Talks

Toshiro Inaba Talks ③ " Avant Garde Medicine "

稲葉俊郎対談③「アヴァンギャルド医療」

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東京大学医学部付属病院循環器内科助教で心臓カテーテル治療、先天性心疾患、在宅医療、山岳医療が専門の稲葉俊郎さんとの対談です。
第3回目は「生命のバランス」

〈前回までは〉
①「ぼくは『動いている生命』に魅力やロマンを感じました。」
②「宇宙の銀河の形も、植物の形も、竜巻も・・・螺旋ですよね。」

「心の自然に反すると、バランスが崩れて病として表に顔を出す。」

平野:「いのちの螺旋」の話でいうと、太陽の塔の内部は下から上にあがっていくとき、最初は螺旋状にのぼっていきます。

稲葉 :たしかにそうですね。

平野:わざわざそうしている。途中からは折り返しのエスカレーターになるけど、おそらく太郎は《生命の樹》の周りを螺旋状にのぼらせたかったにちがいない。でも空間にそれをやるだけのスペースがなかったから、やむなく諦めたんじゃないかと思うんですよ。

稲葉 :そうかもしれませんね。螺旋の動き、スパイラルで上昇していく強いイメージとビジョンを持っていたのだと感じました。

平野:「生命にはやっぱり螺旋だろ」と思ったのかな?

稲葉 :《生命の樹》って、文字どおり「樹」ですよね。植物の形態はやっぱり螺旋ですよね。

平野:あ、そうか。太陽の光を求めて螺旋状に葉っぱがついていくわけですもんね。

稲葉 :太陽エネルギーを全員が平等に受け取るために、自ずと螺旋の形になる。自然の摂理って言うんですかね。《生命の樹》を登りながら自然や宇宙を貫通するメカニズムと一つになって欲しかったのかもしれませんね。

平野:太陽をみんなで分けあっている。だれも一人勝ちできないし、独り占めできない。

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稲葉 :きっと太郎さんなりに、自然や植物を観察して生命の本質をつかんでいたんじゃないでしょうか。宇宙空間を貫通してやってくる太陽の光をパラボラアンテナみたいに一身に受けとめようと思ったからこそのデザインだと思いますね。

平野:おもしろいな。生命って回転運動なんだ。

稲葉 :自然の法則がそうさせるんでしょうね。

平野:うん。

稲葉 :たとえば、心って目に見えませんよね? 怒りとか悲しみとか嬉しさとか楽しさとか……そういった感情も目には見えませんよね?

平野:はい。

稲葉 :でもきっと、悲しみとか楽しみとか恨みとか喜びとか、そういうものが渦のように螺旋状に衝突しながら、互いを主張し尊重しあいながら生きようとしようとしているんですよ。

平野:ああ、そうかもしれない。

稲葉 :人間の感情って、ぜんぶ必要なんだと思います。ネガティブとされる感情、怒りやおそれや悲しみも。だからこそ楽しみや喜びも深まるわけですから。

平野:心の生態系みたいなものですね。

稲葉 :心の自然に反すると、バランスが崩れて病として表に顔を出す。ぼくら医療者は、その人が見落としてきたもの、ほんとうは大切なことなのに、ないがしろにして無視してきたものを拾い上げてテーブルの上に置いて、もう一度尊重してみる、ということをやっているんじゃないかと思います。

平野:相反するものがぶつかりあうからこそ、生命のエネルギーが高められていくっていうのはすごくよくわかる。

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稲葉 :太郎さんの言葉では「対極主義」ですね。ああいう表現を、ぼくはぜんぜん突飛だと思いません。太郎さんはぶつかりあうことを大切にされていましたよね?

平野:そうです。対極がぶつかりあう火花のなかにしか可能性はない。矛盾を総合するな、安易なカクテルをつくるなと。

稲葉 :そういうことですよ。生命って、やっぱり激烈にスパークしているものだと思う。表面的にはスムーズでスマートに見えても、心や身体のなかではぶつかりあい、衝突しあい、火花を散らしている。太郎さんはそうした生命の炎を見抜いていたんだと思います。

平野:そう考えていくと、人間がやってることって、やっぱり矛盾してますよね。たとえば自然治癒力ってあるでしょ? 免疫もある。それって生きようとするメカニズムですよね?

稲葉 :はい。

平野:人間はそうやって生きるために全力を尽くす。それがもって生まれたミッションなのだと思いきや、いきなりガン細胞ができたりする。それって死に向かうベクトルでしょう?つまり一方で生きようという強い意志をもちながら、もう一方で死ぬためのメカニズムを準備する。どう考えても矛盾ですよね?

稲葉 :生きる力、死ぬ力、両方で引っ張りあっているからこそ生き続けているんですよ。生命が誕生した瞬間から、相反するふたつの力が働き続けている。ただ、なぜか死を隠そう、避けようとするから、実像が見えなくなっているだけで。でもほんとうは、生の力と死の力がなければ「いのち」の場は成立しえないと思います。

平野:それこそ太郎は「死ぬことと生きることはおなじだ」みたいなことを言ってますよね。「死の恐怖があるから歓喜がある」みたいなこともね。

稲葉 :そうですね。

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平野:縄文の頃は、いつ獣に殺られるかわからない、そういった恐怖と孤独に耐えながらじっと暗闇にひそんでいた。

稲葉 :はい。僕らが表面では忘れてしまった感覚ですよね。

平野:だからこそ、獲物を仕留めたときには歓喜が訪れた。つまり死の恐怖と生きる歓びが背中あわせになっていた。そこには誇りと尊厳があった。そうした何物にも縛られない誇らかな生き方こそ、人間的な生き方なんだと。

稲葉 :人類のはじまりの頃、原初的な生活に思いを馳せてみると、人と人とが集まったのは「弱さの共有」だったと思います。

平野:弱さの共有?

稲葉 :人間はひとりだと野生動物にすぐ殺されちゃいますよね。

平野:人間より強い獣が山ほどいますからね。

稲葉 :自然のなかで人間は弱者だと身を持ってわかっていた。人間は弱いと認めたんです。だからこそ人と人とが集って共同体をつくって、みんなで助けあうことにした。生き延びるために。

平野:だれかが寝ているときには、ほかのだれかが起きて見張ったりね。

稲葉 :社会の基盤は、人間の弱さを共有することにあると思うんです。だけど、生活が安定するとすっかり忘れてしまう。差別の問題も、自分の弱さを忘れて勘違いしているから起きているんじゃないかと。

平野:うん。

稲葉 :人間はみんな弱い。自然界の中で人間は弱い存在なんだと共有することがスタートです。弱さを知ることが、思いやりの土台となります。生命の儚さと強靭さ、死と生の本質を知ることにつながるんだと思います。



次回は「臨死のエピソード」

④「共通体験として、やはり川を境界線として語る人は多いですね。」

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稲葉俊郎(いなば・としろう)

医師、東京大学医学部付属病院循環器内科助教。医学博士。1979年熊本生まれ。
心臓カテーテル治療、先天性心疾患が専門。在宅医療や山岳医療にも従事。
西洋医学だけではなく伝統医療、補完代替医療、民間医療も広く修める。
2011年の東日本大震災をきっかけに、新しい社会の創発のためにあらゆる分野との対話を始める。
単著『いのちを呼びさますもの』(アノニマ・スタジオ)、『ころころするからだ』(春秋社)など。
HP:https://www.toshiroinaba.com/

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