作家、クリエーターとして、 あらゆるジャンルに渡る幅広い表現活動を行っている いとうせいこうさんとの対談です。
〈前回までは〉
いとうせいこう①「まだここに太郎さんがいるんじゃないかって思っちゃいますね。」
いとうせいこう②「ぼくは仮面が大好きで、民博に見に行きましたよ。」
いとうせいこう③「いちばん最初にやったのは・・・たぶんぼくでしょう。」
いとうせいこう④「大衆はそういう太郎さんを『おもしろい!』って思ったわけです。」
いとうせいこう⑤「絵を描く人でコピーがうまい人ってなかなかいないですよ。」
いとうせいこう⑥「文学で言うと、ウィリアム・バロウズっておじいさんがニューヨークにいて、」
いとうせいこう⑦「ぼくの知り合いにもせっかちな人がいて、「ほないこか」っていうのが口癖なんですよ。」
今回は岡本太郎のバランス感覚についてお伺いします。
「これ以上やるとつまらないことになるっていうことがもうわかってるんですよね。」
平野:太郎もいとうさんも、対極的な場所へ瞬時に飛び越えるということはわかりました。だとしたら、そのときはどんな感じで? 「ここまで来たから、じゃあそろそろ次のこっちへ・・・」みたいな感じですか?
いとう:それは感覚でしょうね
平野:やっぱりそうなんだ。気がついたらそうなっているってことでしょう?
いとう:これ以上やるとつまらないことになるっていうことがもうわかってるんですよね。
平野:決まりきった結果になるってことが?
いとう:そう。だから「このままじゃダメだ、危ない危ない」って逃げるわけです。
平野:逃げる?(笑)
いとう:上手に逃げて、しかも自分の飽きるという習性からも逃げるっていう・・・逃げ足は速いです(笑)。
平野:すごくよくわかります。

いとう:岡本太郎っていう人は立体のモチーフとかもやっぱり動きじゃないですか。「動」の人なんですよね。
平野:うねりとか、うずまきとかね。
いとう:そうそう。たとえ静物画を描いたとしても、それ自体が対象として動いていないと気が済まないと思うんですよ。なぜなら自分が動いているから。
平野:なるほど。
いとう:運動の人なんですよね。それに運動ってぼくらからすると3次元の中での問題だけど、きっと太郎さんの感覚でいたら「色」も運動なんですよ。だからあんなに色が出てくるんだと思う。
平野:ああ、たしかに。そうやって考えていくと、岡本太郎ってすごくシンプルな制作原理があって、最期までそれに忠実にものをつくったっていう人ですよね。
いとう:それがとにかく伝わってくるから、ぼくとしてはつい真似しちゃったりしたわけです(笑)。

平野:太郎っていろんなことをやったでしょう? 絵や彫刻だけでなく、文章も書いて写真も撮って・・・書をやり焼き物をやりプロダクトデザインをやり・・・、はてはお寺の鐘や着物の振り袖までつくった。
いとう:いろいろやってますよね。
平野:でもそれは、おそらく戦略的に考えた結果ではなくて、気がついたらやっていたんだろうと思うんです。
いとう:そうでしょうね。
平野:彼の中ではたぶんすべてが等価で、区別はなかった。彼にとってそれらはみな、自分の情熱を大衆社会に届けるためのキャリヤー(台車)だった・・・。
いとう:まさにそうだと思います。
平野:太郎はたくさんのキャリヤー―メディアと言ってもいいけれど―を持っていて、作品ごとにいちばん適したメディアを直感的に選んだ。ぼくはそう考えているんですけど、どう思われます?
いとう:ぼくもそういう気がしますね。岡本太郎さんはプレイヤーの部分だけが強調されている。もちろん最初に思いついたときはただ思いついたんだと思います。「これは着物にしたらおもしろいな」とか。だけどつくりはじめたときにはちゃんと「岡本太郎というプロジェクト」にとってどういう意味を持つかを編集者的な俯瞰がピッと働いた人だと思います。
平野:バランス感覚は悪くなかったってことですよね?
いとう:悪かったらそんなにグルグル回りませんよ。
平野:(笑)

いとう:太郎さんって、そういうプロデュースワークもしっかりしていたと思いますね。
平野:なるほど。そうかもしれないな。
いとう:でも、このテレビではこういう説明をしよう、なんてやっているうちに、だんだんプレイヤーになっちゃう。興奮してしゃべっちゃうんですよ。
平野:そういうときのプロデューサー指数は・・・
いとう:きっとゼロです(笑)。だけど収録が終わったとたんに「これがオンエアされるとすると、アッチをやっておいたほうがといいな」とかって思ったんじゃないかな。
平野:ああ、なるほど。
いとう:それって動物の勘みたいなものですよ。やっぱり狩猟採集民族らしいところなんじゃないですかね。
平野:プロデュース理論とかそういうものじゃないですよね(笑)。
いとう:いや、まったく。勘ですよ、勘(笑)。
—
次回は、
プレイヤーでプロデューサーだった岡本太郎が、
指揮者になった日。
いとうせいこう⑨「そういった岡本太郎の『聞く能力』ってあんまり強調されてないですよね。」

いとうせいこう
作家・クリエイター
1961年、東京都生まれ。編集者を経て、作家、クリエイターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。著書に『ノーライフキング』『見仏記』(みうらじゅんと共著)『ボタニカル・ライフ』(第15回講談社エッセイ賞受賞)など。『想像ラジオ』『鼻に挟み撃ち』で芥川賞候補に(前者は第35回野間文芸新人賞受賞)。テレビでは「白昼夢」(フジテレビ)「オトナに!」(TOKYO MX)などにレギュラー出演中。浅草、上野を拠点に「したまちコメディ映画祭in台東」では総合プロデューサーを務めている。