日本ジャズ界で人気・実力ともにナンバーワンの“ファーストコー
第一回目は「ジャズってこういう音楽だよ」。
②「もう一度「カッコいい音楽」に戻っていくんじゃないかと思います。」
③「ジャズをもっとパブリックなものにしたいっていうか…」
④「ジャズって。なにかを考える前に、自然のうちに目の前にあったんです。」
⑤「最近になって、自分がジャズをやっている意味が少しずつわかってきたような気がするんです。」
⑥「自分に嘘をついて演奏したら、たとえ誰かに褒められても、わたしはちっとも幸せに思えない。」
⑦「たとえどんなことを演奏しても、『ああ、ジャズだ』ってなると思うんです。」
「ジャズはけっして“エリートのための音楽”ではありません。」
平野:今日は、ジャズシーンの第一線で活躍するふたりのミュージシャンをお招きしました。ふたりはともにトッププレイヤーであり、土岐英史バンドのメンバーであり、ぼくの大好きなプレイヤーです。先日リリースした土岐さんの新譜『Black Eyes』でも素晴らしい演奏を披露してくれました。ピアノの片倉真由子さん、そしてトランペットの市原ひかりさんです。
片倉&市原:よろしくお願いします!
平野:『Black Eyes』は新レーベルの第一弾で、とても重要な意味をもつアルバムだったんだけど、おかげさまで最高の作品になりました。ありがとう!
片倉:こちらこそありがとうございました。とっても楽しかったです!
市原:わたしも!

土岐英史 – Black Eyes<br />
Days of Delight(2018)
平野:ぼくがジャズレーベルをはじめようと思った動機のひとつは、若い世代にジャズの魅力を伝えたかったこと。打ち込み系で育ってきた若者たちに、ジャズという“生身の音楽”がもっている表現力や生命感、躍動感を感じて欲しくて。
片倉:そう言っていただいて、とても嬉しいです。
平野:ジャズって強烈な身体性、肉体性の産物でしょ? それこそ土岐さんのアルトサックスの朝顔菅(音が出る先端部分)から出てくる音なんて、とても金属が関与しているとは思えないくらい、とにかく生々しい。内臓器官からそのまま音が出てきてるんじゃないか、っていうくらいにね。
市原:平野さん、“唾かぶり”大好きですもんね(笑)。
片倉:そうそう(笑)。
平野:“唾かぶり”の代表は、御茶ノ水のジャズクラブ「NARU」のカウンター左端の席。そこに座ると、土岐さんの朝顔菅までの距離はわずかに50〜60cmです。
市原:そうですね。
平野:そこで聴く土岐さんの音は、とにかくすごい。あの音圧と質感のインパクトは、とても言葉では説明できません。F1サーキットで聞くエンジン音とおなじです。
片倉:そうですか(笑)。

平野:「聴く」というより、「浴びる」…いや、「打ち込まれる」っていう感じかな。なんて言うか……あれ、もはや「音楽鑑賞」じゃないよね? だって、直接脳幹に入ってくるもんね。
片倉&市原:(爆笑)
平野:機械ではけっして再現できない、人間でなければ、肉体でなければ生み出せない音。だからこそ、若い世代に体感して欲しいんです。かならずや彼らの感覚をひらいてくれると思うから。
市原:はい。
平野:でも、多くの若者たちのジャズに対するイメージは、おそらく「とっつきにくい」「むずかしい」「芸術的」…というものじゃないかと思うんですよ。
片倉:あるいはまったく逆に、「カフェ、バー、歯医者さんで流れているBGM」と思っているかもしれません。
平野:ああ、それもあるね。
市原:その両極に偏在していて、真ん中がすぽっと抜けているのかも。
平野:そういう「ジャズをきちんと聴いたことがないんです」っていう相手に対して、「ジャズってこういう音楽だよ」「こういうところが魅力なんだよ」って伝えたいんですよ。それが今日のテーマ。市原さんなら、なんて言う?
市原:うーん……“お寿司”かな?
平野:なにそれ(笑)。
市原:ジャズって“生きもの”でしょう? 音楽のジャンルにはいろいろあるけど、その中でもいちばんの生きものだと思う。
平野:インプロビゼーション(アドリブ)の音楽だから? いつもちがうし、おなじ演奏は二度とないから?
市原:もちろん演奏がいつもちがうってこともあるけれど、その日はとっても美味しかったとしても、半年後に食べたとき、おなじように美味しいとは感じないかもしれない、いまのほうがもっと美味しいじゃないかと思うかもしれない。そういう面があると思うんです。
土岐英史 – Black Eyes 収録曲『845』 市川ひかりソロ
※レコーディングの様子を記録した秘蔵映像です
平野:なるほど。演奏そのものがたえず動いていることに加えて、それを受け入れるリスナー側の状況によってもちがったものに聴こえるっていうことですね?
市原:そうです。
平野:コンビニで売っているお菓子のように、いつ買っても、いつ食べてもおなじ体験を保証してくれるものとはちがう。だからジャズは“生もの”なのだと。たしかにそのあたりは“コンビニエンス”じゃないよね。
片倉: 実際ジャズを演奏することは難しい。ジャズだって学問だから、さまざまな知識を身につけ、相当トレーニングを積まなければならないし、経験も必要になってくる。でも、だからといって、特別な人のための音楽じゃない。
市原:そうそう。
片倉: ジャズはけっして“エリートのための音楽”ではありません。大衆のための音楽だと思います。だから多くの人に聴いて欲しい。
土岐英史 – Black Eyes 収録曲『845』 片倉真由子ソロ
※レコーディングの様子を記録した秘蔵映像です
平野:うん。
片倉:そもそも“選ばれし者の音楽”のはずがないんです。ジャズをつくりあげてきた先人たちみんなが学校教育として訓練を積んでジャズミュージシャンになったのではなく、日常からさまざまなインスピレーションを受けて一生懸命練習し、それを自分の楽器を通して自分の感情と共に表したのだから。
市原:そうですよ。
平野:ほんとにそうだよね。だからこそ、ぼくは「ジャズなんてむずかしい音楽は、ぼくにはとてもとても…」と考えている人たちに、「そんなことないよ! ジャズっておもしろいよ! 楽しいよ!」って言いたいんです。でも、なにを言えばいいんだろう? うーん、やっぱり…むずかしいな。
片倉:いや、考える!
市原:(笑)
片倉:なんだろう。とにかく「おなじ演奏は二度とない」っていうこと。良くなるとか悪くなるかとかそういうことじゃなくて、とにかくおなじものには絶対にならない。
平野:うん。
片倉:なぜなら、わたしたちの感情は日々変化していくから。自分の気持ちがたえず動いている。それがそのまま毎日音楽になっていくのがジャズです。さっきの“生きもの”につながることだけど、そうであるからこそ、おなじことは二度と起きない。1回限り。一期一会。

平野:現場で、瞬間瞬間につくられていくのがジャズだもんね。
市原:なにしろ、やっているのは“瞬間の作曲”ですからね。
平野:そのときその場に立ち会わない限り、けっして体験できない。冷凍も解凍もできないし、保存も輸送もできない。そのスリルとダイナミズムがジャズの魅力だよね。
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次回は「ジャズは難しい」。

片倉真由子(かたくら まゆこ)
仙台市出身。洗足学園短期大学を首席で卒業後、バークリー音楽大学、ジュリアード音楽院に入学。ケニーバロンに師事。留学中より、ハンク・ジョーンズ、ドナルド・ハリソン、 カール・アレン、ベン・ウォルフ、エディ・ヘンダーソン、ビクター・ゴーインズ等と共演する。2006年、Mary Lou Williams Women In Jazz Piano Competitionで優勝、Thelonious Monk International Jazz Piano Competitionのセミファイナリストに選出される。2008年に帰国し、現在は自己のトリオをはじめ、山口真文、伊藤君子、竹内直、土岐英史、寺久保エレナ、レイモンド・マクモーリン、ジーン・ジャクソントリオ、北川潔トリオのグループなどで活動中。洗足学園音楽大学非常勤講師。
市原ひかり(いちはら ひかり)
1982年東京都生まれ。成蹊小中高等学校を卒業後、洗足音楽大学ジャズコースに入学。2005年主席で卒業。同年ポニーキャニオンよりデビューアルバム『一番の幸せ』をリリース。以降同社より8枚のリーダーアルバムをリリース。自己のグループの他、土岐英史(as)、秋山一将(gt)、増原巖(bs)、赤松敏弘(vb)等のグループに参加。活動範囲はジャズにとどまらず、山下達郎、竹内まりや等のアルバムにもソロプレイヤーとして参加している。
主な出演番組は、『トップランナー』『題名のない音楽会』『ミュージックフェア』『僕らの音楽』等。