他に類を見ない、オリジナリティあふれるコントを生み出す、お笑いコンビ・野性爆弾のくっきーさんとの対談です。
第4回目は「くっきーと太郎」
〈前回までは〉
①「最初はお笑い芸人の一部としてやっていた感じなんですわ。」
②「やりたいことをやって生きてきただけで……すんません!」
③「下描きはしますけど。でもそれもマジックとかで描きます。」
「なんか……デカいですね。自分がすごくちっぽけに思えて。どうしよー!(笑)」
平野:作品をつくっているとき、だんだんイメージが固まり、徐々に完成度があがっていくわけですよね? 最後に「よし、完成だ!」って思うのはどういう瞬間なんですか?
くっきー :自分のなかに〝OK太郎〟がいて、OK!って言うんです(笑)。
平野:あ、そうなんだ(笑)。
くっきー :もちろん納得がいけば、の話なんですけどね。もっとも、ぼくは描き損じというか、没ってひとつもないんです。意地でも仕上げるから(笑)。
平野:太郎は、完成して発表した作品を平気でイジっちゃうんですよね。
くっきー :え、そうなんですか?
平野:油絵にはサインが入っているでしょ? それが完成作であるという証です。
くっきー :なるほど。
平野:完成すると、たとえば海外のビエンナーレなどに出品される。そこで絵葉書になったりもする。ところが太郎の場合、絵葉書は残っているのに作品が見当たらないっていうケースがずいぶんあって。
くっきー :へぇ。
平野:行方不明と思われてきたんだけど、最近になって別の作品のX 線写真を撮ったら、その下に隠れていた。
くっきー :おー!(笑)
平野:サインを入れて海外のビエンナーレに出品した作品なのに、その上にグリグリ描いちゃったんです。
くっきー :すごい人ですね。

平野:ふつう、作家はそういうことはしません。だってサインを入れて発表したら、それは「商品」ですからね。
くっきー :そうですよね。
平野:でも太郎は絵を売らない主義だったし、そもそも「芸術は商品ではない」と考えていたから、平気でそういうことができたんでしょう。
くっきー :なるほど! それにしても、太郎先生はなぜ絵を売りはらなかったんです?
平野:理由はいくつかあるけど、いちばん大きかったのは「芸術は民衆のものだ」という芸術観です。
くっきー :民衆のもの?
平野:芸術は一部のマニアや金持ちのものじゃない。大衆のものであり、社会のものであり、暮らしのなかに息づくものだ、という考えです。売ってしまったら、金持ちのリビングや大企業の社長室に隠されて、二度と出てこないでしょ?
くっきー :あー、そうか。

平野:たとえばコレ。《顔のグラス》というんですけど、「ロバートブラウン」っていうウイスキーのオマケなんですね。1本に1個ついてくる。
くっきー :いいなあ、コレ!
平野:話があったとき、まわりに大反対されたらしいんですよ。「バカなことはやめなさい。そんなことをしたら、『わたしはタダでばらまくオマケをつくる程度の作家です』って宣言するようなものじゃないか」ってね。
くっきー :あー。
平野:でも太郎は聞く耳をもたなかった。「タダ、いいじゃないか。タダだからだれでも手に入る。それで家に帰って一杯やって気分がよくなる。それのどこが悪いんだ!」と言って。
くっきー :カッコえー!

平野:全国にパブリックアートをたくさんつくったのもそう。パブリックアートって、そこに行きさえすれば、いつでもだれでもタダで見られるでしょう? まるで自分の所有物みたいにね
くっきー :太郎先生って、そういう人やったんですね。芸術を広めようしてはったんだ。シビれますわー。
平野:「芸術とは生活そのもの」と考えていたと思います。「芸術なんて道端の石ころとおなじ。特別なものじゃない」「芸術を崇拝したり、ありがたがったりするようなヤツに芸術を語る資格はない」みたいなことも言ってましたしね。
くっきー :なんか……デカいですね。自分がすごくちっぽけに思えて。どうしよー!(笑)
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次回は「くーちゃんのやりたいこと」

くっきー
1976年3月12日生まれ。滋賀県出身。本名・川島邦裕。
幼稚園からの幼馴染だったロッシー(本名・城野克弥)と94年に「野性爆弾」を結成。NSC大阪校13期生。
若手時代から独特の世界観で注目され、MBSテレビ「オールザッツ漫才」などで注目を集める。
2008年に拠点を大阪から東京に移し、白塗りした顔で表現するモノマネ芸などが浸透し、2018年上半期ブレイク芸人NO.1となる。

『くっきずむ』(美術出版社) 発売中 10,800円(税込)
クリエイティブ・ディレクションに「風とロック」の箭内道彦、 アートディレクションに小杉幸一を迎え、 展覧会で出品された作品に新作を加え、 これまでのアート活動を網羅的に掲載。
絵画や映像、 パフォーマンスなどの作品のほか、 日本をはじめアジアで開催された展覧会など、「表現者」 として独自の世界観を構築する活動を紹介。 国内外に向けてくっきーの表現世界──COOKISM── を発信していく内容となっています。
絵画や映像、