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Mayuko Katakura , Hikari Ichihara Talk⑤ "Jazz Spirit"

片倉真由子、市原ひかり鼎談⑤「ジャズの魂」

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日本ジャズ界で人気・実力ともにナンバーワンの“ファーストコール・ピアニスト”、片倉真由子さんと、おなじくリーダーアルバムを8枚リリースするなど人気と実力を兼ね備えたトランペッター市原ひかりさん。今回はふたりの女性ジャズプレイヤーとの鼎談です。
第五回目は「ルーツとコンプレックス」。

〈前回までは〉
①「ジャズはけっして“エリートのための音楽”ではありません。」
②「もう一度「カッコいい音楽」に戻っていくんじゃないかと思います。」
③「ジャズをもっとパブリックなものにしたいっていうか…」
④「ジャズって。なにかを考える前に、自然のうちに目の前にあったんです。」

「最近になって、自分がジャズをやっている意味が少しずつわかってきたような気がするんです。」

平野:片倉さんは、ジャズの名門バークリー音楽大学から、泣く子も黙るジュリアード音楽院に進み、2006年にはやくもセロニアス・モンク国際ジャズピアノコンペティションでセミファイナリストに選ばれている。すごい経歴だよね。

市原:超エリートですよ!

平野:アメリカでみっちりジャズと向き合ったわけだけど、本場でジャズを学んでいるとき、どんなことを感じたの? 一流プレイヤーに囲まれながら、いろいろ悩んだだろうし、葛藤もあっただろうし。

片倉:わたしは行って良かったと思っています。理由はいくつかあるけど、なんといっても自分の視野が広がったので。



片倉真由子 ソロライブ@岡本太郎記念館 2018.10.25


平野:演奏体験を通して?

片倉:もちろん演奏体験を通してもあるし、みんなと遊んだり色々な話をすることによって、自分の中にある色々なものを受け入れる器がどんどん大きくなりました。最初に行ったバークリーには、とにかくジャズを目指す世界中の人が集まっていましたから。

平野:ジュリアードもおなじような感じだった?

片倉:いえ、ジュリアードはアメリカ人が圧倒的に多かったですね。ジャズ科にしても、インターナショナルは数人でした。

平野:あ、そうなんだ。ぜんぜんちがうんだね。

片倉:アメリカ人がほとんどで、彼らの生きてきた文化や風習や土地はわたしとは違う。また、彼らが小さい頃から聞いていたであろう教会音楽や、カントリーミュージックや、ジャズだって日本よりも身近に流れていたはずで、それをルーツとして持っている彼ら。わたしのバックグラウンドとは違います。でも何か掴みたくて飛び込んでみました。

平野:うん。

片倉:だから、ジュリアードではいろんな葛藤をしたし、いろいろ考えました。でも、「なんでわたしはジャズをやっているんだろう」とは一度も思わなかった。

平野:片倉さんらしいな。

片倉:挫折しそうになったし、悔しい思いもいっぱいしたけど、「わたしはなんでジャズをやっているんだろう」とは一度も思わなかったんです。一回も思ったことなかった。自分は日本人だからとか、女だからとか…。

unnamed (2) 片倉真由子 ソロライブ@岡本太郎記念館 2018.10.25


平野
:コンプレックスは感じなかった? 泣いても笑っても、東洋から来た異邦人なわけだし。

片倉:コンプレックス? 多少はあったかもしれないけど、そんなこと考えてる余裕はなかったですね。

平野:まあ、そんなこと考えたって意味ないもんね。

片倉:そう、意味ない。

平野:でも、こっちには生まれながらにアフリカのリズムを受け継いでいる黒人たちがいて、あっちには知的で洗練された感性をもつ白人たちがいる。そういう中で、彼らと戦わなければならない。

片倉:はい。

平野:「どうすればわたしは生き残れるんだろう?」みたいなことは考えなかった?

片倉:えー、どうだったかな。うーん……どうだろう?(笑)

平野:(笑) でも、負けてたまるかっていうのはあったでしょ? 彼らとの差別化を図り、自らの個性を確立するにはどうしたらいいかって。たとえば、日本的なハーモニーをとり入れてみよう…とか。

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片倉:あ、そういうのはまったくなかったですね。わたし、創造する対象としてジャズを捉えるようになったのって、そんなに昔のことじゃないんです。

平野:どういうこと?

片倉:最初の頃は、バド・パウエルになりたいとか、だれそれになりたいって思っていたんですよね。そのだれかのサウンドがわたしの中から聴こえてくることこそが、ジャズへのリスペクトだと考えていたんです。

平野:ああ、なるほど。

片倉:ところがアメリカにいるときに、「あなたはだれ? 別のだれかなの? あなた自身の物語を音楽で表現して!」ってずっと言われつづけて。…でも、ぜんぜんピンとこなかったんです。

平野:うん。

片倉:それが30歳を過ぎたあたりから、やっと意味がわかりはじめたんですよね。プレイに自己を投影させるってことが。

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片倉真由子 ソロライブ@岡本太郎記念館 2018.10.25


平野
:100年もつづいたジャズの歴史には、たくさんのジャイアントたちが、たくさんの素晴らしいプレイを残してくれた。それをいまの時代に受け継ぎ、次の時代に伝えることこそがジャズへのリスペクトの表明であり、自分の役割だ。そう考えていたわけね?

片倉:ええ。でも最近になって、自分がジャズをやっている意味が少しずつわかってきたような気がするんです。「あなたはだれ?」って言われつづけた意味が、やっと…

平野:ああ、なんていい話なんだろう!

片倉&市原:(笑)

平野:そのあたり、市原さんはどう?

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市原:わたし、真由子ちゃんとは正反対かもしれない。人の真似だけはしたくないって、ずっと思ってきたから。

平野:コピーとかは、あまりしなかった?

市原:人がやってないようにやらなきゃって、それはもう恥ずかしいくらいに(笑)。でも30歳を超えて、蓄積がないのはダメだってことにようやく気づいたんですよね。いまは、過去から学び、それを積み上げていかなければ、土台はすぐに崩れてしまうと思いはじめています。

片倉:でもわたしから見ると、ちょっと羨ましい。最初から「なるべく無いものを!」って思えるのはすごいと思うし、そういう意味では、ひかりちゃんはやっぱりアーティスティックだと思う。

平野:ぼくが市原さんを好きないちばんのポイントは、音・サウンドがだれにも似てないこと。「過去のだれそれみたい」っていう感じがまったくないもんね。

市原:ありがとうございます。でもそれがいいのかどうなのかっていう時期なんです。

平野:どういうこと?

市原:ひとりぼっちって怖いじゃないですか。だれかに似てないって、やっぱり孤独なんですよね。

平野:ああ、そうだろうね。

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市原:だれにも似てないってことは、他の人がやりたくない音だっていう可能性もあるわけでしょ?

平野:いや、さすがにそれは考えすぎだよ(笑)。

市原:(笑) まあ、ひとりで考えてもしょうがないことですけど。

平野:創造者・表現者はみんな孤独。孤独から逃れることはできない。これはもう如何ともしがたいことだからね。

市原:それが人生ですよね。生きがいがありますよね(笑)。



次回は「異なるタイプ」。

⑥「自分に嘘をついて演奏したら、たとえ誰かに褒められても、わたしはちっとも幸せに思えない。」

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片倉真由子(かたくら まゆこ)
仙台市出身。洗足学園短期大学を首席で卒業後、バークリー音楽大学、ジュリアード音楽院に入学。ケニーバロンに師事。留学中より、ハンク・ジョーンズ、ドナルド・ハリソン、 カール・アレン、ベン・ウォルフ、エディ・ヘンダーソン、ビクター・ゴーインズ等と共演する。2006年、Mary Lou Williams Women In Jazz Piano Competitionで優勝、Thelonious Monk International Jazz Piano Competitionのセミファイナリストに選出される。2008年に帰国し、現在は自己のトリオをはじめ、山口真文、伊藤君子、竹内直、土岐英史、寺久保エレナ、レイモンド・マクモーリン、ジーン・ジャクソントリオ、北川潔トリオのグループなどで活動中。洗足学園音楽大学非常勤講師。

市原ひかり(いちはら ひかり)
1982年東京都生まれ。成蹊小中高等学校を卒業後、洗足音楽大学ジャズコースに入学。2005年主席で卒業。同年ポニーキャニオンよりデビューアルバム『一番の幸せ』をリリース。以降同社より8枚のリーダーアルバムをリリース。自己のグループの他、土岐英史(as)、秋山一将(gt)、増原巖(bs)、赤松敏弘(vb)等のグループに参加。活動範囲はジャズにとどまらず、山下達郎、竹内まりや等のアルバムにもソロプレイヤーとして参加している。
主な出演番組は、『トップランナー』『題名のない音楽会』『ミュージックフェア』『僕らの音楽』等。

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