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From the diary ⑧ "Abstract mystery"

岡本太郎コラム⑧ 日記から「抽象の神秘」

1975-64歳《千手》制作 青山アトリエにて

装飾古墳の壁いっぱいに躍る赤い無数の円形。また直狐文とよばれる、同心円を交差する直線で断ち切って、断面をずらしたような不思議な抽象形態。その神秘的な造形性に圧倒される。今日の抽象芸術そっくりだが、よりダイレクトに鋭く、力を持っている。

いわゆる抽象芸術は近代工業化社会に生まれた美感覚だ。十九世紀までの自然主義に対する闘い、芸術革命である。

だがこのお墓の中に、死霊のためだけに作られた芸術、その抽象表現は、それとまったく違った筋だ。この凄(すご)みはいったい何なのだろう。抽象と自然を対立的に考えてきた図式は、果たして正しいのだろうか。神秘な抽象形態の表す情念は、まさに根源的な、そして人間的な「自然」ではないか。

芸術・文化はいつも時間・空間を通して見かえされる。しかし生命感は時空を超えてあるものだ。抽象はそれに直結している。最も無条件な感動だからこそ根源的であり、呪力(じゅりょく)を持っているのだ。

それにしても、真暗にとざされた中で、永遠に見せない、見られない「美」のあり方。そういう芸術の運命。

展開したいモチーフがむくむくとわきあがってくる。

しかし今夜東京に帰ったら、すぐ明日は羽田を発ち、メキシコ、アメリカを回って、パリに行く予定。それぞれ仕事が待っている。装飾古墳について書くのは、またいずれ――。

まったく、時空を超えた感動に心身を躍らせながら、反対に、ギリギリ時空にしめつけられている。この矛盾。何ということだ。思わず笑ってしまった。

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