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五十嵐太郎対談⑥「建築のはじまり」

第11回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館展示コミッショナー、あいちトリエンナーレ2013芸術監督をつとめた建築史家・建築批評家の五十嵐太郎さんとの対談です。
最終回は「建築のはじまり」。

〈前回までは〉
①「外からの大きなインパクトを受けて変わっていくことを何度も繰り返してきたわけですね。」
②「多少の技術差はあったけれども、様式建築に比べれば背中が見えるくらいの距離だった。」
③「建築とは固くて、動かなくて、変化しないもの、という常識を反転させるビジョンです。」
④「この10年でニューヨークはどんどん新しい名所をつくっていて………。おなじ10年で東京はなにをやっているんだろうって思いますね。」
⑤「建築とライブは似たようなものなので、そこに建築の力があるはずなんです。」

「つくるものは思いっきり未来的なものをつくって欲しいけど、そのためにもぜひ歴史の視点をもって欲しい。」

平野:建築や都市計画の世界でいうと、大阪万博のビフォー・アフターでなにが変わったことってありますか?

五十嵐:建築技術の面でいうと、膜構造が広がったのは大きかったと思いますね。建築は重くて硬くて動かない、みたいなイメージをひっくり返す契機になったので。

平野:よく言われるように、アメリカ館の空気膜を経験したことで、その後の日本では空気膜がどんどん実用化し、この分野で世界をリードする存在にまでなりましたからね。

五十嵐:東京ドームをはじめ、いろいろなところに空気膜ドームの建築ができるきっかけになったのは大阪万博です。

平野:話は少し変わりますが、これまで登場した万博建築のなかでおもしろいものBEST3をあげるとしたらなにを選びます?

五十嵐:月並みだけど、やっぱりクリスタルパレスやエッフェル塔はすごいと思いますね。

平野:うん、そりゃそうですよね。

五十嵐:本来、万博は“建築のはじまり”を示す場所だったと思うんですよ。

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平野:ああ、なるほど。いい言葉だな。

五十嵐:歴史主義が跋扈する19世紀に、眼の前で「未来」をつくってみせたわけですからね、クリスタルパレスやエッフェル塔は。もっともそれらは当時、様式が大事だと思っていた建築界からは「あんなものは建築ではない」と言われたわけだけど。

平野:そうでしたね。

五十嵐:エンジニアがやった「構築物」であって、既存の様式のディテールをきちんと習得したうえでつくられた正統的な建築物ではないと、コンサバな建築界から批判されたわけです。そういう意味でいえば、20世紀のデザインを切り開いたのは、むしろエンジニアリングのほうなんですよね。

平野:いまの話はとても示唆的ですね。単に「未来」と言うと、「いまは時代がちがうだろ?」って話で終わっちゃうけど、「建築のはじまりを示す場」だと定義すれば、これからの万博にも可能性があるわけだから。

五十嵐:そう思います。

平野:これを読んでくれているのは、主にクリエイティブに生きたいと思っている若者たちなんですが、最後に、そんな彼らに一言もらえます?

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五十嵐:うーん、むずかしいけど……、そう、個人的には歴史を学んで欲しいですね。つくるものは思いっきり未来的なものをつくって欲しいけど、そのためにもぜひ歴史の視点をもって欲しい。いま建築のデザインをやっている若い人って、歴史に興味がなくなっているような気がするんですよ。

平野:なるほど。

五十嵐:メタボリズムの人たちは、50年代にさまざまな伝統論争を重ねて、歴史と自分の関係や立場みたいなことをとことん考えたんです。自分の立ち位置を考えるために、歴史を考えつつ未来を切りひらいていった。それが大阪万博をつくった60年代の人たちだった。

平野:歴史を勉強することで、あるいは歴史に光を当てることで、自分の建築思想を組み立てていったのでしょうね。

五十嵐:オリンピック競技場ひとつとっても、64年のときは、50年代の伝統論争などが散々あって、丹下さんも「日本的なものとは」みたいな議論を散々やって、代々木体育館のデザインに繋がっていった。対して今回はあまりそういった議論がなくて、「木を使っているから日本的」みたいな話で終わっている。歴史への思考が深くないんです。50年前のほうが、歴史のことも考えていたし、だからこそ出てくる考えも未来的だった。そこは気になりますね。



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五十嵐太郎

建築史・建築批評家/東北大大学院教授
東京大学工学部建築学科卒業、東京大学大学院修士課程修了。博士(工学)。
ヴェネツィアビエンナーレ国際建築展2008日本館のコミッショナー、あいちトリエンナーレ2013芸術時監督のほか、「インポッシブル・アーキテクチャー」展、「窓展:窓をめぐるアートと建築の旅」、「戦後日本住宅伝説」展、「3.11以後の建築」展などの監修をつとめる。
著作に『現代日本建築家列伝』、『モダニズム崩壊後の建築』、『日本建築入門』、『現代建築に関する16章』、『被災地を歩きながら考えたこと』など。