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Toshiro Inaba Talks ⑧ " Avant Garde Medicine "

稲葉俊郎対談⑧「アヴァンギャルド医療」

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東京大学医学部付属病院循環器内科助教で心臓カテーテル治療、先天性心疾患、在宅医療、山岳医療が専門の稲葉俊郎さんとの対談です。
第8回目は「医療のコア」

〈前回までは〉
①「ぼくは『動いている生命』に魅力やロマンを感じました。」
②「宇宙の銀河の形も、植物の形も、竜巻も・・・螺旋ですよね。」
③「心の自然に反すると、バランスが崩れて病として表に顔を出す。」
④「共通体験として、やはり川を境界線として語る人は多いですね。」
「当時のぼくに関心は、自分とは一体何者なのか、なんのために生まれてきたのか、」
⑥「できるのが基本で、むしろできなかったときの落胆のほうがはるかに大きいです。」
⑦「全体の関係性を結びなおしながら生きていくことを大切にしたいんです。」

「ぼくはもっと、みんながより良く生きていくための場をつくりたいんですね。」

平野:稲葉さんは「医療がほんとうに大切にしなければならないのは、生きることの質だ」と言っている。裏返していえば、ともすれば質より量に目が向きがちだっていうことですよね?

稲葉 :その通りです。

平野:たとえば単純な「寿命の長さ」みたいな問題に?

稲葉 :本来は、人それぞれの「生きている質」を深めていくことが人生に大切なことで、そのサポートが医療者の役割のはずなんです。

平野:でも質って、それこそ人によってちがうし、数値化できないから、むずかしいですよね。どういうアプローチで考えればいいのか、ってこともわからないだろうし。

稲葉 :ぼくは芸術の体験こそが質を見極める目を養うと思っているんです。質の違いが分からないと、すべて量の問題にすり変えられてしまって、そのことにすら気づけなくなります。

平野:なるほど。でもそう考えると、医者の究極の職能とは「幸せに生きるとはどういうことかを考える仕事である」っていう話になりますね。

稲葉 :はい、そうですね。その前提になるのは、「まず自分自身が実践して生きているかどうか」ということです。人のことをとやかく言う資格がある人は、まず自分自身がしっかりと実践できているかどうか、です。さらに言えば、医療に限らず多くの職業は、「より良く生きる」ことへの関り方が得意分野や適性の違いで専門分化しただけに過ぎないと思います。

平野:その地平に立てば、医療も、音楽も、芸術も、建築も、政治も……すべてをひとつの視座から眺めることができそうですね。

稲葉 :ぼくはもっと、みんながより良く生きていくための場をつくりたいんですね。くじけたり、絶望したり、挫折したり……、生きていればいろんなことがあります。でも、生きている限りはなんとかなる。なんとかする力を誰もが持っている。生命はしぶといんです。ここまで生き残ってきたわけですから。だから「生きている限り、生き続けていきましょうよ」と呼び掛けているだけです。それが医療のコアにある大切なことじゃないかと。

平野:いいこと言うなあ。それにしても稲葉さん、言うことも見た目も、『白い巨塔』とは真逆ですね(笑)。

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稲葉 :(笑) 自由と権力のどちらかを選べと言われたら、ぼくは迷わず自由をとります。自由が阻害されないかどうかが、Y字路での選択のときに問いかけることです。医療界にもそういう人が増えていると感じますよ。

平野:でも、医療界を変えるには、稲葉さんのような人が権力をもたないとダメなんじゃないですか?

稲葉 :ぼくがイメージしているのは、これまでのようなピラミッド型、軍隊型とは異なる社会モデルです。縦ではなくて横の平面構造ですね。平面のどこかにペースメーカーのようなリズムを刻む存在がいる。それが波紋として相互に伝わっていくようなモデルです。

平野:ああ、そうか。なるほど。

稲葉 :そうイメージすると、結局はけ「自分がいいと思うこと、好きなことをし続ける」というシンプルな発想に戻るんですね。共鳴する人が増えれば波紋は広がる。波紋に大きい刺激は必要なくて、小さくても確かな波紋であれば、ちゃんと遠くまで波紋は伝わる。だから医療も、医療を包む社会も、必ずよくなると信じているんです。

平野:ジョルジュ・バタイユが「われわれのねらっているのは、癌のように、痛みのない革命だ」「癌のように痛みを感じさせずに食い込み、根を張って、侵食しくつがえす」と言ってたらしいけど、稲葉さんの発想もまさしく〝無痛革命〟ですね。

稲葉 :そうかもしれませんね。無痛革命、無血開城(笑) 医療はみんなのためにある共有財産です。だから、社会ともつながることが大切です。自分が医療現場で考えたこと、疑問に思ったこと、その問いを社会へと発信して、みんなと共有したい。一人では答えがでなくても、問いを共有すれば答えが出るかもしれない。専門家ではない人にも伝わる言葉で表現することが大事ですね。表現方法を磨くのはあくまでも自分自身の問題ですし。

平野:話を聞いていると、さすがに医者以外の人間が手術をするわけにはいかないけれど、そうではない領域で、なにか役に立つことがあるかもしれないっていうイメージがわいてきますね。医者とはちがう職能の人間が医療現場に入って、医者や医療関係者と一緒にチームを組んでなにかに取り組んでいく、っていうような……

稲葉 :専門家として、カテーテル治療など、プロとして与えられた仕事は責任もって果たします。でも、それ以外のことで色んな人に助けてほしいことはたくさんあります。

平野:たとえばどんなことを?

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稲葉 :例えば、病院に入院したとき、患者さんの生命力が高まるようなイキイキと暮らせる空間ができないのか、とか。患者さんが弱ってしまって入院したときに、ここにいるだけで元気になりそうだ、という空間をつくることから医療ははじまっていると思いますし、そういう細部にとことんこだわるのがプロ気質だと思うんです。自分が書いた本、『いのちを呼びさますもの―ひとのこころとからだ』(アノニマ・スタジオ)も、本の空間などの細部にこだわっています。

平野:装丁もチャーミングですよね。

稲葉 :装丁や、本をパッと開けた瞬間に「読めそう」と、家に招いて入ってもらいやすい心理的な距離や空間にこだわりました。

平野:ぼくもまったくおなじです。そもそもそれが「プロデュース」ですからね。稲葉さんの思考回路は、完全にプロデューサーのそれですよ。

稲葉 :お金と時間をかけるからには、やはりいいものを残したいですよね。

平野:ぼくは大学で「建築計画」という学問分野を専攻しました。一言でいえば、「こういう種類の建物はこのような使われ方をするので、このような点に留意すれば機能的・合理的なものになりますよ」という科学的なデータを設計者に提供する学問です。

稲葉 :おもしろいですね。

平野:いろいろな施設類型が研究対象になっているんだけど、なかでもいちばん進んでいたのが病院でした。なぜなら機能の塊だから。

稲葉 :なるほど。

平野:とにかく生命にかかわる場所だから、いかに医者や看護師が効率的・合理的に動けるかを最優先に考えるわけですよね、当然だけど。

稲葉 :確かにそうですね。

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平野:でも、ぼくは何回か入院したことがあるけど、入院患者にとって不快なこと、なんとかして欲しいってことも多いんですよね、病院のなかって(笑)。

稲葉 :ぼくも毎日、そう思っています。
もちろんカテーテル治療の手術では、1秒の時間の積み重ねだったりするので、無駄が最小限になるように、効率的な動きをしなくてはいけない。デザインよりも機能性を極限に追求すべき場所もあるとは思うんですよね。

平野:よくわかります。

稲葉 :緊急治療は機能性重視であることは不可欠です。ただ、それ以外の場所では、機能だけでなく快適さ、心地よさ、デザインなどの芸術のセンスも大切にしなければいけないと思います。とくに入院は生活に関わる空間ですから。

平野:病院の空間って、合理性一辺倒だから、いっさい無駄がない。だから精神的に疲れちゃうんですよね。

稲葉 :無駄こそ大切なんですよね。空間の余白が心のスペースを、心の余裕を生み出しますから。近代建築では床の間も庭も神棚も必要ないとされました。でも、そうした虚の空間こそが大事だってことは、頭ではなくて身体感覚でこそわかっているはずなんです。

平野:そうですよね。

稲葉 :ぼくらの身体感覚、感性を取り戻せば、もっと創造的な空間が立ち上がってくるはずなんです。

平野:じっさいスパって気分いいもんね。さすがにアレを目指せっていうのはちょっとちがうと思うけど(笑)。

稲葉 :いやいや、まさにそういう空間から医療や病院が学ぶことがたくさんあるというのが自分の考えですよ。星野リゾートでも、人気のある宿の魅力を知ることは、絶対に必要です。

平野:その路線をどんどん行くと、もしかしたら別の施設になっちゃうかもね。

稲葉 :はい。そうした大きな視点で捉えなおさないといけないと思っています。「病院」だけではなく「養生所」のような、自分の生きる力を高める場、生活の質を高める場が、病院という専門施設を大きく包み込む必要があると思います。

平野:おもしろい!

稲葉 :それこそ建築や芸術など、色々な場所で散らばっている人たちと同じ興味で寄り集まって、新しい場を共に創造する。ないなら創る。そういうことをしたいです。



次回は「緊急のミッション」

⑨「寝て、起きて、ご飯を食べて、仕事をして、また寝て・・・」

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稲葉俊郎(いなば・としろう)

医師、東京大学医学部付属病院循環器内科助教。医学博士。1979年熊本生まれ。
心臓カテーテル治療、先天性心疾患が専門。在宅医療や山岳医療にも従事。
西洋医学だけではなく伝統医療、補完代替医療、民間医療も広く修める。
2011年の東日本大震災をきっかけに、新しい社会の創発のためにあらゆる分野との対話を始める。
単著『いのちを呼びさますもの』(アノニマ・スタジオ)、『ころころするからだ』(春秋社)など。
HP:https://www.toshiroinaba.com/

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