新進気鋭の映像クリエイターとして、多数のミュージックビオの、CM映像のディレクションを行っている映像作家、杉本晃佑さんとの対談です。
第1回は「映像作家とはなにか?」とは。
②「「漫画って、読むのは楽しいけど、描くのはそう楽しくなかったんで……」
③「もともと音楽が好きではじめたわけではなくて、」
④「ヤン・シュヴァンクマイエルなどの伝統的なチェコアニメを学びに行ったわけではないんですけど。」
⑤「毎回仕事のたびに新しいタッチに挑戦したいと思っているんですね。」
⑥「憧れの時代を疑似旅行してみたっていうイメージがいちばん近いかな。」
⑦「直球もあれば、ぼく以外にはわからないだろうなっていうフィルターもあって。」
⑧「最初に『どこまで冒険するか』っていう話はするんですけどね。」
⑨「ひとり一人が自分の眼で見ている現実のほうがカッコいいと思っているんです。」
⑩「自分の好きな感覚に従って濃いもの、密度の高いものをつくろうと……」
⑪「ぼくにはアウトサイダーだってことがずっとつきまとっているんですよね。」
「音と映像が合った瞬間とか、生理的にゾクっと…」
平野:今日のゲストは映像作家の杉本晃佑さんです。じつはつい最近、ぼく自身が杉本さんにビデオクリップの制作をお願いしたばかり。〈Days of Delight〉という新しいジャズレーベルの世界観を伝えるプロモーション映像なんだけど、レーベルがリスペクトする70年代日本ジャズの熱量と躍動感を伝えて欲しいというぼくの願いに、たった30秒でみごとに応えてくれました。
“Days of Delight” プロモーション映像
(c)Days of Delight
杉本:ありがとうございます。とても楽しい仕事でした。
平野:一緒にレーベルを立ち上げたタワーレコードのプロデューサーが杉本さんのことを教えてくれたんだけど、作品を見て一目惚れでした。スゲー! カッケー!!って。
杉本:(笑)
平野:ぼくがすごいと思ったポイントは、大きく三つありました。一つ目はとにかく「カッコいい」ということ。創造的、クリエイティブな刺激を与えてくれるタイプのカッコよさです。「オレもなにかつくりたい」と思わせるようなカッコよさというか、触発性のあるカッコよさというか…
杉本:嬉しいです。
平野:二つ目は「濃い」ということ。どの作品もさまざまな情報・物語がギュッと凝縮されていて、とにかく濃度が高い。物語を読み解いていく楽しさがあるんですよ。だから何回も見たくなるし、見る度に新しい発見がある。
杉本:そこは自分でも意識している部分です。
平野:三つ目は「芸術的」であること。言い換えれば「説明」ではないっていうことです。杉本さんの作品は、単なる説明、解説、プレゼンテーションではなく、ある種の〝問いかけ〟になっている、この意味でとても芸術的だと思います。
杉本:ありがとうございます。
平野: カッコよくて、濃くて、芸術的。この特性はすべての作品に通底している。しかし、そうであるにもかかわらず、表現レベルのバリエーションはきわめて多彩で、タッチ、テイスト、手法がまったくちがう。ぼくがいちばん驚いたのは、じつはその部分でした。この人には「なにが出てくるかわからない」というスリルがあるぞって(笑)。
杉本:(笑)
平野:今日はそんな杉本さんに〝杉本流クリエイティブ〟の裏側をお聞きしようと待ち構えていたんですよ。
杉本:どうぞなんでも訊いてください。ぜんぜん答えられないかもしれませんけど(笑)。
平野:まずは映像作家とはなにか? どんな仕事で、杉本さん自身はどんなものをつくってきたのか? っていうあたりからお話いただけますか?
杉本:わかりました。
平野:杉本さんはいま、主にどんなジャンルの仕事を?
杉本:ミュージックビデオが多いです。最近はCMなどの仕事も増えてきましたけど、主には音楽と映像を密接に組み合わせるミュージックビデオをつくっています。
平野:基本的には数分の勝負ってことですね?
杉本:短いですね。多いのが3分から5分。 CM だと15〜30秒ほどです。
平野:15秒から5分の世界だ。
杉本:それ以上長いのはちょっと想像できないですね。
平野:そもそも杉本さんはどうしてミュージックビデオをつくるようになったんですか? どういうプロセスで映像作家に? そもそも映像と触れあった原体験ってどんなことだったんですか?
杉本:高校生のときに、祖母が旅行用にデジタルビデオカメラを買ったんですが、旅行後にそれが転がっているのを見つけて。友だちとバカな映像を撮って遊んだっていうのが最初です。
平野:バカな映像?(笑)
杉本:その頃は編集する術もなかったんで、カットも秒数を決めて…みたいな原始的なやり方でショートフィルムを撮ってました。
平野:高校生で早くも〝つくり手サイド〟に立ったんですね。もっとも、それ以前にもなんらかの映像は目にしていたわけでしょう?
杉本:アニメが好きだったんです。ご存知だと思いますが、テレビアニメって、最初にオープニング映像が流れますよね? それが本編より好きで…
平野:変わってる。やっぱり〝濃い〟ものが好きなんだな(笑)。
杉本:アレって、予算的にも本編1話分とおなじくらいの予算をかけているんですよね。だから、じっさい映像としてもリッチなんです。
平野:へえ。
杉本:高校の頃にビデオテープにアニメを撮りためていたんですけど、途中からオープニング部分だけをダビングしはじめて……
平野:うん…らしい(笑)。
杉本:音と映像が合った瞬間とか、音のテーマと映像のテーマがかっちり合ったときに、生理的にゾクっと…
平野:〝キタ〜!〟って感じなんでしょ? やっぱり変わってる(笑)。
杉本:気持ちよかったですね。
平野:当たり前のことだけど、アニメって本編を楽しむものでしょ?
杉本:そうですね。ストーリーがあって、キャラクターがしゃべって、ドラマがあって……
平野:なのに杉本さんはオープニングのほうにゾクゾクしたと。どうしてなんだろう?
杉本:いまもそうなんですが、ミュージックビデオをつくるとき、最初に音を聞かせてもらうと、〝立ち上がりたい瞬間〟とか〝座りたい瞬間〟みたいなことがあるんですよね。
平野:音を聞いていているうちに、そういう感覚がわきあがってくるんですか?
杉本:そうです。アニメのオープニングにしてもミュージックビデオにしても、ぼくが〝イキたい〟タイミングと、映像をつくっている監督さんがイキたいタイミングがピッタリ合うことがあって…。そういうときに「完全なる絶頂」が来るわけです。
平野:ヘンな人だなあ(爆笑)。みんなが本編の物語に泣いたり笑ったりしているときに、杉本さんはオープニングで自分と監督の感覚を重ねて、ひとりでイってたわけね?
杉本:いや、まあ、そこまで大げさなことではないんですけどね(笑)。
平野:おなじ土俵の上で比べるっていうのは……あきらかにクリエイターの視線ですよね、ガキの分際で(笑)。
杉本:すごくカッコよく言えばそうなのかもしれないですけど……たとえば、マッサージを受けているときにツボをバッチリ押されると気持ちいいでしょ? そんな感じだったんですよ。そうするうちに、人に押してもらうより自分で押したほうが気持ちいいってことに気づいて。
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次回は「漫画から映像へ」

杉本晃佑(すぎもと こうすけ)
映像作家
1983年生まれ。アニメーション・実写・3DCG・モーショングラフィックスなどを用いた映像と音楽とを緻密に融合させた構成、歌詞や広告商品などを独自に掘り下げたストーリー構築を得意とし、MV、CM制作を主として活動。近年はSEKAI NO OWARIやSCANDALのMV、NHKみんなのうたなどを手がける。また「the TV show」「これくらいで歌う」などの個人作品は国内外の多数の映画祭・コンぺティションで受賞。
2014年からプラハを拠点にヨーロッパでの活動も開始。映像監督を務めた3D映像コンサート「Vivaldianno 2015」はイギリス・ドイツ・チェコなど15ヶ国以上で上演、クラシックコンサートとしては異例の20万人以上の動員となる。2018年、東京に株式会社Studio12を設立。