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Mayuko Katakura , Hikari Ichihara Talk⑦ "Jazz Spirit"

片倉真由子、市原ひかり鼎談⑦「ジャズの魂」

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日本ジャズ界で人気・実力ともにナンバーワンの“ファーストコール・ピアニスト”、片倉真由子さんと、おなじくリーダーアルバムを8枚リリースするなど人気と実力を兼ね備えたトランペッター市原ひかりさん。今回はふたりの女性ジャズプレイヤーとの鼎談です。
最終回は「オリジナリティ」。

〈前回までは〉
①「ジャズはけっして“エリートのための音楽”ではありません。」
②「もう一度「カッコいい音楽」に戻っていくんじゃないかと思います。」
③「ジャズをもっとパブリックなものにしたいっていうか…」
④「ジャズって。なにかを考える前に、自然のうちに目の前にあったんです。」
⑤「最近になって、自分がジャズをやっている意味が少しずつわかってきたような気がするんです。」
⑥「自分に嘘をついて演奏したら、たとえ誰かに褒められても、わたしはちっとも幸せに思えない。」

「たとえどんなことを演奏しても、『ああ、ジャズだ』ってなると思うんです。」

平野:ところで、ふたりはジャズのメインストリームをやってるわけじゃない。ジャズ100年の歴史のド真ん中のモダンジャズを。

片倉:はい。

平野:あえていちばん険しい道を選んでいる。そこが“男らしい”よね(笑)。

市原:え、どういうこと?(笑)

平野:モダンジャズには、先人たちの数十年におよぶ音源がアーカイヴされていて、その中には膨大な名演奏が残されている。

市原:そうですね。

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平野:ピアノでいえば、マッコイ・タイナーもいればビル・エバンスもいる。バド・パウエルもいるし、ハービー・ハンコックもいる。

片倉:はい。

平野:CDを買う側からすれば、「マッコイを買うか片倉真由子を買うか」って話だからね。彼らが残した名盤の数々とたえず闘っているわけだし、その闘いに勝たなければ手にとってもらえない。じつにシンプルな話でしょ?

片倉:わたし、そんなこと考えたこともなかったな。でも、たしかにそうですね。

平野:CDショップでなにを買うか選んでいるときって、じっさいそうだからね。

片倉:たしかにセールスのことだけを考えればそうかもしれないけど、一ミュージシャンとしては、モダンジャズにはほんとうに素晴らしい先人がいて……

市原:まあ、考えてもしょうがないかなって。だって、好きなんだもん(笑)。

片倉:そうだよね(笑)。嫌いなものはできないもんね。

市原:できない!

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平野:とすると、オリジナリティについてはどう考えてる?

市原:わたしは「生きているだけで個性」だと思う。

片倉:わたしも個性を出すにどうすればいいのか、なんて考えたことないですね。

市原:“個性をつくろう”っていうアプローチでなにかをはじめると、ぜったいヘンなことになると思う。奇をてらうと、人には届かないと思います。

片倉:うん。

市原:わたしは人がニコニコするのを見たくて音楽をやっているんです。でも、人を笑顔にしようなんて考えてなにかすると、ほんとに陳腐なものしか出てこないんですよね。

平野:うん、よくわかる。

市原:誠心誠意、いままでの人生で感じたものとか培ってきたものを自然に出せたらいいなって。

平野:それが自然に個性につながっていくんだろうね。

市原:そう思います。

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平野:過去の偉大なミュージシャンたちはいずれも例外なく個性的だけど、でもそれは、「OK! 明日の朝5時までに個性を仕上げよう!」って出来たものじゃないもんね。

片倉:(笑) わたしは、キャリアや年齢を積み重ねるうちに、自分の中に醸成されたものが音楽に投影されるようになっていくんじゃないかと思うんです。

平野:うん。

片倉:はじめたときは真似であっても、いろいろと経験していくうちに、そういうものが投影されるようになる。投影しようなんて考えなくたって、自然のうちに投影されるようになっていくんだと思います。

平野:いずれにしろ、ジャズのメインストリームにいるってことは、ある種の伝統をしっかりと受け継ぎながら、いまの時代感覚を織り込んで、さらに一歩先に進めないといけない立場にいるわけだよね。

片倉:はい。

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平野:ジャズのなにを残し、なにを変えたい?

市原:わー、むずかしい。

平野:市原さんは、ジャズのなにを変えたい? あるいは逆に、なには変えてはダメだと思う?

市原:変えてはいけないもの…。わたしは理論やスタイルではなく、姿勢だと思います。“一生学びつづける精神”みたいなことです。ジャズマンとして、それは失っちゃいけないと思う。

平野:なるほど。

市原:それ以外は、自分なりにやっていけばいいんじゃないかって思います。生きている時代がまったくちがうわけですからね。目にするもの、耳にするものもとうぜんちがうし。でも、真摯に練習、研究に向きあうことだけは、先人たちがそうであったように、やりつづけなければならない。

平野:てことは、もしかしたら、別のジャンルの音楽にジャンプする可能性がゼロではない?

市原:はい。もともとわたしはそういう環境で育っているんです。ひたすらいろんな音楽を聴くっていう環境に。家では映画音楽が流れてたり、AORが流れてたり、山下洋輔さんが流れてたりして。もしかしたら、それが個性みたいなものにつながっているのかもしれません。

平野:なるほど。

市原:その時々を真剣に生きていこうと思っています。真摯に自分に向きあって、練習もちゃんとやって、満足せずに一歩一歩。人生は一回だから。

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平野:片倉さんは?

片倉:わたし、ちゃんとした“ジャズ”をやっていきたいんです。

平野:?

片倉:ジャズはインプロビゼーションの音楽って言われるけど、だからといって、即興演奏をすればジャズなのかっていえば、けっしてそうじゃない。うまく言えないけれど、ほんとうのジャズには“ジャズの匂い”があるんです。“ジャズ魂”とでも言えばいいのかな。これはジャズだ、これはジャズじゃない、っていうのが自分の中にあって。あくまで個人の勝手な意見ですが。

平野:それって空気感みたいなもの?

片倉:空気感っていうか…ニュアンスみたいなことなんですけど…。これはジャズ、これはちがうっていうのがあるんです。でもうまく言えないの。あー!

平野:(笑)

片倉:たとえばソニー・ロリンズやマッコイ・タイナーはまぎれもなくジャズですよね? ジャズのフレーズを弾いているからとかそんな表面的なことではなくて。ソニー・ロリンズの歴史を辿って聴いていくと、どんどん変化していくけれど、揺るぎない何かがあって、それがわたしの思うジャズなのかな…と思います。“スジが通っている”っていうか…。

平野:ああ、なるほど。

片倉:とにかく“ジャズの魂”がある人。いまはこれしか言葉にできない。うまく言えないけど、わたしの中で確実に「これがジャズだ」っていうのがあって。

平野:うん。

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片倉:逆にいえば、ジャズのフレーズを弾いていても、自分の心にはまったく響かないということがある。なんというか、わたしの持っている独自の“ジャズセンサー”には共鳴しないっていうか…。ジャズが持っているニュアンスやパワーを失ってはいけない。そのことは常に考えています。

平野:片倉さんの言いたいこと、すごくよくわかる。とても大事なことだし、きっとそれがジャズの本質なんだと思うな。

市原:わたしもそういうことが言いたかったんだよ!(笑)

片倉:そのスピリットがあれば、責任さえ持てば、たとえどんなことを演奏しても、「ああ、ジャズだ」ってなると思うんです。思いはいっぱいあるのにうまく言葉にできないのがもどかしい…

平野:またいい話じゃないか!

片倉市原:(笑)

片倉:今日、こうして平野さんとお話ししてみて、ジャズを言葉にするのっておもしろいなと思いました。話しているうちに、いままで自分が無意識にやったり考えたりしていたことに気がついたっていうか…

平野:ぼくもすごく楽しかった。ふたりの頭の中をちょっとだけ覗くことができたような気がしたからね。今日はほんとにありがとう!

片倉市原:こちらこそ、ありがとうございました!



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片倉真由子(かたくら まゆこ)
仙台市出身。洗足学園短期大学を首席で卒業後、バークリー音楽大学、ジュリアード音楽院に入学。ケニーバロンに師事。留学中より、ハンク・ジョーンズ、ドナルド・ハリソン、 カール・アレン、ベン・ウォルフ、エディ・ヘンダーソン、ビクター・ゴーインズ等と共演する。2006年、Mary Lou Williams Women In Jazz Piano Competitionで優勝、Thelonious Monk International Jazz Piano Competitionのセミファイナリストに選出される。2008年に帰国し、現在は自己のトリオをはじめ、山口真文、伊藤君子、竹内直、土岐英史、寺久保エレナ、レイモンド・マクモーリン、ジーン・ジャクソントリオ、北川潔トリオのグループなどで活動中。洗足学園音楽大学非常勤講師。

市原ひかり(いちはら ひかり)
1982年東京都生まれ。成蹊小中高等学校を卒業後、洗足音楽大学ジャズコースに入学。2005年主席で卒業。同年ポニーキャニオンよりデビューアルバム『一番の幸せ』をリリース。以降同社より8枚のリーダーアルバムをリリース。自己のグループの他、土岐英史(as)、秋山一将(gt)、増原巖(bs)、赤松敏弘(vb)等のグループに参加。活動範囲はジャズにとどまらず、山下達郎、竹内まりや等のアルバムにもソロプレイヤーとして参加している。
主な出演番組は、『トップランナー』『題名のない音楽会』『ミュージックフェア』『僕らの音楽』等。

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