作家、クリエーターとして、 あらゆるジャンルに渡る幅広い表現活動を行っている いとうせいこうさんとの対談です。
〈前回までは〉
いとうせいこう①「まだここに太郎さんがいるんじゃないかって思っちゃいますね。」
いとうせいこう②「ぼくは仮面が大好きで、民博に見に行きましたよ。」
いとうせいこう③「いちばん最初にやったのは・・・たぶんぼくでしょう。」
いとうせいこう④「大衆はそういう太郎さんを『おもしろい!』って思ったわけです。」
いとうせいこう⑤「絵を描く人でコピーがうまい人ってなかなかいないですよ。」
いとうせいこう⑥「文学で言うと、ウィリアム・バロウズっておじいさんがニューヨークにいて、」
いとうせいこう⑦「ぼくの知り合いにもせっかちな人がいて、「ほないこか」っていうのが口癖なんですよ。」
いとうせいこう⑧「これ以上やるとつまらないことになるっていうことがもうわかってるんですよね。」
今回はプレイヤーでプロデューサーだった岡本太郎が指揮者になった日。
「そういった岡本太郎の『聞く能力』ってあんまり強調されてないですよね。」
平野:アーティストって、プレイヤー型人格の極致じゃないですか。
いとう:はい。
平野:一方、対極には指揮者たるプロデューサーがいる。基本的に太郎はひとりで作品をつくる典型的なプレイヤーだった。ところがある日突然、指揮者にならなくてはいけなくなった。
いとう:大阪万博ですね。
平野:太陽の塔やテーマ館をつくるために、100人からのスタッフを抱えなければならなくなったわけです。
いとう:それは大変だ。
平野:当初、太郎はオファーを断ったんです。史上最大の万博のプロデューサーを断るなんて、どうかしてるでしょう?(笑)
いとう:やりたい人は山ほどいたでしょうね。
平野:そりゃもう、みんな喉から手が出るほどやりたかった。でも、自薦、他薦が山ほどあったはずなのに、万博協会は太郎の一本釣りにこだわったんです。
いとう:太郎さんはなんで断ったんですか?
平野:ひとつには役所とうまくつきあうなんて無理だ、っていうのがあったでしょう。
いとう:なるほど。
平野:もうひとつは、自分に大型プロジェクトのマネージメントなんてできるはずがない、と思っていたからでしょう。
いとう:そうか。
平野:じっさいプロジェクトがはじまったとき、太郎に批判的な美術業界の人たちは「あんなチームがうまくいくはずがない。3ヶ月で空中分解するから、まあ見てろよ」と楽しみにしていたらしい。
いとう:でも見事にやってのけた。
平野:マネジメントに関して、太郎がどういうスキルを繰り出したのかと当時の話を聞いてみると、結論はどうやら「なにもしなかった」ということらしいんです。
いとう:(笑)興味深いですね。
平野:太郎がやったことを強いて挙げれば、「任せた」ってことですね。
いとう:素晴らしい!

平野:まず若いクリエイターを集めてチームをつくった。そして彼らに思想と哲学をひたすら打ち込んだ。
いとう:なるほど。
平野:若者たちはさぞ嬉しかったでしょう。あの岡本太郎が自分に向かって一生懸命しゃべってくれるわけですからね。
いとう:そうでしょうね。
平野:しゃべり終わると会議になるわけですが、太郎はおとなしく座っていられない。
いとう:わかる(笑)。
平野:フラフラと出ていって、隣の部屋の女の子をからかったりしていたらしい。
いとう:(笑)
平野:そのあいだ、スタッフたちは必死に考えているわけですね。どうすれば岡本太郎の思想を実現できるだろうと。さんざん議論して、意見も出尽くしたという頃になって、太郎がフラフラと帰ってくるわけです。そして他人事のように「で、どうなった?」と聞く。
いとう:いいじゃないですか。
平野:説明を受けると、「へぇー、だったらこうしたらいいんじゃないか?」なんてまた他人事みたいに言って・・・
いとう:またいなくなる(笑)。
平野:そうです。でもみんなさんざん議論しているから、太郎の一言がトリガーになって、霧が晴れるようにゴールが見えてくる。
いとう:なるほど。
平野:このエピソードの肝は、太郎がいっさい指示も命令もしていない、っていうところです。
いとう:結果として若いアイデアを引き出しているわけですね。
平野:若者たちは自分のアイデアが生かされることに大きな喜びを感じたでしょう。自分も岡本太郎と一緒にこれをつくっているんだと実感するわけだから。
いとう:いいアイデアを提案すれば、採用される可能性があるわけですからね。
平野:クリエイターのモチベーションを引き上げるうえで、これに勝る方法はないですよね。
いとう:うん。
平野:それを太郎は無意識でやっていた。なにしろ実態は、せっかちだからおとなしく座っていられなかった、というだけですから(笑)。
いとう:すごくよくわかる!
平野:(笑)

いとう:ぼくも、とあるプロジェクトの会議をしているときに、けっこう偉い上の人から「いとうくんは30分が限度だから、それ以降はどこかにいってもいいよ」って言われたんで(笑)。
平野:(笑)
いとう:太郎さんはきっと、相手が誰であれ、その人の話を真剣に、新鮮に受け止めようっていう気持ちがあったんだと思いますね。
平野:ああ、なるほど。
いとう:「それは違う」とか言うんじゃなくて、「それもおもしろい、これもいい」って聞く耳を持っている人だったんじゃないかな。
平野:そうかもしれない。
いとう:自分のことを思い切りしゃべったあとには相手のことを聞くことができる・・・そういった岡本太郎の「聞く能力」ってあんまり強調されてないですよね。
平野:普段の創作プロセスでは、人の話を聞くことなんてないですもんね。だからおもしろがれたのかな?
いとう:そうですね。
平野:きっとあの仕事は、太郎にとってもおもしろかったんだと思いますね。なにしろあれだけの大型プロジェクトを、わずか2年8ヶ月でゼロからつくったわけですから。
いとう:本人はプロデューサーをやった自覚なんてぜんぜんなかっただろうけど、プロデューサーとして優れた仕事をしたわけですね。
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次回はいとうさんがプロデューサーとして意識することとは。
いとうせいこう⑩「愛されて育ったこどもが愛することを知っているみたいな、ね。」

いとうせいこう
作家・クリエイター
1961年、東京都生まれ。編集者を経て、作家、クリエイターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍。著書に『ノーライフキング』『見仏記』(みうらじゅんと共著)『ボタニカル・ライフ』(第15回講談社エッセイ賞受賞)など。『想像ラジオ』『鼻に挟み撃ち』で芥川賞候補に(前者は第35回野間文芸新人賞受賞)。テレビでは「白昼夢」(フジテレビ)「オトナに!」(TOKYO MX)などにレギュラー出演中。浅草、上野を拠点に「したまちコメディ映画祭in台東」では総合プロデューサーを務めている。