人生は引き裂かれている。さまざまな意味で、形で、いつもそれを感じる。
たとえば夢と現実。
私はときどき夢の方が本当なのか、現実の方が夢なのか、と考えたりする。真の人間はその両方で生きているのに違いない。なにもフロイド流の精神分析学的な意味で言っているのではない。まったくの素朴な生活感からである。
毎夜、さまざまの夢を見ている。想像を超えたマカフシギなのばかりだが。夢には色がないという俗説がある。それは嘘(うそ)だ。幼い時から私の夢にはいつも、ギラギラと原色が飛び散っている。眼をさました瞬間、日常の現実の中の自分を見かえして、ああ夢だったのか。ナンダ、と思ったりする。
今朝の夢はまた、まことに奇妙だった。
ある人が、私に炎になってくれと言う。パーティーの会場で、裸で、炎になって立ってほしいと頼むのだ。
そのとたんに、私自身の胸や、肩や、股(もも)がすき透って、ゆらめきながらぽうっと燃えあがっているところが見えた。
「いいよ、やってあげる」
会場は見たことのないホテルの宴会場だった。多勢人が集まっている。あちらこちらから、
「いや、如何ですか。相変わらずお元気ですね」
とコップを手にしながらにこやかに挨拶(あいさつ)される。まったく、いつもの調子。
こちらは炎になっているのに。
眼がさめてからも、肩や股が透明になって、ぽうっと燃えあがっている、あの不思議な感触が残っていて、しばらく消えなかった。
From the diary ⑤ "Dream"
岡本太郎コラム⑤ 日記から「夢」
:: October 11, 2019
