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岡本太郎コラム⑧ 思うこと「夜の巷の盛況」

1967-56歳 バーにて

盛り場のバーや飲み屋の数の多いことは、まったく驚異的だ。外国の観光客なんか来ても、日光、法隆寺なんかに驚くよりも、まずネオンきらめくこの盛観にびっくりする。やっぱり世界の七不思議の一つといってもいいだろう。

別だん、酒がのみたくてたまらない、飲まずにはいられないという訳ではない。飲み気だけなら瓶を抱えて帰ればいいし、静かなところでチビリチビリやった方が味がある。つまりは美人のサービス、そのふんいきにあるようだ。

何となく、ふらふらとバーに吸い込まれ、何軒ハシゴしても、なおあきたらない。A子ちゃんに会い、Bのママさんと杯をかわし、ならばついでに C子にも義理だてしなきゃ、とよろめく足をジグザグにふみ出していく姿の雄々しさ。哀れにもケナゲである。

別にどうってことはない。ちょっと色っぽい眼つき、はなやかに甘い言葉だけで、何となくモテた気分になる。がぜん、男はいきいきとし、情熱的である。女房に対するときとはうって変わり、初々しく、いじらしく、あらゆる男性的魅力を発揮する。女性は一だんと、なまなましく美しい。

このはなやかな夜の景物をながめていると、(などといって私もその点景人物の一人なのだが)ふとポリガミーのはかない幻影が浮かんでくる。皆さん、白昼は現代社会の秩序の中で、一夫一妻の形式を厳粛をまもって、ひどくすまし顔ではあるけれども、そのメッキはすぐにはがれる。街に灯ともるころともなれば、心ははるかに先祖がえりするのである。

銀座裏から場末の汚い露地の酒場の戸口まで、無数の光源氏がうろつき歩き、平安時代のみやびやかな妻どい婚の現代版が出現する。日本の夜の巷の驚異的な盛況はいみじくもヤマトオノコの伝統への切実な回帰である。

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