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OsamuNishitani Talks⑩ "I and the world"

西谷修対談⑩「わたしと世界」

フランス文学・思想の研究をはじめ、世界史や戦争、メディア、芸術といった幅広い分野での研究・思索活動で知られる西谷修さんとの対談です。
第十回目は「瞬間について」。

〈前回までは〉
①「それが『言葉のもった生きもの』のセクシュアリティなんですよ。」
②「バタイユは『死は生きる人間にとっての極点』だと考えていました。」
③「周りから見たら、『ちょっと救急車呼んだほうがいいんじゃない?』って話ですよ。」
④「わたしっていうのは、単にここに座っている人間のことではない。この空間全体がわたしなんです。」
「いまの世界だったら、だれもが変なカルトだと言うかもしれない。」
⑥「洗練や古典化なんて摩滅した感覚だ。感受性から世界を変えないといけない、と彼らは考えた。」
⑦「それまで褒めた讃えられ、権威になっているものすべてが『ふざけるんじゃねえ!』っていう感じだった。」
「もはやモダニズムを追う、さらに新しいものを追うっていう、そういう思考ではなくなっていたんじゃないかと思うんです。」
⑨「『描くとか作るというのはどういうことなのか』を突き詰めようとしたんだと思うんですよ。」

「現在しかない。つまり、時間が流れてない、持続を断ち切るこの一瞬、瞬間こそが永遠であり、ここにすべてが開かれてある」

平野:太郎は、「瞬間、瞬間」という言葉が好きでした。「オレには過去も未来もない」「この瞬間がすべてだ」と。『日本の伝統』には、「現在のこれっぽっちのために、過去の全部を否定してもかまわない」と書いてあるし、「〝いつか〟なんて絶対にない。いつかあるものなら、かならずいまここにあるし、いまないものは将来にも絶対にないんだ」とよく言っていたそうです。

西谷:バタイユもそういうことをいつも強調していました。バタイユとつきあっていくなかで、岡本太郎もそう思うようになったんじゃないかな。

平野:このあたりのことをバタイユはどんなふうに言ってるんですか?

西谷: キリスト教によれば、永遠とは「時間の外」。時間を延長した結果永遠になるのではなくて、永遠は時間の外なんです。おなじように、エクスタシーも時間の外に出ること。

平野:時間の外?

西谷:そう。時間の世界は「罪の世界」であり「堕落の世界」です。アダムとイブが楽園を追放されるのは、時間の世界に落ちたってことなんですね。時間の世界は牢獄であり、そこから解放されるのが救済です。

平野:なるほど。

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西谷:そこでね、時間の外って、人間の経験レベルでは「瞬間」なんです。

平野:え? てことは、瞬間が永遠?

西谷:そういうことです。持続の時間があって、その持続の時間を断ち切ると血のようにして永遠が吹き出る。

平野:わー、むずかしいな。

西谷:さっきの役立つ、役立たないっていう話とおなじですよ。平野さんは今日のこの対談をまとめてサイトにあげようとしている、だからいま過ごしている時間は未来のそのときのためにある。そうでしょ?

平野:そのとおりです。

西谷:だから現在はいつも未来に――

平野:従属している!

西谷:言い換えれば、現在はつねに未来のための投資に過ぎない。

平野:ああ、たしかに。

西谷:ゆえに現在という時間はない。未来のためにあるっていうこの構造が、近代の時間の構造なんですね。すべては目的のため。平野さんの現在も未来や目的に従属している。

平野:ぼくはつねに従属状態にあるってことですね。

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西谷:だけどね、じつは無意識のうちに時間を忘れて、「あっ、もう5時だ!」なんてこともある。

平野:はい、あります。

西谷:それが「現在」だったんですよ。

平野:なるほど。未来にひれ伏してない時間が現在ってことなんですね?

西谷:そう。「あっ、もう5時だ!」っていうのは〝流れない時間〟でしょ? それが「永遠」であり、かつ「瞬間」なんですよ。「自分はいま時間を忘れているな」と思ったとき、これはもう我を取り戻したわけです。岡本太郎やバタイユが言いたかったのは、「現在しかない。つまり、時間が流れてない、持続を断ち切るこの一瞬、瞬間こそが永遠であり、ここにすべてが開かれてある」ということです。

平野:でも、その〝瞬間〟にずっと居るなんて、まともな人間じゃないですよね。だって、それではまともな社会生活を営めないですもんね。

西谷:だからバタイユはそのことを「インポッシブル」と言ってました。

平野:不可能なこと……

西谷:岡本太郎は、この現在を未来に従属させない。この現在を持続する。この現在で充足するっていうね、そういう気持ちで生きていた。少なくとも、ものをつくるときはそうだったと思う。それが永遠に開かれるということです。

平野:目から鱗です。はじめてわかりましたよ、「瞬間」っていう意味が。

西谷:時間から逃れることができないんだったら、徹底的にそれを作品のなかに放り込む。それがアートじゃないですか。



次回は「コミュニケーション」。

⑪「人がものを考えるのは、自分でそうしようと決めたからじゃない。人間って、もともと考えるようにつくられているんです。」

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西谷修

1950年生まれ。
東京外語大学名誉教授。
著書に『「西谷修 著書に『アメリカ 異形の制度空間 (講談社)』、
『夜の鼓動にふれる:戦争論講義』(筑摩書房)など。