電子音楽家で関根光才監督による初の長編ドキュメンタリー映画「太陽の塔」の音楽を全編にわたり手掛けられたJEMAPUR(ジェマパー)さんとの対談です。
第7回は「縄文的な響き」について。
〈前回までは〉
JEMAPUR①「もはや「複製」というより「破壊」に近いと思います。」
JEMAPUR②「既存の生命体とは異なる別種の生命を創造しているっていう感じです。」
JEMAPUR③「初期のテープレコーダーリールに、クラシックの音楽などを切り貼りして・・・」
JEMAPUR④「弦楽四重奏のようなものを書いて・・・」
JEMAPUR⑤「音楽というよりも、音そのもの、波の機能にあるんです。」
JEMAPUR⑥「抽象的であればあるほどいい。」
「自分のなかで縄文的な響きを探しはじめたんです。」
平野:ジェマくんとはじめてじっくり話をしたのは、映画『太陽の塔』の打ち上げでした。
Jemapur:そうでしたね。
平野:そのときに「山に竹を切りに行きまして」とか、「石を拾ったんです」みたいな話をしてくれて。
Jemapur:はい(笑)。
平野:最初、この人はなにを言ってるんだろう? と思ったわけ。音楽家じゃないの? って(笑)。でも、じっさいにその竹で音楽をつくったんですよね?
Jemapur:そうです。
平野:正直に言うけど、いったいそれになんの意味があるんだって思ってたんですよ。コンピューターでつくれば簡単じゃないかってね。でも今日こうやって話を聞いて、よくわかった。要するに〝遺伝子〟が欲しかったんですよね? 遺伝子を曲に織り込みたかった。それはけっして機械ではつくれない。
Jemapur:そうなんです!
平野:『太陽の塔』はドキュメンタリー映画だけど、関根監督もぼくも、この映画の肝は音楽だと考えていました。監督とは最初にどんな話をしたんですか?
Jemapur:これを言っていいかわからないですけど…
平野:いいよ(笑)。
Jemapur:じつは最初に関根監督から「こういう音がいい」という話があったんです。それを聞いて、「これは困ったな」と。
平野:(笑) 監督はかなり具体的なイメージをもっていたわけね。
Jemapur:もってらっしゃったんです。自分なりにあたためていたイメージもあったので…
平野:うん(笑)。
Jemapur:で、しょうがないから、最初は監督を無視したというか、とにかく一度自分なりのイメージを具現化してみよう、と思って進めました。
平野:おお!(笑)
Jemapur:具体的なリファレンスだったので、これを聞きすぎるとわからなくなるなと思って。なので自分なりに「太陽の塔とはなにか」「太郎さんとはどういう人物だったのか」というところを勉強して。
平野:うん。
Jemapur:もともと縄文に対して興味があったので、縄文的な音の響きってなんだろう? みたいなところから・・・自分のなかで縄文的な響きを探しはじめたんです。
平野:なるほど。
Jemapur:ほかにも縄文の痕跡ってなんだろうと。DNAって発見された順にアルファベットがついていて、縄文人はDタイプに属していることを知って。いまの日本でいうと、アイヌと沖縄、奄美大島にあるんです。
平野:あ、やっぱりそうなんだ。
Jemapur:そういうところにまず響きのヒントがあるだろうなと。もうひとつ、縄文人とおなじDNAをもつ人たちがチベットにいる。
平野:うん。
Jemapur:チベタンボール、シンギングボールっていうものがあるんですが、それを弓で擦って音をバイオリンの代わりに使いました。
平野:おもしろいなあ。
Jemapur:自分のなかの縄文の解釈を音の遺伝子的なところに見出して使っていけば、縄文の響きになるんじゃないかと。
平野:よくわかる。
Jemapur:そんなことを考えていたらおもしろいこともあって。今回演奏者として参加してくれた仲間がふたりいるんですけど、ひとりはぼくが指定した楽器の音を録音してくれました。北海道の白老町というアイヌの郷に住んでいる音楽家の友人なんです。
平野:へえ。
Jemapur:もうひとりは沖縄でずっと音楽をやってた人で・・・だから今回の映画はアイヌのバイブスが入った演奏者と、沖縄・琉球のバイブスが・・・
平野:すごい!
Jemapur:ぼくはぼくで母方が東北、仙台生まれで、父方が長野でして。しかも長野の小諸という未だに古式の葬儀の方法をやっているところで。縄文的な葬儀の方法をやってるような地域の血がぼくにも入っているんです。たんに仲のいい仲間と一緒にやっただけなんですけど、いろんな巡り合わせというか・・・縄文的なものに引っ張られて今回の作品に携われたっていうのはおもしろいと思っています。
平野:縄文の遺伝子が織り込まれているものや人で音楽を構成したわけですね。竹も切って叩いたんでしょう?
Jemapur:友人の家の前に竹林があって、そこに切られた竹が転がっていたんです。けっこう長いままの竹と、細かく切った竹と、何種類かの竹を車に積んでもち帰りました。水分を含んだ竹と、ちょっと素焼きにして水分を飛ばした竹と、2種類つくって家のなかでレコーディングしたんです。
平野:竹をなにかで叩いたの?
Jemapur:竹を竹で叩きました。
平野:その音をコンピューターに読み込んで、ドレミファソラシドに変換したってこと?
Jemapur:そうです。
平野:おもしろいなあ。でもそれはおなじサンプリングでも、ジェームス・ブラウンを切り刻んで分子構造みたいに組み合わせるって話と、またちがう話ですよね?
Jemapur:若干ちがいますかね。
平野:竹のドレミファソラシドでメロディをつくったってことでしょ?
Jemapur:ポリリズムでつくりました。3拍子と5拍子で・・・低い音は3拍子でループして、高い音は5拍子でループして、とやっていくと、どんどんズレていくんです。
平野:なるほど、それでグルーヴしていくんだ。
Jemapur:グルーヴしていくんですよ!
平野:(笑)。メロディをつくっていくというよりも、指示を与えてアルゴリズミックに変化させていくってことですね?
Jemapur:常にちがう響きの組み合わせでハーモニーができるように時間軸が進んでいくプログラムをつくったんです。
平野:なるほど。やってることの本質は変わらない?
Jemapur:そうですね。
平野:切り刻む尺の長さがちがう。
Jemapur:時間軸のスケールがちがうだけですね。
平野:映画『太陽の塔』の場合は、サンプリングの粒子レベルが荒っぽくなっているっていうことね。
Jemapur:あんまりミクロにしてしまうと、映画の中身と話がちょっとズレてきちゃうので。
平野:なるほど。
Jemapur:そこは太郎さんにちなんでダイナミックに・・・やりっぱなしぐらいがちょうどいいだろうと思ったので。
JEMAPUR – TOTS_select_music
JEMAPUR – TOTS_select_music
JEMAPUR – TOTS_select_music
平野:コンピューターで構築しているようにはぜんぜん聞こえない。まるで先住民がやっているみたいだ。
Jemapur:ピグミーやアフリカの先住民族のプリミティブな表現についてはずっと調べて研究していたんです。
平野:ああ、やっぱり。
Jemapur:アフリカ的なポリリズムの形があるんですけど、それが縄文人だったらどういう数字かなと考えて。
平野:これはジェマくんが考える〝縄文人のグルーヴ〟なんですね。
Jemapur:まさにそうなんです。
—
次回は最終回。
JEMAPURさんと〈地底の太陽〉。
『太陽の塔』オリジナル・サウンドトラック

JEMAPURさんの既存のイメージとも言える電子音的な要素は鳴りを潜め、演奏家を招き、音色、リズムを全て指揮、その音をまた編集して画のストーリーにハメこんでいった。映画のサントラとしては勿論、JEMAPURという音楽家が新たな一面を見せる作品となっています。
JEMAPUR – 『太陽の塔』オリジナル・サウンドトラック
2018.10.10 Release
- 原初 – ORIGIN
- 転生 – REINCARNATION
- 幼生 – INFANCY
- 梵天 – BRAHMA
- 因果 – CAUSALITY
- 閃光 – SUNRAY
- 憧憬 – YEARNING
- 哀歌 – ELEGY
- 森羅 – UNIVERSE
- 伽藍 – TEMPLES
- 遍在 – OMNIPRESENCE
- 巫覡 – SHAMAN
- 相愛 – MUTUAL LOVE
- 久遠 – ETERNITY
- 渾沌 – THE CHAOS
- 無量 – INFINITE
- 日輪 – THE SUN
レーベル : ULTRA-VYBE, INC.
発売日 : 2018年10月10日(水)
※劇場では映画公開と同時に発売となります。
品番 : OTCD-6549
税抜価格 : ¥2,000(CD)

JEMAPUR
電子音楽家、サウンド・デザイナー。2001年頃よりコンピュー
Eerik Inpuj Sound, #//といったネット・レーベル・シーン最深部より強い影響を受
これまでにHydeOut Productions, W+K Tokyo Lab., Phaseworks, BETA, Detroit
Undergroundなどさまざまなレーベルより作品を発表、通算4枚のソロ・アルバムを
現在はウクライナ・キエフを拠点に活動するFF’Spaceとの
ソロの他にも、ショート・フィルムやインスタレーション、コマー
様々なメディアとのコラボレーションやYJYへの楽曲提供など、
近年では、2018年秋公開となる関根光才監督による初の長編ド