新進気鋭の映像クリエイターとして、多数のミュージックビオの、CM映像のディレクションを行っている映像作家、杉本晃佑さんとの対談です。
〈前回までは〉
①「音と映像が合った瞬間とか、生理的にゾクっと…」
第2回は「漫画から映像へ」。
「漫画って、読むのは楽しいけど、描くのはそう楽しくなかったんで……」
平野:それにしても、高校生のときに友だちとショートフィルムを撮っていただけでは、杉本さんみたいにはならないと思うんですよ。他になにかあったんじゃないかな、小さい頃に。
杉本:父がなんでもやるタイプの人で、絵も描くし、彫刻も彫るし……昔から家にいろんな道具が転がっていたんです。
平野:うん。
杉本:父は趣味に関してはかなり移り気な人で、いつも何か新しい物づくりをはじめてはその道具を集めるんです。ぼくからすれば、それらはかっこうの遊び道具で…。
平野:なるほど。
杉本:彫刻刀が転がっているから、木を掘ってみたり……
平野:やっぱりそういうことがあったんだ。
杉本:どっちが先かはわからないですけどね。彫刻刀があったからやりたくなったのか、やりたいと思ったときに彫刻刀があったのか。でもとにかく、昔からなにかしらに触ってました。
平野:なにかをつくっていたっていうことですね?
杉本:はい。
平野:でも、もしかして杉本さんって、つくったものを発表しなかったんじゃないですか?
杉本:まったく発表しなかったですね。
平野:つくること自体がおもしろかったから?
杉本:そうです。たぶんいまもそうだと思います。
平野:杉本さんのことがちょっとわかってきたような気がする(笑)。
杉本:嬉しいです(笑)。
平野:そうしていよいよ映像作家への道を歩みはじめるわけだけど……。もちろん「映像作家、募集!」なんてポスター、貼ってなかったでしょ?
杉本:はい(笑)。
平野:杉本さんはどうやって映像作家の道に?
杉本:高校のときに映像に興味をもっていたっていうのはもちろんあるんですけど、そのあと漫画のほうに興味が移って……。大学3年生くらいのときには、描いた漫画を編集者にもち込んだりしてたんです。
平野:なるほど。
杉本:そのときはアニメのオープニングのような感覚的なものよりも、漫画のような〝ドラマ〟のほうに行きたいと思っていたんです。
平野:うん。
杉本:編集者に顔を覚えていただいたりして……そんなときに別の縁で映像を撮る機会があって。
平野:同時並行ってこと?
杉本:そうです。やっているうちに、また映像のほうが楽しくなってきて……
平野:なるほど。
杉本:漫画って、読むのは楽しいけど、描くのはそう楽しくなかったんで……
平野:(笑)
杉本:ぼくにとって映像はすごく感覚的なものだったから、どんどんのめり込むようになって。そうこうしているうちに就職活動のタイミングを逃してしまいまして。
平野:(笑)
杉本:まあ、もともと就職する気持ちはまったくなかったんで…。で、在学中になにかしら生きる糧を見つけようといろんなことに挑戦した結果、映像が残ったってことなんです。
平野:ふたたび映像体験と出会って映像にのめり込んだっていう話はよくわかったけど、それにしても映像と漫画って、ある意味、真逆でしょう? 漫画はストーリーで読ませるものだし、動かないし。
杉本:はい。
End of the World (SEKAI NO OWARI) x EPIK HIGH “Sleeping Beauty” MV
(c)TOKYO FANTASY INC.
平野:漫画の世界に行きたかった人が、なぜ映像に行ったんだろう?
杉本:ぼくは映像作家になる前、アニメーションをつくっていたんです。
平野:手描きのアニメーションを?
杉本:そうです。漫画と映像を同時並行でやっていた頃、映像のほうがだんだん濃くなってきて、1フレーム1フレームいじりだしたんですよ。
平野:うん。
杉本:1フレーム1フレーム、エフェクトを変えたり、色を変えたり…。同時に、ずっと昔からつづけていたお絵描き……これがはじめて合体して。一枚一枚、絵を動かしたらアニメになるんじゃないかって。
平野:なるほどね。
杉本:単純であたりまえの閃きがあって。実際にトレーシングペーパーに何十枚も描いてデジタルカメラで撮影してパソコンでならべてみたらアニメーションのような動きをしたので、これは映像になるんじゃないかと……。
End of the World (SEKAI NO OWARI) x EPIK HIGH “Sleeping Beauty” MV
(c)TOKYO FANTASY INC.
平野:こどもの頃にアニメのオープニングに興奮したわけだけど、それは「動画」としいうより、静止画を積層させることで表情や動きが生まれるアニメーションの構造や原理に惹かれていたのかもしれないな。
杉本:そうかもしれません。そして大学のときにミュージックビデオに出会ったんです。それはぼくのなかでアニメのオープニングで培った感覚にすごく近いものだった。自分でつくっていた映像や手描きのイラストとミュージックビデオがひとつになって。ミュージックビデオを自分でつくったらどうなるんだろう?っていう形で合流したんです。
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次回は「音と映像が絡む瞬間」。

杉本晃佑(すぎもと こうすけ)
映像作家
1983年生まれ。アニメーション・実写・3DCG・モーショングラフィックスなどを用いた映像と音楽とを緻密に融合させた構成、歌詞や広告商品などを独自に掘り下げたストーリー構築を得意とし、MV、CM制作を主として活動。近年はSEKAI NO OWARIやSCANDALのMV、NHKみんなのうたなどを手がける。また「the TV show」「これくらいで歌う」などの個人作品は国内外の多数の映画祭・コンぺティションで受賞。
2014年からプラハを拠点にヨーロッパでの活動も開始。映像監督を務めた3D映像コンサート「Vivaldianno 2015」はイギリス・ドイツ・チェコなど15ヶ国以上で上演、クラシックコンサートとしては異例の20万人以上の動員となる。2018年、東京に株式会社Studio12を設立。