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五十嵐太郎対談⑤「建築のはじまり」

第11回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示コミッショナー、あいちトリエンナーレ2013芸術監督をつとめた建築史家・建築批評家の五十嵐太郎さんとの対談です。
第5回目は「複製できない空間体験」。

〈前回までは〉
①「外からの大きなインパクトを受けて変わっていくことを何度も繰り返してきたわけですね。」
②「多少の技術差はあったけれども、様式建築に比べれば背中が見えるくらいの距離だった。」
③「建築とは固くて、動かなくて、変化しないもの、という常識を反転させるビジョンです。」
④「この10年でニューヨークはどんどん新しい名所をつくっていて………。おなじ10年で東京はなにをやっているんだろうって思いますね。」

「建築とライブは似たようなものなので、そこに建築の力があるはずなんです。」

平野:先ほど紹介したテキスト「大阪万博の建築群」のなかで、五十嵐さんは「1960年代は、建築の延長として都市計画を構想できることが信じられた時代でもある。「東京計画1960」は実現しなかったが、大阪万博では、会場計画の名目のもと、都市スケールでのデザインを遂行したのだ」と書かれてますね。

五十嵐:ここで言っている“建築の延長”って、要するにメガストラクチャー(=高層建築やインフラストラクチャーなどが一体化した巨大構造物)のこと。建築を拡大していけば都市になる、という単純な発想です。建築が巨大化していって、それが連結することで都市になるっていう……

平野:「東京計画1960」なんか、まさにそうですよね。

五十嵐:典型的なのは、先ほども話に出た「スーパースタジオ」が当時提案した世界を覆う「コンティニュアス・モニュメント」、つまりスーパーストラクチャーのグリッドです。これは、いわゆる都市デザインや都市計画とあきらかにちがっていて、まさしく建築の延長ですからね。

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平野:大阪万博の「大屋根」もその文脈ですよね。スペースフレームという構造システムを使った「空中都市」のプロトタイプなわけだから。ただし、「スーパーストラクチャー」と決定的にちがうのは、「スーパーストラクチャー」が机上だけのイマジナリープランだったのに対して、「大屋根」はリアルに建築されたということ。

五十嵐:そうですね。

平野:大阪万博のひとつ前、67年モントリオール万博から、万博を未来都市のメタファーで考えるようになったわけだけど、大阪ではついに未来都市の一ジャンルである「空中都市」の雛形が出現した。

五十嵐:じっさい丹下さんは万博会場は実験的な都市だと言ってますからね。

平野:だけど、良い悪いは別にして、いまの万博にはそういうスケールの発想がない。漠然とした言い方になるけれど、専門家として建築や都市とかかわってきた五十嵐さんから見たときに、現在の万博ってどんな存在に見えてます?

五十嵐:現代の先端技術が視覚化しづらいってことはあると思います。大阪万博のときは、視覚的にも技術の表現がしやすかった。

平野:万博は建築技術のショーケースの役割を果たしてきたわけだけど、これからどういう存在になっていくんだろう。建築になにかできることはあるのかな? 未来はないのかな。

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五十嵐:いや、ぼくはかならずしもそうは思いません。音楽業界ではたしかにCDは売れなくなったけど、代わってライブが活性化している。それってやっぱりライブが“複製できない体験”だからなんですね。そう考えると、建築こそが、実は複製できない空間体験をつくっているはずなので、じつは建築にはまだまだ大きな意味や価値があるんじゃないか。建築とライブは似たようなものなので、そこに建築の力があるはずなんです。さっき言ったハドソンヤードのヴェッセルだって、じっさいに行ってみて体験しないとわからない。あんなバカみたいな建築だけど、いや、そうであるからこそ、そうした体験は複製できない。現時点ではまだ建築には力があると思っています。

平野:たしかに! 上海万博のイギリス館なんて、良かったもんなあ。そういうことですよね?

五十嵐:そうです。

※「上海万博イギリス館」
トーマス・ヘザウィックが設計した。長さ7.5mに及ぶ6万本のアクリルの棒が内外を貫き、たんぽぽのような、あるいはタワシのようなぼやけた輪郭をもつ。アクリルの端部には種子が埋め込んである。全体としてはノアの方舟のごときイメージで、「種子の大聖堂」と呼ばれた。

平野:ああいうことだと思うんですよね、いま建築が万博に貢献し得るのは。
そういうふうに考える限りにおいては、まだやれることは残っていると思うな。



次回は最終回。
「建築のはじまり」。

⑥「つくるものは思いっきり未来的なものをつくって欲しいけど、そのためにもぜひ歴史の視点をもって欲しい。」

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五十嵐太郎

建築史・建築批評家/東北大大学院教授
東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。
ヴェネツィアビエンナーレ国際建築展2008日本館のコミッショナー、あいちトリエンナーレ2013芸術時監督のほか、「インポッシブル・アーキテクチャー」展、「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」、「戦後日本住宅伝説」展、「3.11以後の建築」展などの監修をつとめる。
著作に『現代日本建築家列伝』、『モダニズム崩壊後の建築』、『日本建築入門』、『現代建築に関する16章』、『被災地を歩きながら考えたこと』など。