日本人でただ一人、世界で最も過酷で危険なエクストリームスポーツの「スキーベースジャンプ」をされている佐々木大輔さんとの対談です。
第4回目は「スキーベースジャンプの核心」
〈前回までは〉
①「この絵はわたしの母親が岡本太郎さんに描いてもらったものなんです。」
②「こういうものは、うちにあってはいけないです!」
③「ほんの数秒間なんですけど、その数秒間だけ、時がゆっくり流れていくんです。」
「じつはわたしは高いところが怖くて。」
平野:先ほど飛んでいる最中が快感だ、っていう話があったけど、その種の快感を求めるだけなら「ベースジャンプでもいいんじゃないか?」とか、「スカイダイビングじゃダメなの?」っていう気もするんですが。
佐々木:よく言われます。もちろん同質ではあるのかもしれないですけど・・・、じつはわたしは高いところが怖くて。
平野:えーっ、マジで!?(笑)
佐々木:高所恐怖症なんですよ。
平野:信じられない!
佐々木:それと同時に、スピードも怖いんですよね。
平野:嘘だ!(笑)
佐々木:クルマとかオートバイとか、自転車でもスピードを出すとすごく怖くて。でもスキーを履いているときだけは、なにかから開放されるのか、それともそれが安心感に繋がっているのか、自信に繋がっているのかわからないですけど、「よし、行ける!」とか「大丈夫!」とか「このくらいスピードが出ていても、ぼくはスキーを履いている!」という安心感があって、それでやっとできているんです。
平野:へぇー、おもしろいな。
佐々木:だから「ベースジャンプ」は怖くて怖くて。いつも泣きながら「なんでこんなことしなくちゃいけないんだろう、ああ怖い!」って思いながらやってます。ぜんぜん楽しくないです。
平野:それは単純にスキーを履いてないから?
佐々木:そうです。すべての工程で泣いている時間の方が多いですね。できればやりたくないっていうのが本音です。
平野:でもスキーを履いていれば・・・
佐々木:もともとスキーを履いている状態でパラシュートを背負わずに崖を飛び降りるのが好きなので、スキーを履いて飛んでいる瞬間は気持ちいいっていうのを知っているから・・・
平野:快感になるわけだ。
佐々木:スカイダイビングもトレーニングでやりますが、もう怖くて怖くて。飛行機に乗せられて「ここから落ちるのかよ!やだよ!」って思いながら飛んでます。
平野:たしかに飛ぶ前は怖いだろうし、やっぱりやめたいっていう気分にもなるだろうけど、でも飛んじゃったら、さっきの数秒間とおなじような快感が得られるんでしょう?
佐々木:完全じゃないんです、スキーを履いてないから。
平野:ああ、そうか。
佐々木:もう助からないんじゃないかとドキドキしながら体勢を整えたり、ものすごく大変で。パラシュートを開いてもちゃんと指示されたところに降りられるかなって・・・何回やっても慣れません。
平野:佐々木さんにとってスキー板は、どうやらただの器具じゃなさそうですね。
佐々木:道具ではありますけど、自分がなにかをするときに「オレにはこれがあるから大丈夫!」っていう安心感や自信に繋がるお守りみたいな、そういうありがたい感覚はたしかにあります。
平野:スキーを履いていると、身体能力が拡張されるわけですよね?
佐々木:はい。
平野:佐々木さんにとっての拡張の仕方って、おそらく「雪の上を滑る道具」というよりも「羽が生えてきた」っていう感覚に近いんでしょうね。
佐々木:そうかもしれません。
平野:じつは今日聞きたかったことの核心部分でもあるんですが・・・
佐々木:はい。
平野:佐々木さんのやられていることって、やっぱりおかしいと思うんですよ、普通に考えれば。だって死ぬかもしれないんだから。
佐々木:そうですね。
平野:しかも死んだからといって、だれも褒めてくれない。
佐々木:むしろ救助隊にも迷惑をかけますしね。ほんとうに大変なことをしています。
平野:それでもやっているのは、なんらかの「報酬」があるからにちがいないんです。
佐々木:報酬・・・ですか?
平野:報酬といっても、もちろんお金じゃありません。快楽とか快感とか悦楽とか・・・いわば麻薬のようなもの。その快楽とはなにか? それがきっとスキーベースジャンプの核心なんだと思うんです。
佐々木:先ほども言いましたが、やっぱり自由落下の数秒間かな。
平野:あー、でも、お話を聞いていてもイメージできないんですよ。なにしろまったく経験がないし、あまりに日常からかけ離れているから。そもそも「数秒間、自由落下しているときの楽しさ」って、経験のない人間に説明できます?
佐々木:できないですね。それと・・・ちょっとだけ「言ってたまるか」みたいなところもあるし。
平野:あ、そうか、なるほど!(笑)
佐々木:そこは「オレだけの」っていうか、「知っている奴は知っているよね」なんていう、いやらしさもあって(笑)。
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次回は「イメージの上で死ぬ」

佐々木大輔(ささきだいすけ)
1977年 青森県十和田市出身
2003年 アラスカ・フリーライドチャンピオンシップ優勝(日本人唯一)
2013年 富士山スキーベースジャンプ(世界初)
「スキーの歓び、可能性を世間に広める」を目標に “ベースジャンプ ” と “スキー” を融合させた「スキーベースジャンプ」で表現し最驚を目指す。
妻まなみが同行し撮影、日本のスキーベースジャンプエリアを世界でただ一人開拓し続ける。