数多くの賞を受賞し世界的にも注目されている建築家 藤本壮介さんとの対談です。
最終回は日本と世界の関係。そしてこれからの建築。
〈前回までは〉
藤本壮介①「ローコストなのに、けっこうアクロバティックなこともやってるし。」
藤本壮介②「内側から湧き出してくるようなイメージにできないか、とも考えました。」
藤本壮介③「森と一緒に打つくらいじゃないとほんとうの意味で響かないんじゃないかって思ったんです。」
藤本壮介④「ぼくは感性だけではつくりたくないと考えていますが、だからといってロジックだけでつくりたいとも思わない。」
藤本壮介⑤「大学に入ったら、物理がめちゃくちゃむずかしいってことがわかったんです。」
藤本壮介⑥「もしかしたら流されて、自分を見失っちゃうんじゃないか、みたいなことを考えたりして。」
藤本壮介⑦「欲しくないって言い切れるほど、まだそこまで開き直ってないです(笑)。」
藤本壮介⑧「敷地の状況などを含めて〝空間に聞く〟みたいな感じです。」
藤本壮介⑨「いい建築にはそれぞれにおもしろさがあって、節操ないけど、いろいろ好きなんです。」
—
「ベタな意味じゃなくて、しっかり深いところで理解したいという思いは強くもっています。」
平野:藤本さんは海外でたくさん仕事をされているけれど、まぎれもなく日本人で、血の中には日本の記憶が詰まっているわけじゃないですか。
藤本:はい。
平野:世界で建築をつくるときに、日本と世界の関係、あるいは自分が日本人であることをどのように考えてます? そんなことは関係ない?
藤本:具体的にものをつくるときに意識してもしょうがないので、あまり考えないようにしています。もっと日本人っぽくした方がいいのかな……なんて考えたことがないわけじゃないけど、すぐに「いや、そもそも日本人っぽいってなんだよ?」って。
平野:(笑)
藤本:誠実につくっていれば、どこかに日本的ななにかが自然と出てくるような気もしますし…。わざわざつけ足さなくてもいいんじゃないかと。ただ、日本の文化、造形、概念って、不思議でおもしろいから、それを自分なりに理解して、自分の蓄積として深めておくのはとても大切なことだし、やっていきたいとは考えています。
平野:なるほど。
藤本:大学卒業後のなにもしてない時期に、たとえば武満徹さんの本を読んで・・・あの人も音楽というフィールドで、日本と西洋の間で「なにがちがっていて、その背後で通底しているものはなにか」というようなことをずっと考えていた人じゃないですか。あとはロラン・バルトとか・・・あれも日本人が読むとすごく新鮮ですよね。「こうなるのか!」みたいな。
平野:はい。

藤本:日本的なるものを、ベタな意味じゃなくて、しっかり深いところで理解したいという思いは強くもっています。
平野:海外のコンペでは世界の建築家と闘うわけじゃないですか。そういうときに、自分が日本人であることを痛感することってありますか?
藤本:最近はあまり意識しなくなりましたね。ただ向こうの人は、やっぱり押しが強いですよね。
平野:(笑)
藤本:そこはもう敵わないと思ってます。いまから豹変して攻撃的になれるわけじゃないので(笑)。いまの自分にできる精一杯のことをやろうと。
平野:(笑)
藤本:丁寧に状況に聞き耳を立てること。耳を澄ましてしっかり拾い集めて煮込むこと。それを意識してやっているんですが、もしかしたら、それって、日本的な丁寧さなのかもしれませんね。
平野:藤本さんは事務所の若いスタッフにいつもどんなことを言ってるんですか?
藤本:「人の話をちゃんと聞け」とか。
平野:(爆笑)
藤本:「ちゃんと情報を共有しろ」とか、そういう基本的なことです。
平野:建築デザインについては? 建築に向きあう姿勢、みたいなことでもいいけど。
藤本:あまりそういうことは言ってないような気がします。アイデアのブレインストーミング的なことはワイワイやりますけど。
平野:そういうときに、「こういうところが大事なんだぞ」とか、「ディティールにばかり気をとられちゃダメだ」とか、そういうことは?
藤本:あまり言わないですね。

平野:とすると、どうやってスタッフを育てているんですか?
藤本:勝手に育ってるんじゃないですかね。
平野:(笑)。
藤本:とにかくぼくが口を酸っぱくして言っているのは、「まず電話にちゃんと出ろ」「ハキハキ答えろ」(笑)。
平野:(笑) スタッフがスケッチをもってきたとき、「おお、これはすごい!」ってことはまずなくて、たいていダメじゃないですか。
藤本:ダメですね。
平野:そういうときはどうするんですか?その場で自分でグリグリ描いちゃうほう? それとも「もっと考えてからもってこい」って突き放すほう?
藤本:わりと描いちゃいますね。それと、ある程度の形になってきたときには、我に返ってもらいます。ぼく自身もそうだけど。
平野:どういうこと?
藤本:問うんです。「そもそもこれって、なにをやりたかったんだっけ?」って。そういうふうに自分自身に問いかけることはやっています。プロジェクトが進むにつれて、最初の意図や大事にしていたことを見失うことがよくあるので。
平野:よくわかる。
藤本:逆もあって、「最初に大事にしていたコレって、ほんとうに意味があるのか?」とか、「そもそも最初のこのアイデアって、なにがおもしろかったんだっけ?」とか(笑)。
平野:ああ、ますますよくわかる(笑)。

藤本:その種の問いかけを、そろそろまとめにかかろうかというくらいのタイミングでやるようにしています。
平野:いまは激動の時代。あと20年もしたら、AI があるから建築家なんかいらないってなるかもしれないじゃないですか。
藤本:日本はありそうですね。
平野:これから勝ち残っていくときに、藤本さんが大切にしていること、これだけは守ろうと思っていることって、どんなことですか?
藤本:レクチャーするとき、いままでは自分の作品を見せるだけだったんですけど、最近はキーワードを3つ出しているんです。
平野:うん。
藤本:ひとつ目は「問いつづけること」。問い直しつづけること。家をつくってくださいと言われても、家ってなんだったっけ? ということも含めて問いつづける。二つ目は「楽観的であること」。なんとかなるんじゃない? って思いつづけることの大切さ。三つ目は 「Be honest」。誠実であること。
平野:いやぁ、楽しかった。今日はほんとうにありがとうございました。
藤本:こちらこそ。平野さんと話していると、自分がやっているのはそういうことだったのか、とか、建築ってそういうことだったのか、っていう発見があっておもしろいです。ありがとうございました!
—

藤本壮介
1971年 北海道生まれ。
東京大学工学部建築学科卒業後、2000年 藤本壮介建築設計事務所を設立。
2014年 フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞、2015年 パリ・サクレー・エコール・ポリテクニーク・ラーニングセンター国際設計競技最優秀賞につぎ、2016年Réinventer Paris 国際設計競技ポルトマイヨ・パーシング地区最優秀賞を受賞。
主な作品に、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013 (2013年)、House NA (2011年)、武蔵野美術大学 美術館・図書館 (2010年)、House N (2008年) 等