新進気鋭の映像クリエイターとして、多数のミュージックビオの、CM映像のディレクションを行っている映像作家、杉本晃佑さんとの対談です。
〈前回までは〉
①「音と映像が合った瞬間とか、生理的にゾクっと…」
②「漫画って、読むのは楽しいけど、描くのはそう楽しくなかったんで……」
③「音と映像が絡む瞬間」。
④「ヤン・シュヴァンクマイエルなどの伝統的なチェコアニメを学びに行ったわけではないんですけど。」
⑤「毎回仕事のたびに新しいタッチに挑戦したいと思っているんですね。」
⑥「憧れの時代を疑似旅行してみたっていうイメージがいちばん近いかな。」
⑦「直球もあれば、ぼく以外にはわからないだろうなっていうフィルターもあって。」
⑧「最初に『どこまで冒険するか』っていう話はするんですけどね。」
第9回は「カッコイイ」。
「ひとり一人が自分の眼で見ている現実のほうがカッコいいと思っているんです。」
平野:ここでようやく冒頭の話に戻るんですけど、杉本さんの作品を見たとき、ぼくは「カッコよくて、濃くて、芸術的」だと感じた。それはいったいどこから来ているのかっていうことなんですけど…
杉本:はい。
平野:〈Days of Delight〉の映像を見てくれた人が一様に口にするのは「カッコいい」というフレーズです。判で押したようにそう言うんですよ。ぼく自身も最初に口から出たのは「カッコいい!」でした。
杉本:ありがとうございます。
Birth of New Japanese Jazz Label “Days of Delight”
平野:もちろん世の中に「カッコいいもののつくり方」なんていう本はないし、「こうすればかならずカッコいいものができる」っていう方程式もないじゃないですか。
杉本:はい。
平野:そもそも杉本さんはどんなものをカッコいいと思っているのか? あるいは、もしかしたらカッコいものをつくろうなんてまったく考えていないんじゃないか?…なんて、想像が膨らむわけですよ。
杉本:(笑) こんなことを言っては映像屋として失格なのかもしれないけど、基本的にぼくは、だれかが頑張ってつくった映像より、ひとり一人が自分の眼で見ている現実のほうがカッコいいと思っているんです。
平野:リアルな現実世界っていうことですか?
杉本:そうです。みんながそれぞれ自分のレンズで見ているじゃないですか。人が眼で見ている世界はパノラマで完全。でもぼくらがつくる映像って、画角は決まっているし、きわめて限定的なものでしかない。
平野:ああ、それはなんとなくわかるな。
杉本:実写で撮ったところで、けっきょくは一緒。フレーミングってそういうことなんですよね。じつは人間の眼に劣るものをつくっているに過ぎない。ぼくにはそういう感覚があって。
平野:なるほど。そんなふうに…ね。

杉本:だからなんでしょうね、アニメーションや人工物が好きっていうのは。現実を切り取ってうまく処理するよりも、人の眼では見ることができない、見たことのないものをつくろうと。どうせ人の眼には敵わないんですから。
平野:うん。
杉本:大自然の映像だからといって簡単には感動できないのも、けっきょくはそういうことだろうと。
平野:よくわかります。杉本さんの世界は、いわばコンプレックスの裏返しみたいなことなのかもしれませんね。映像はしょせん映像じゃないか、っていうね。
杉本:山の上に登った絶頂の景色にはなかなか勝てないんで。
平野:絵画のジャンルに写真みたいに描くスーパーリアリズムがあるけれど、あれなんかも「写真のようだ」って褒めるくらいなら、写真を見ればいいって話ですもんね。さらに言えば、写真が切り取る対象になったリアルな景色を見るほうがもっといい。
杉本:そう思います。
平野:そこまではわかった。でもね、いまの話は「なんで杉本さんの映像はカッコいいのか?」っていう問いに対する説明にはまったくなっていない。
杉本:それはそうですね(笑)。
平野:そもそも「カッコいい」を褒め言葉として使っていいんですよね? もしかして、嬉しくない?
杉本:いやいや、そんなことないです。すごく嬉しいです。
平野:まあ、たしかに「カッコいい」っていうワードはすごく曖昧な言葉だしね。それにしても、ぼくの周りにいる人たちがみんな「カッコいいね」って言ったんですよ。なぜだと思います?

杉本:シンプルなところでいうと、ケレン味をもたせるようにはしています。ちょっと誇張したポーズであったりとか。ぼくはケレン味っていう言葉が好きなんですけどね。
平野:ディテールへのこだわり、みたいなことかな?
杉本:もしかしたら、いちばん大きいのは、ぼくがある種のアウトサイダーだということかもしれません。ちゃんと芸術を学んだ人間でもないし、だれかに師事したこともないから、ルールをまったくわかってないんです。
平野:ああ、そうか。
杉本:いっとき学ぼうと思って試行錯誤したこともあったんですけど……むしろ学んだら自分のいいところがなくなってしまうんじゃないかという気がして。
平野:なるほど。
杉本:ちゃんとした勉強をせずにここまで来ちゃったんです。もしかしたら、それがなんらかのおもしろさにつながっているのかもしれません。
平野:デザイン理念や技術以前に、杉本さんという人間のもっている美意識や世界観が「カッコいい」の源なのかもしれないな。本人の意識外のことだけど。
杉本:あとミュージックビデオをつくるときの根底には、ミュージシャンに対する“嫉妬”っていうのがありますね。
平野:あ、そうなの?(笑)
杉本:ぼくも昔、人前に立って演奏することに憧れて、ギターを弾いたりしたこともあったんですけど、あまり人前に立てるタイプじゃなかったので。役者やミュージシャンは心の底からカッコいいと思ってるんです。
平野:へえ。
杉本:でも、だからといって、彼らをまるごと認めてそのまま映したら、こっちの負けじゃないですか。だから映像の中では現実以上にカッコよくしてやろうと。
Barbora Poláková “Krosna” MV 日本語字幕 from Kosuke Sugimoto on Vimeo.
平野:他のクリエイターの作品で「これはカッコいい」って思うものもあるでしょう?
杉本:あまり大きな声じゃ言えないんですけど、ぼくあんまり見ないんですよ。
平野:あ、そうなの? あえて?
杉本:あえて、と言えばそうですけど、あまり興味がないっていうか…
平野:そうなんだ。ぼくはてっきり1日1時間は YouTube にかじりついて最新動向をチェックしているのかと思った。きっと目を三角にして情報収集しているんだろうって。
杉本:そうしなきゃいけないとはぼくも思っているんです。ただ、そう思いながらも、一方ではそれはやりたくないっていう思いもあって。そもそもぼくは友達がいないし…
平野:(爆笑)
杉本:映像業界にっていう意味ですけどね(笑)。そういったこともあって、人の作品を見ることはあまりないですね。
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次回は「濃さ」と「芸術的」。

杉本晃佑(すぎもと こうすけ)
映像作家
1983年生まれ。アニメーション・実写・3DCG・モーショングラフィックスなどを用いた映像と音楽とを緻密に融合させた構成、歌詞や広告商品などを独自に掘り下げたストーリー構築を得意とし、MV、CM制作を主として活動。近年はSEKAI NO OWARIやSCANDALのMV、NHKみんなのうたなどを手がける。また「the TV show」「これくらいで歌う」などの個人作品は国内外の多数の映画祭・コンぺティションで受賞。
2014年からプラハを拠点にヨーロッパでの活動も開始。映像監督を務めた3D映像コンサート「Vivaldianno 2015」はイギリス・ドイツ・チェコなど15ヶ国以上で上演、クラシックコンサートとしては異例の20万人以上の動員となる。2018年、東京に株式会社Studio12を設立。