日本人でただ一人、世界で最も過酷で危険なエクストリームスポーツの「スキーベースジャンプ」をされている佐々木大輔さんとの対談です。
第9回目は「伝えたいこと」
〈前回までは〉
①「この絵はわたしの母親が岡本太郎さんに描いてもらったものなんです。」
②「こういうものは、うちにあってはいけないです!」
③「ほんの数秒間なんですけど、その数秒間だけ、時がゆっくり流れていくんです。」
④「じつはわたしは高いところが怖くて。」
⑤「繰り返しイメトレをしながら、何回も死にます。」
⑥「ぼくがほんとうに熱望しているのは太陽の塔から飛びたいってことですから。」
⑦「『オレ、プロレスラーになるから!』と大見得を切っていたので、」
⑧「彼のすごい滑りを見て、大歓声がボンボンって。」
「『なにをバカなことやってるんだろ?』でもいいんです。」
平野:シェーン・マッコンキーはいつくらいからスキーベースジャンプをはじめたんですか?
佐々木:2002、3年で、競技大会はほとんど引退状態でした。それこそ彼はアルペンやモーグルもやっていて、ずっと競技をやってきた人なんですが、今度は自分の好きなことやりたいと言っていた頃です。
平野:その転機って、彼がいくつくらいの話ですか?
佐々木: 33〜4歳くらいです。
平野:わかるなあ。そういう頃にいろいろ考えるんですよね。
佐々木:ぼく自身も怪我をしながら大会に出ていたんですけど、成績も出ないし…。当時は日本のスキー雑誌の表紙に載せてもらったりしていたんですが、それもだんだん無くなってきて(笑)。
平野:そこに追い打ちをかけるように目標の人が亡くなってしまった。それでスキーへの情熱を失いかけたんですね?
佐々木:そうです。そんなときに日本でお客様と滑ることがあって。19歳だけ無料でスキーができるキャンペーンみたいなのがありまして。「雪マジ!19~SNOW MAGIC~」っていうんですけど、19歳だけリフト券がタダで、スキー場で楽しんでくださいって。
平野:それはスキー人口を増やすため?
佐々木:そうです。いろんなスキー場でやっているんですけど、そこに来た女性5人組のスキーヤーが、わいわいおしゃべりしながらやっていた。でも、多感な時期の女性たちが30年前のウェアを着て、30年前のスキーをもっていたんですよ。
平野:うん。
佐々木:それを気にするでもなく、スキーってそういうもんだっていう感じで、当たり前のようにスキー場にいた。いまどきの格好をしていないと恥ずかしいと思うような年代の子たちがですよ?
平野:なるほど。

佐々木:そのときに「ああ、スキーって、日本ではこんなに知られてないんだ」と思ったんです。自分はカナダとか世界で勝ってきて、表紙を飾って、日本にもスキーのおもしろさ、シェーン・マッコンキーがぼくに伝えてくれたものを、日本のみんなにも少しは伝えられているような気がしていたんですけど・・・
平野:わかります。
佐々木:自分のことは知られてなくても、スキーはカッコイイっていうことくらいは伝わっていると思っていたんですが、まったく伝わっていなかった。それがわかって、これはヤバいぞと。
平野:それで火がついたわけですね。
佐々木:もう1回スキーでおもしろいことをやらないと、いままでやってきたことがつまらないものになっちゃうなって。それで「よし! スキーベースジャンプをやろう!」と思ったんです。
平野:何年くらい前に?
佐々木:やりはじめて10年になります。
平野:はじめたときは佐々木さん、おいくつでした?
佐々木:32歳でした。
平野:シェーン・マッコンキーとほぼおなじ年齢で転機が訪れたわけだ。
佐々木:不思議ですね。
平野:お話を伺っていると、自分自身にとっての新たな到達目標というよりも、スキーのもっている力、魅力、可能性を自分なりに表現すること、あるいは次の時代に伝えることが自分の使命だと考えたっていうことかもしれませんね。
佐々木:使命っていうか・・・、伝えたいなと思っちゃったんです。
平野:なにを伝えたいんだろう? 自分のもっている「スキー観」みたいなことですか?
佐々木:なんだろうな・・・日本だと、スキーっていう単語から思い浮かぶのは、きれいなゲレンデを丁寧に滑ってくるっていうところからはじまって、オリンピック競技があって、みたいなイメージですよね。なんとなくオリンピックのためのスポーツみたいなところもあるし。
平野:一生懸命にスキーをやっているこどもたちに聞いたら、目標はオリンピックに出ることだって答えるでしょうね。
佐々木:そこにちょっと不満みたいなものがあって。スキーってまだまだおもしろいぞっていうか、まだまだこんなもんじゃないっていう・・・なんだろうな、奥深さとか、もっとシンプルにおもしろいとか。バカバカしかったり、くだらないことだったり・・・スキーってなんでもできちゃうよっていう・・・
平野:スキーの多様な可能性ですね?

佐々木:ここからは愚痴になりますけど
(笑)、たとえば冬に電車に乗っているとき、たくさん人がいるのにだれもスキーの話をしていなくて悔しかったり、冬に家電量販店に行っても、テレビがいっぱいあるのに、映っているのがサッカーだったり。冬でもスポーツニュースがとりあげるのは野球ばっかりで・・・もっとスキーの話をしてよ!って思うし。けっきょくスキーって、まだそこまで行ってなかったんだと。
平野:できることはたくさんあるなって思ったわけでしょう?
佐々木:そうなんです!
平野:こどもたちに「君たち、まじめにスキーの練習をしなきゃダメだよ」って言いたいわけでもないし・・・
佐々木:はい!
平野:スキーは非常に厳しいものだとか、「スキー道」を極めろって言いたいわけでもない。
佐々木:そうなんです!
平野:スキーは女の子とチャラチャラするためにあると思っている連中に説教したいわけでもない。
佐々木:チャラチャラしたっていいんですよ。
平野:要するに「スキーっておもしろいからやってみなよ」っていうことでしょ?
佐々木:はい。スキーのおもしろさを伝えようとしている人は業界にたくさんいるんです。たとえばきれいにターンする方法を教えたい人もいるし、オリンピックを目指している人もいるし、ぼくみたいに・・・
平野:うん。スキーのいろんな魅力、おもしろさ、楽しさを表現する。そのための新しい表現ジャンルをつくりたいっていうことですね?
佐々木:そうなんです! 「なにをバカなことやってるんだろ?」でもいいんです。
平野:アルペンスキーに勝ちたいとかそういう話ではなくて、それもひとつ、これもひとつ。オレ、こんなバカげたことやっているけど、それもひとつ。スキーって、こんなにいっぱいあるんだよって。
佐々木:まさにそうです。ほら、スキーってこんなにバカらしいでしょ? おもしろいでしょ? どうだー!いいだろ?って。「だから、みんな、やってみない?」って言いたいんです。
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次回は最終回。
「縄文の精神」

佐々木大輔(ささきだいすけ)
1977年 青森県十和田市出身
2003年 アラスカ・フリーライドチャンピオンシップ優勝(日本人唯一)
2013年 富士山スキーベースジャンプ(世界初)
「スキーの歓び、可能性を世間に広める」を目標に “ベースジャンプ ” と “スキー” を融合させた「スキーベースジャンプ」で表現し最驚を目指す。
妻まなみが同行し撮影、日本のスキーベースジャンプエリアを世界でただ一人開拓し続ける。