに?

Jemapur:そうです。遺伝子レベルまで切り刻んで、そこから拡張されていく世界が、電子音ならではの特殊なアプローチとしておもしろいと思っているんです。



次回はJEMAPURさんのつくる「電子音楽」とは。

JEMAPUR②「既存の生命体とは異なる別種の生命を創造しているっていう感じです。」

『太陽の塔』オリジナル・サウンドトラック

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JEMAPURさんの既存のイメージとも言える電子音的な要素は鳴りを潜め、演奏家を招き、音色、リズムを全て指揮、その音をまた編集して画のストーリーにハメこんでいった。映画のサントラとしては勿論、JEMAPURという音楽家が新たな一面を見せる作品となっています。

JEMAPUR – 『太陽の塔』オリジナル・サウンドトラック
2018.10.10 Release

  1. 原初 – ORIGIN
  2. 転生 – REINCARNATION
  3. 幼生 – INFANCY
  4. 梵天 – BRAHMA
  5. 因果 – CAUSALITY
  6. 閃光 – SUNRAY
  7. 憧憬 – YEARNING
  8. 哀歌 – ELEGY
  9. 森羅 – UNIVERSE
  10. 伽藍 – TEMPLES
  11. 遍在 – OMNIPRESENCE
  12. 巫覡 – SHAMAN
  13. 相愛 – MUTUAL LOVE
  14. 久遠 – ETERNITY
  15. 渾沌 – THE CHAOS
  16. 無量 – INFINITE
  17. 日輪 – THE SUN

レーベル : ULTRA-VYBE, INC.
発売日 : 2018年10月10日(水)
※劇場では映画公開と同時に発売となります。
品番 : OTCD-6549
税抜価格 : ¥2,000(CD)

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JEMAPUR

電子音楽家、サウンド・デザイナー。2001年頃よりコンピュータを用いた制作を開始。
Eerik Inpuj Sound, #//といったネット・レーベル・シーン最深部より強い影響を受ける。
これまでにHydeOut Productions, W+K Tokyo Lab., Phaseworks, BETA, Detroit
Undergroundなどさまざまなレーベルより作品を発表、通算4枚のソロ・アルバムをリリース。
現在はウクライナ・キエフを拠点に活動するFF’Spaceとの連携をベースにマイクロ・サンプリング、アルゴリズミック・コンポジションといった抽象度の高い手法を用いて、音が知覚に対して影響・拡張し得る領域について日々研究を重ねている。
ソロの他にも、ショート・フィルムやインスタレーション、コマーシャル・フィルムなど
様々なメディアとのコラボレーションやYJYへの楽曲提供など、その活動は多岐にわたる。
近年では、2018年秋公開となる関根光才監督による初の長編ドキュメンタリー映画「太陽の塔」の音楽を全編にわたり手掛けている。